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The changing world ~変転する世界・転~


The changing world ~変転する世界~  

目を疑うべき話(Re ver)                 


目にモノ見せてやるべき話         



 続きから、ご覧下さい。







 それは、単なる偶然でしかなかった。
 歴史が歪められたが故の、偶発的な事象――本来、起こり得なかった邂逅。
 偶然などなく、悪意の者が敷き詰めた必然のままであったなら。
 その迷い込んだ標的は、もっと多くのアークスを殺し、戦場の意識を引きつけ、ひたすらに目的を達成する為の時間を稼ぐ、死せども素晴らしい動きをしていた筈だった。
 されど、短期間に武器の制限を解除するコードが広まり。
 被害を出すはずだったダーカー達が蟻地獄に吸い寄せられるように吸い込まれて消えていった。
 この想定され得なかった緊急状態において、せめて一人でも多くのアークスを殺すべきだと判断した、彼――情報を阻害する音波を放ち続けていた、ブリュー・リンガーダ――の判断自体は、決して誤ってはいなかった。
 その筈だった。
「――おやぁ?」
 そこで、彼女に、見つからなければ。


「あーはっはっはっはぁ!!」
 虐殺。
 その言葉以外には、何を当てはめてもふさわしくない現象が、そのエリアでは展開されていた。
 赤髪を振り乱し、死骸の山を建造中の少女。瞳が怪しく輝いて、顔には笑顔が張り付いている。
「ぼーっとしてると死んじゃうよぉ!」
 少女は、一人。敵は、多数。されど両手の武器からは未曾有の弾丸が撒き散らされ、瞬きの間に多数が少数へと変化する。
 無数の敵、その殺意に満ちた視線を浴びながら、いつの間にか守護から鼓舞へと転じていた旋律に乗って、楽しみに満ちた叫びを朗々と歌う。
「そうだぁ、それでいい!!」
 朱雀。ファイターとしての戦闘が主ではあるが、ガンナーとしては其れを越える超一流の実力者。
 が、双機銃を所持している際の彼女は、その姿から二つ名で呼ばれることの方が圧倒的に多い。
「愛してるんだぁ、君達をォォッ!!」
 ――『火器狂い(トリガーハッピー)』。
 色々と大事なものを蹴り飛ばし、吹き飛ばしてしまった彼女は、普段の澄ました様子からかけ離れすぎて完全に別人。狂笑に大半のアークスが距離を置き、そのせいで余計に遠慮も倫理も踏みにじってしまっている。
 そんな彼女から放たれる踊り狂った銃弾の嵐が、その戦場にいた何もかもを塵へと変えるのは必定。
 そして、動くものを追っていた火器狂いの目は。
「――おやぁ?」
 新たなる、巨大な――彼女にとって、最高に嬉しい――標的の存在を、その瞳に捕らえていた。


 例えばブリュー・リンガーダが出会ったのが、不死身とも称される男であったなら、勝てはせずとも、十分に時間は稼げた。
 死神と呼ばれる者であったなら、被害こそ殆ど与えられずとも、時間だけは稼げた。
 しかし。
「やるんなら本気でやろうか! その方が楽しいだろ、ハハハッ!!」
 楽しんで、殺す。
 それ以外何一つ見えていない狂者の相手では。
 時間も被害も、目的の両方とも達成できなかったとしても。
 なんら、不思議な事ではなかった。



