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The changing world ~変転する世界・承~



The changing world ~変転する世界~ 


目を疑うべき話(Re ver)             


目にモノ見せてやるべき話       



 物語は続きから、ご覧下さい。







 ――うわぉ。
<緊急ー、緊急ー!! デコルマリューダが一般人の近くに出現してる! 誘導、誘導!!>
<誘導員足りてないよー! 応援お願いー!>
 これは中々大変な瞬間に降りてきてしまったかもしれない。
 視界の右側奥でデコルマリューダと戦っているアークス達、左側で避難誘導と護衛に必死に立ち回っているアークス達。
 そんな頭が痛くなる光景を見つめて、リゼットは内心でただただ呟いた。
 良い気分で眠っていたのに何故か早く起きることになって。
 そしたら部屋が揺れた挙句に緊急警報だと言うから、片っ端から武器を引っ掴んで飛び出して。
 そうして降り立った先に待っていた光景が、これである。
 ――……寝てればよかったかなぁ。
 とはいえ、来た以上は仕事をするしかない。
 どちらを手伝うのがベストだろうか――
 そんな風に思いながら両方を見比べたときに、気付いた。
 一般人の避難誘導は、現状アークスが率先して行っている。その誘導してる人に混じって、なんか小さい子供がウォンドを振っていた。
 周りの真似をしているのか、避難誘導しているのか分からないが。
 ――どう考えても君も避難する側でしょう。
 内心で呟きながら、リゼットはその子にそっと近づいて、背後から抱き上げた。
「みゅ!?」
「ほら、あなたも避難する方――」
 言いかけて。
 そして、気付いた。
 ――あ。
 思いっきり顔見知りだった。
 人よりも明らかに背が低い幼女の、クーガ。見た目は明らかに幼女であるが、実際はベテランアークスである。
 見た目は幼女で、誰がどう見たとしても、避難すべき側であるが。
「……あ、ごめんクーちゃん」
 抱き上げたまま、ゆっくり下ろす。
 気まずい空気が流れるも、他に取れる手段などなかった。
「――――」
 彼女はこっちを振り向いたまま、数秒ほど固まって。
 うる、っと顔が歪んで。
「みぃ――――!!!!」
 そのままダッシュで市街地の方へ駆け出した。
<あ! 子どもが一人ダッシュで市街地に! 誰か>
<ストップ、あの子は大丈夫! あの子優秀なアークスだから!>
<うそぉ! あんなちっちゃいのにー!?>
 彼女が去って行った方角から、みぃー、と泣き声が響いてきた――これも聞こえてしまったか。
「……悪いことしちゃったなぁ」
 至極至極珍しい泣き顔を見たのを面白くも申し訳なくも思いながら、リゼットは彼女の抜けた穴を埋めるために避難誘導を開始した。




 キィンッ、と鍔鳴り音が響き渡って。
「――終わりです」
 死神が刀を鞘へと納め。
 正面のデコル・マリューダの首が飛んだ。
 灰に消え逝く頭が落下と同時に霧散して、だるま落としのように体がザァッと崩れさっていく。
 それを確認し、ライサは小さく吐息をはいた。
「全く、どういう厄日でしょうね」
 死神のお面を取らぬまま、軽く頭を振る。手傷はないが、流石に疲労が貯まってくる。
 新人にスパルタで教えるつもりだとヴァントから連絡を貰っていなかったら、こうして愛刀を携帯する事もなく、もう少し手こずっていただろう。
 ――現在地はC6。さて、どう行きましょうか。
 北西側――エリアD方向を振り返る。
 少し離れた地点で、蒼い剣状の何か――建造物を超える高さ――が激しく暴れているのが見えた。
 ライサが知る限り、あんな光景を作り出せるのは一人だけ――無尽蔵のフォトンを有する、放