「リーリーィー!! ラーピーピーィー!!」
 隔壁――何の前触れもなく発生した向こうと此方を分ける壁。
 向こう側に居る筈の仲間達に叫んでみても、返ってくるのは空しい自分の声だけだった。
 ――ど、どうしよう。
 隔てられて、かれこれ数分は経過した。
 必死に呼びかけた通信先からは、無音の沈黙が返るだけ。そういえば襲撃時から全く何も拾えてなかったことに、今更気づいても遅く。
 リユイを背負ったまま片手で思いっきり殴りまくっても、当たり前だけども、ビクともしない。
 ――ヴァントさんみたいに真っ二つに切れたら。
 そんな事を夢想して、挑戦して、泣きながらに諦めて。
 原始的な手段である呼び掛けに戻ったのが今し方。
 周囲にダーカーの気配は今の所ない――リリィとラピピが皆殺しにしていってくれたから――が、ダーカーの気配から逃げ続けて走ってきていたのだ。いつかは絶対追いつかれる。
「あーもう、どうしよー!?」
 ――こうなったら、あれだ! どっか隔壁空いてそうな所探すしか!?
 錯乱、混乱、冷静さなんて全部失った少年。
 隔壁による閉鎖などという、訳の分からない状態――『正史』通りに閉鎖された少年に、しかし。
『ユッキー、無事?』
「――くーちゃーんー!?」
 クーガからの連絡――『通信封鎖』など物ともしない特殊な連絡手段――という救いの光が差し込んだ。
「くーちゃんいまどこ! ていうか、どうやって連絡してくれたの?」
『まぁ落ち着けよユッキー』
 思わず深呼吸一つ。それから、思い出したように腕が痛くなってきた――ずっと背負いっぱなしな事も、今まで忘れてた。
 ベンチのような、リユイを横たえられる場所を視線だけで探しながら、改めて声を出す。
「ん、ごめんくーちゃんパニクってた」
『知ってる、細かいこと気にするユッキーはユッキーじゃない。それで、何があた?』
「あぁ、えっと――」
 促されて、ユキナミは起きた事の説明を簡単に伝えた。
 振ってきた瓦礫を防いで、リユイが倒れたこと。リリィとラピピが助けに来てくれたこと――隔壁で分断されたこと。
「――それで、隔壁空いてそうな所を探し回ろうと思ってたんだけど」
 これからしようと思っていたこと。一頻りをクーガに説明しきった後、適度に相槌を返してくれていたクーガからの返事は、
『待ってなさい』
 という、とても簡潔な一言であった。
「え?」
『サポパに言うから、ユッキーはそこで待っとくの。ユッキーがはぐれちゃったんだから』
 それは、この局面における間違いのない正着手であった。
 この分断は、隔壁の誤作動により造られたいわば一時的な物。いつかは解消され、問題なく中に入り込む事ができる。通信障害においても同じくだ。
 ただ、一つだけ考慮に入れるべき問題が。
「でも、ごめんくーちゃん。僕今リユイ背負ってて、せめてリユイだけでも安全な場所に逃がしたいんだ」
 背後で静かに呼吸を続けている、自身のサポートパートナーを見ながら、告げる。
 ユキナミの戦闘スタイルは、スピードと手数で押し切るもの。そこに少女一人を背負って戦うのは、速度と手数と防御力の全てを落とす、最悪の展開である。
「この付近に、なんかベンチでもあったらいいんだけど、見あたらないし」
 地べたに横にさせたくはない――汚い以前に単純に危険度合いが大きすぎる。
 どこかいい場所はないのか――必死に探しているユキナミに、
『緊急時の支援物資が置かれてるコーナーは?』
 クーガは至極さらりと、その答えを口にした。
 支援物資――コンテナ。市街地緊急時に備えて設置されている、アークス専用の物資が詰まっている箱。普通に開けても壊しても問題ないそれ。
 それらは大半、フォトンの隔壁によって防護されており、特殊なカタパルトや転送装置を使った場合にのみ入れる場所。
 言い換えれば、ダーカーの侵攻時にも、まっとうな防御壁で囲まれた、ほぼ何処よりも安全な一時避難所。
「――あった、あった! 間違いなくあった!」
『ゆ。ならそこで待つといいよ』
「ありがと、くーちゃん! 探してみる!」
 差し込んできた一筋の光明に、半分踊りだしたい気持ちになりながら走り出す。
 リユイを背負ったまま走ること、ほんの一分も経たぬ内に目的の場所――道の隅のほう、少し高台になっている場所に張り巡らされたフォトンの隔壁。
 ――あったぁ!
 周囲にダーカーも居ない、今が好機。辺りを捜索して、転送装置を発見。クーガに説明してもらってどうにか起動。中のコンテナいくつか並べて簡易ベットにしてしまう。
 そこにリユイを横たわらせて――ユキナミは、大きく息を吐き出した。
「ここなら、なんとかなるかなぁ」
『ユッキー、置いてある回復材もあったら使うと良いよ』
「おお!」
 頼もし過ぎるナビゲートに従って、コンテナを少しだけ開けて腕を突っ込み適当に取り出す。
「……あ、違うこれテレパイプだ」
『作動できたら大当たりだったよユッキー』
「しょうがないからもらっとくー」
 もう戻せないからと言い訳しつつ、残った物資もどんどん回収。結局広範囲型回復材が出てきたのは五回目のチャレンジだった。
 そんな暢気なことをしていても、気配遮断の効果でもあるのかダーカーが寄ってくることはなかった。
 

≪パァーッ!≫
 盛大なクラクション。
 鳴らされた先にいた人達があわてて道を空け、そこに滑り込むようにバイクが停車――
 ボロボロになったバイクから降りたアークス職員を見て。
「どうやら、上手く行ったようだね」
 彼の露払いをしていたイリスは、同行するリンに淡々とそう告げた。
「お怪我がなかったなら何よりですね」
 露払いは物の数分と掛からず、しかも最後にダーカーに追われていた分まで全部片付けて戻ってきた。元々大した距離を離れたわけでもなかったからだが。
<はい退いて退いて>
「はい、すみませんが通して下さい、アークス職員ですよっと」
 アークスへの通信と、一般人向けの二つの言葉を同時に放ちながら、彼が人込みに消えていく。
 其れを眺めること、一分も掛からずに、淡い光が広場の中心――緊急用テレパイプ――から溢れ始めた。
 周囲から歓声の声が上がり、拍手すら聞こえてくる。
<女性子どもから優先して乗せて行ってー>
「皆さんお待たせしました、前の人から順番に、順番に乗り込んで下さい!」
 またも二面的な言葉――その直後に。
<じゃ、また次行くから後よろしく!>
 人込みから彼が飛び出してくる。しかも、今まで乗ってきたバイクとは違う、別のバイクに跨って。
 そのまま颯爽と走り去っていく彼の姿に、イリスはただただ感嘆しきりであった。
「あれは凄いね、とてもとても早かったよ」
「救世主か何かでしょうかね」
 リンもまた、小さな拍手をしながら、そんな感想を零していた。
「にしてもバイク、中々格好良かったな。今度探してみるかな、惑星探索にも使えそうだ」
「舗装されてる市街地なら兎も角、地理によっては難しいでしょう――何よりダーカーの攻撃一発でおしゃかになる可能性が」
「……それはそうか、残念。将来、ほかの惑星でも使えるような奴が出ればいいんだけどねー」
「そこはアークスにがんばって貰って、ですね」
 数年後に本人達が加速するダッシュパネルなる物が開発される事をまだ知らない、アークス達の雑談であった。


「ふぃー」
 物資漁りを終えて、コンテナにもたれ掛かりながら地べたに座り込む。突然の襲撃で疲労負傷は激しいが、おかげで今日の夕食代は浮いた。
 ――後はリユイが起きてくれるか、リリィ達と合流できれば良いんだけど。
 内心で呟きながら、外側の光景を見て。
「くーちゃん、椿達来れそう?」
『今隔壁前で合流したらしい』
「そっか――それじゃ、休んでられないか」
 呟き、すぐに立ち上がる。
 フォトン隔壁の向こう側――どす黒い、とても重たい空気。それを放っている、見知らぬ巨大なダーカー達。
 丸々と太っている、巨大な鳥みたいなダーカー。長い尾と短い手足、頭とお腹それぞれにある顔。
 間違いなく新種のダーカー、ではあるが、それ以上に。
 ――ここの壁、壊されるかも。
「くーちゃん僕今夜鶏肉が良い」
『チキン?』
「揚げた奴!」
 くだらない会話をしながら、壁から外側へ。
 どう考えても厳しい戦になる――しかも、この数の差がある状態で、普段の全力――フューリースタンスのハイリスク版――を使ったら間違いなく死ねる。
 そんな状態で、三体と戦えと。
 ――リリィ達が来てくれると知らなかったらどんだけ絶望だったんだろこれ。
 あり得ない訳ではなかった未来を想像して、身震い。心へし折れた状態で、こんな奴らと戦わないといけないなどという最悪。
 ――それと比べたら、時間稼ぎなんて、全然楽な話!
「――リユイには近づけさせないよ!」
 ユキナミは巨大な鳥達へ向けて秋断を構えながら、力強く宣言した。


 すぐに後悔した。
 飛んできた攻撃を、前にして。
 氷のレーザー、雷の波、炎の雨――ほぼ逃げ場もないような全面攻撃。
 ――うっそぉ!?
 遮二無二回避して距離を取る――直後にまた飛んでくる遠距離攻撃。
 リユイを守ってくれている隔壁から離れるように逃げながら、内心で発狂する。
 ――無理無理無理無理!?
 空から降ってくる炎、横から飛んでくる氷、壁と化して迫ってくる雷――攻撃を仕掛けるどころではない。一撃でも食らったら、そのまま残りを叩き込まれて確実に死ねるレベルの攻撃ばかり。それが掠っただけだとしても。
 タンタンと小気味よく後へ下がりながら、静かに息を整える。
「くーちゃんくーちゃんヘルプヘルプ何こいつらー!? こんな太った鳥知らない、雷とか氷とか炎とか意味わかんないんだけどー!?」
『落ち着けよユッキー。それ新種って奴だよ』
「それ落ち着ける情報!?」
『ごめんよ』
「こういう時に素直に謝らないで助けてェェッ!!」
 軽口をたたきながら――助けを求めたのは冗談では全くないのだけれど――避け、逃げる。リユイへと意識は向けさせないよう、殺意だけは投げ続けて。
 ――いやでも実際どうすればいい、これ?
 激しさを増していく攻撃の雨霰。攻撃する隙が本当に見つからない――接近するスペースすら見当たらない。
『おいマグ、働けよ』
「フォトンブラスト――勝手にやってろって寝てます僕のマグー!!」
 肩あたりですやすや寝てるマグ――成長したら幽霊っぽい格好になってしまったマグを見て絶叫する。
 自分に似て気紛れなマグだから、初めっから期待なんかしてなかったけれども。
 ――いや実際これやばいって!?
 回避、待避を繰り返しながら内心で叫ぶ。
 手が打てない――本当に一切攻撃を加えられない。どころか、このままいけば援軍が来るまでに、自分が倒れてしまってもおかしくなくて――

 直後。
 思考を奪うように、真っ直ぐに追ってきていた鳥達が吹き飛んだ。
 その腹部に矢――霧散して消える、フォトンの一撃。

「――ユッキー、援護する! 来い!!」
 叫び声に振り返る――遠い、隔壁近くからの叫び声。
 ――リリィ!
 認識と同時に、走り出す。リユイから引き剥がし、自分も生き残る、最良の手段。
 背後を僅かたりとも振り返ることなく、ユキナミは一心不乱に駆けだした。




 ――よし。
 視界の先、僅かに見える少年と、標的――初めて出会うダーカー。ずんぐりむっくりに太った鳥が、三体。むしろ達磨とでも言ってしまう方が早いレベルだ。
 彼がこちらへ向けて駆けだしたのを見据えて、即座に矢を引き絞り――放つ。
 撃たせない、攻撃させない――向こうの攻撃手を潰し続けて時間を稼ぐ。
 パパパパッ、と反射的に引き、絞り、連射――放つまでの時間は刹那に等しく、放たれる矢は無尽蔵に。
 撃ち抜く先は鳥達の動き――振り上げた腕、放たれる炎、それらの起点。ダメージを与えるつもりではない、牽制と援護の為だけの射撃。
 後の仲間達も今は頼れない――誰よりも先に隔壁の先へ飛び込んだ、自分だからこそ。
 ――援護なんか、何時以来かなー。
 今までリリィが生き抜いてきた戦い――基本的に、リリィは射撃手でありながら、一人で戦い続けるスタンスを保っていた。
 正確に言えば、一人で戦い抜けるだけの強さを持ち得たとすべきか。誰かと共に戦うという事なく、一人で戦い続けていられるだけの実力があった。
 故に、はっきり言って援護は大の苦手である。敵の攻撃の邪魔をするように撃ち続ける前に皆殺しにしてしまう方が余程安全、かつ気楽だ。
 されど、今回はそんなことを言っていられる余裕などない。援護せずとも殺せるような標的でない――
 ――今はまず、ユッキーを確保しないと。
「そのまま急いで、ユッキー!!」
 千切れそうな指を必死に走らせながら、声を張り上げる。
 彼の実力は理解している――同時に、その限界についても。彼の本質は高速移動と処理速度――大型ダーカーの相手など、基本的には苦手な相手だ。
 それが三体。相性は絶望的なほどに悪い――敗北する未来は明確すぎる程に明らか。
 高速でこちらへと飛んでくる影。其れを追う巨大な鳥三匹――撃ち、撃ち、撃って。
 ――つっても、あたしも無理してるかもしんないけどさ!
 全てを狙った位置に直撃させながら、内心ではき捨てる。
 同エリアの相手を狙うのならばともかく、隣のブロック――相当に離れた相手に通常射撃を当て続けるなど、正気の沙汰ではない。
 其れを撃ち続けろと言うのだから、現状がどれだけ厳しいか否応なく理解させられるというもの。
 ――後、もうちょい!
 ユキナミの移動速度を認識しながら、必死に必死に撃ち続ける。
 フォトンの矢――大気中から無尽蔵に作り出せるとはいえ、正確には大気のフォトンを取り込み、放出するという流れを辿る。つまりは、体内のフォトンを矢として形作った後に、大気のフォトンを取り込むという事。
 結果的に、一時的ではあるが、体内フォトンが不足し始めている。
 ――やば、流石にキツいか。
 されど。
 目が眩む、腕が痺れる――放つ手は止めず。
 意識が薄れる、指が千切れる――標的は見逃さず。
 ――こんな所で泣き言呟いてたら、マスターから殺されるしねッ!
「そのまま――そのまま、ユッキー!!」
 叫んで、叫んで、矢を放つ。放ち続ける。
 それを追うように。
 しなやかな肢体が、リリィの横を駆け抜けた。
 地面を、瓦礫を、ユキナミの頭上すら飛び越えて。
「っ!!」
 その勢いのままに頭上からの大砲。
 一発は遅いが、その分威力は一本の弓より重い。加えて、
「マーガレット!」
 少女の叫びで、ビルの壁が思い切り弾け飛んだ。飛び散る破片は、横手にいた鳥達へ。
 ――前と、横からの攪乱。
 視界と、衝撃。予想外の妨害に、鳥達はそれぞれ足止めされて。リリィの真後ろからは銃撃の雨霰。
 一瞬の空白を縫うように、そっと肩口に止まったのは双機銃を撃ちまくる鳥ではなくタリス――淡い光に、悲鳴を上げていたリリィの肉体に力が戻る。
 ――レスタか。
 心の中で笑いながら、改めて弓を引き絞る。マンルーン、マーガレット、ラピピ、椿――仲間達の援護により、煙る視界の先、よろめいた標的達――これだけ舞台を整えられたのならば。
「マンルーン、マーガレット、あんたらも戻れッ!」
 吠え、矢を放つ――連続。
 ――最後まで保てよッ!
 足止め、足止め、足止め。必死に、必死に撃ち続ける。
 瞬時に空から飛来するピンクのマグ――マーガレットとマンルーンが呼んだ存在――に、背後に大砲を撃ちながら戻ってくるマンルーン。
 そして、一心不乱に走り抜いてきた、ユキナミ。
 土煙で鳥達の姿が覆われる中、彼らを目の前に見つめて、
「――おっけぃ」
 リリィは静かに呼吸を整えて、無理矢理に笑って見せた。

 ――とりあえず、小休止。
 スターアトマイザーを放り投げながら、必死に思考を回転させる。土煙がはれる前に、少しでも情報交換を、そして、行うべき行動を。
「――ユッキー、リユイは?」
「隔壁の中! しばらくは大丈夫だと思うけど……」
「ユッキーにしちゃ上出来! ラピピ、ひとっ走り――」
 轟、と吹き荒れる強い風――土煙が吹き払われる。
 弓を構えながら意識を向ける――依然無傷な、巨大な鳥達。
 悠然と佇みながら、はっきりとこちらへと殺意を投げてくる敵達を前に、小さく舌を打つ。
「――やってる場合じゃないか」
「ピィ」
「マンルーン、ユッキー、前お願い。椿はリユっちの方」
 返事はそれぞれ、行動は即座に。前衛二人は鳥達に向かって駆け、椿も迂回する形で電光石火の移動特化テクニックを発動していた。
 ――しっかし、入ってきた穴広げて逃げようと思ってたけど、とてもじゃないけど無理か。
 内心で呟きながら、ちらりと背後を振り返る。
 少し離れた先にある、物理的な隔壁――ユキナミ達と分断させられた例の壁――の中心に空いた小さな穴。
 椿の機転で突破できた隔壁の穴を広げての脱出を考えていたけれど、そんな時間はどこにもなさそうだ。
 とりあえず敵を皆殺しにしてから考えれば良い。
 まずは背後から援護を行って――

 ――ゾクリ。

 前方から、強烈な殺気と気配――思考を捨て、真横へと跳び退いた。
 刹那、リリィがいた場所を、巨大な影が電撃の速度で駆け抜けた。
 着地と同時に反転――そこにいたのは、対峙していた筈の巨大鳥。
 隔壁を背に、明確な殺意を持ってリリィを空から見下ろしている――インファイトの距離で。
 ――マジか。
 パリパリと、大気が弾ける音。空間が重くなる、ダーカー因子が強く、濃くなっていく。
 突撃の瞬間に感じたのは、雷の音――体表を走っている稲光から見ても、恐らく属性は雷。速度から見ても、距離を幾ら離そうが瞬時に詰められかねない。
 かつ、インファイトはリリィ自身が最も苦手とする距離。最悪――間違いなく最悪。
 ユキナミとマンルーン、ラピピとマーガレットは向こうの残りと雑魚達の相手に掛かりきりになるだろう――つまりはこの巨大な達磨と一人でやり合えということ。
 呆然としながらも、体は流れるように弓を構える。
 振り上げられる尻尾を見据えながら、脳内で静かに呟いた。
 ――あたし、帰ったら、新しいウイスキー樽開けるんだ。




「――ある程度片づいたかに?」
 スパァン、と小気味よくダーカーを切り裂きながら、凛が疲れも見せずに呟く。その言葉に頷きながら、ヴァントは軽く体を解した。
 周囲にはまだ多少敵の気配もあれど、あの大渦状態は消え去った。
 オーバーエンドの出力を押さえ込みながら、ヴァントは静かに呟いた。
「そのようだな。幾分、脆い奴ばかりで楽だった」
「千を優に越える数相手にしてその発言は流石すぎるに」
 ――さて、どうする。
 自身の体力は十分以上。凜が来てくれたことで、想定以上に体力を残せた。
 周囲に敵影はなく、市街地の混乱も高速に収まりつつある――とある一点を除いて。
 ――エリアG付近。
 今回の歴史改変における、最大の目的。
 ユキナミが、倒れた場所。
 さっきの緊急連絡で少し取り乱したが、何とか現状把握は出来た。
 情報――隔壁自体は、椿とマンルーンが向かってくれて、どうにかユキナミ達との合流には成功したらしい。
 が、そこに「見たことのない大型ダーカー」が出現した――という情報が、通信官の方からアークス全域に向けて放たれている。
 避難活動が最優先だとされてはいるが、チラホラと動き出している奴らもいる。
 そして、推測に過ぎないが――出現している大型ダーカー目指して走り出している奴らも又、当然存在するだろう。
 ――恐らくだが、一定以上集まってしまってもアウトだろうな。
 例えその中にヴァントと諷雫が存在しないとしても、かなりの数のアークスと、ヴァント・諷雫に連なる者達を消し去れるならば、十分以上に可能性はある。
 ――やはり、手が足りん。
 小さく嘆息。
 状況を俯瞰しての結論は、それだった。
 ヴァントが突撃できず、諷雫も一定以上は近づけず。多数が集まってもまたアウト。
 この状況で取れる手など、ヴァントには思いつかない。
 故に。
『――ヴァントさん』
 自身が知る限り最も情報を知り、かつ現状を打破しうる情報を持つだろう相手――戦闘中から既に連絡を投げておいた相手からの連絡。
<椿。どうだ、手段はあったか>
 待ちわびていた連絡に、二つ返事で言葉を返す。
 通信先、背後から響いてくる戦闘音が激しさを増している。一刻の猶予もない、とはっきり示している。
 ――如何なる手段をとっても構わないと伝えたが、どういった手を準備してくれたか。
 現状をどうにか出来る方法を考えろ――今考え直せば、どう考えても無茶ぶりでしかない指示だったが、それほどに切羽詰まっている現状。
 これでもし、何もなかったなら詰んだも同然だが――
『四機の特殊な機体――アークスが開発したばかりの、局地決戦用兵器の使用が許可されました』
 椿は静かに、明確に、言葉を紡いだ。
 其れが解答であった。
<――聞き慣れない名前だが、『今』役に立つものか>
『――はい』
 迷いのない返答。
 信じるに値するだけの。
『転送予定位置の座標を送りました。ヴァントさん含め四人、それぞれ向かってもらえば後はオペレーターが説明するとのことです』
 ――動かせる人間か。
「凜、すまん。もう少し付き合ってもらって構わないか?」
「もちもち! 印鑑くれたら」
「周囲を任せる!」
「ん、りょーかいに!」
 戯れ言を切り捨てつつ、自分の端末を展開――周辺のアークスの情報を入手する。
 ――……よし。
 端末を閉じ、即座に通信。
<ライサ、朱雀! 手伝って欲しいことがあるんだが動けるか!>
 ヴァントが知る二人に向けて同時に連絡。戦場の中、返答は即座に帰ってきた。
『あぁヴァントさん。問題はないですよ、こちらは片付きました』
『おや、ヴァント氏。構わないよ、なんだい?』
 ――よし。
<助かる、追って連絡する!>
 これで、三人――自分含めて四人。
 いかなる手段を準備したのかわからないが、後は向こうに任せるだけだ。
<椿、確保できたぞ。俺、ライサ、朱雀、凛だ>
『わかりました。個別に連絡が行きますから、よろしくお願いします』
 通信が切れると同時に飛んできた位置情報。
「にゃっ!?」
 見れば、掃討していた凛がなにやら声を上げた。向こうにも届いた――ならば朱雀やライサにも届いているだろう。
「――凛、いけるか?」
「あ、今のヴァントさんの仕込みに? 了解、行ってくるに!」
 片手間に殺し続けながら、小気味良い返答。そのまま駆けだしていく少女を見送ってから、ヴァントもまた目的地目掛けて駆けだした。




 ――本当になんなんだよコイツー!?
 ガガガガッ、と地表を覆い尽くす氷の波を必死に回避しながら、ユキナミは内心で吠え叫んでいた。
 隙が全然ない――というより近づけない。
 周囲への氷のレーザー、敵を中心にした地面から生える氷の槍――接近すら出来ない相手。空中でのスピードレインも撃ってる間に尻尾が降ってくる。
 かといって必死に逃げ回っていたら、何故か空から炎がガンガン振ってくる。必死に潜り抜けて接近できたらまた氷だ。冗談抜きで手がない。
 ――何でこんな沢山の属性使えるんだこいつ。
 周囲の助力は期待できない――というかマンルーンも無茶苦茶苦戦しているし、ラピピは必死に周囲の雑魚をけちらしてくれてる。これ以上を望むのは無理。
 自分の体と引き替えにならダメージこそ与えられる可能性はあるけれど、そもそも発動させる余裕もないし発動させる方がまずい。
 一匹たりとも殺せずに自分が死んでしまったなら、間違いなく残りの皆も全滅するから。
 泣き言も言えない――かといって攻撃もできない。せめて、もう一手、何かあれば――
 そんな、思考の最中。

<――発生! エリア――>

「うわぁっ!?」
 思考を吹き飛ばすような大きな音――今まで聞こえていなかった全体通信――に、ユキナミは思わず悲鳴を上げていた。
 何の前触れもない通信回復――聞こえていなかった時に必死に最大音量まで上げていたのが仇になった。
 一瞬だけでも、動きが歪んだ――当然、見逃してくれる訳もない。気がつけば、振り上げられた尻尾が、思い切り落ちて――
「――ピィィッ!!」
 真横からの銃弾の雨。僅かに軌道がずれる――紙一重で避けきって。顔をしかめながら、慌てて通信音量を操作。
 背後に飛びながら、窮地を救ってくれた戦友に声をかける。
「ご、ごめんラピピ!!」
「ぴぃっ!」
 気にするな、とばかりに敬礼するラピピ。そうして瞬時に雑魚掃討へと飛び立つのを見送って、ユキナミも意識を自分の相手に向けなおす。
 尻尾の一撃を外して、体制の立て直しに時間が掛かったのか、即応はしてこなかった。されど、またすぐにでも攻勢に出られる状態。
 ――全然きつい。マンルーン、大丈夫かな。
 相手に意識は向けたまま、さっと隣接して戦い続けているマンルーンに視線を投げる――

 そこにいたのは。
「――ッァァァ!!」
 ガガガガ、と隣で跳ね回る戦闘音――空で踊るサポートの少女。
 空気を足場に飛び回っているように、一度も着地することなく、敵の懐で戦い続けている。
 ほんの僅かながら見られた凄まじい戦闘風景に、内心で静かに呟いた。
 ――あれ、マンルーンあんなに動き回れたっけ?
 意識を相手に向けたまま――また氷を放ってきたのを避け、静かに思考を回す。
 ツインダガーを手に踊っているが、先ほどまでは大砲を構えていた彼女。テクニックの使用を除いて全武器を同時に使いこなせる特殊な実力者であり、ツインダガーが得意武器でもある。
 ただ、だとしてもあれほどのキレはなかったように思う。普段ユキナミが見ている動きよりも、明らかに鋭く、早い気がする――
<皆さん、大丈夫ですか>
 考えの合間に飛び込んできた全体通信。
 リユイの元に向かっていた椿からの。
<椿、リユイは!?>
 状況を把握するより何よりも早くに口をついてでた言葉。倒れたままだった少女の安否は、どんなことよりも早く知りたいこと。
<キャンプシップの方に移送しました>
<わかった、ありがとう!>
 飛び回り、避け続けながら叫ぶ。
 とりあえずリユイが無事であると確認できた。それだけでも十分すぎる程にありがたい。
<僕も急ぎ戻ります>
 ――……椿、戻ってきて大丈夫かなぁ?
 戦闘力皆無なサポートパートナーの発言に、そんなことを考える。
 真っ直ぐ走るだけでも蹴躓く、しかしその分思考回路と情報処理能力などの、裏方の仕事において恐ろしい実力を発揮するサポートパートナー。
 戦闘能力においては本気で期待できないけれど、其れを補って余りある支援能力――はあるけれど。
 そのかわりに、彼が直接狙われたら確実に死ぬ――其れぐらいに運動能力がない。
 ――とにもかくにも、尚更頑張らないと。
 着地と共に気合いを入れ直し、ユキナミは槍を持つ手を強く握った。



 ――んぁ?
 それは、この緊急局面において、予想もしていない人物からの連絡だった。
「メール?」
 しかも、何故か文章――口で話す方がよっぽど早いだろうに。
 自分の受け持ちは片づいたから、見る時間はある――判断してメールを開封。記されていた文章は、実に簡潔だった。
『転送させて頂きます』
 いや何でだ、というつっこみは意味を為さない。
 続いていたメールの文章に、改めて目を通す――
 ――……んんん?
 それはとても奇妙な、けれど間違いなく『依頼』だった。それがどんな意味を持つのか、何の目的なのかすら分からない。
 当然、結果など予想できるはずもない。
 ただ、分かることもある。
「おい、どうした?」
「悪い、余所の奴に呼ばれた」
 ――あいつの依頼なら、なぁ。
 何の意味も目的もなくこんな回りくどいことをする連中ではない。
 仕事の上でも結構関わっている――世話になってるし世話してる。
 ならまぁ、とりあえずはやるだけやってやろう。
「ここ片づけりゃ一息つけんだろ、悪ぃが行ってくるわ」「おいおい、何の事だよ、スゥ――」
 その男――スゥはパーティから離脱しつつ、依頼内容の遂行を目指して戦場を一人駆けだした。




 大通り各所に配置された、局地決戦用兵器。本来なら存在しない、アークスが知るはずもなかった切り札。
 そうして、配備されたそれらを前にしての反応は、四者四様であった。
「……良いじゃん、盛り上がってきたねぇ!」
 火気狂いは見上げて笑い、
「わーい♪」
 少女は嬉しそうに、オペレーターの指示も待たずに乗り込み、
「難しい操作とか、ないですよね?」
 一瞬だけ困惑を見せた仮面剣士も、しかし乗り込めば誰よりも早く発進準備を整え。

「――頼むぞ、皆」

 一番初めに乗り込んだ筈の蒼鬼は、誰よりも遅く前進を開始した。




 ――あとがき。
 最後の、その瞬間に向けて。
 物語は、続きます。
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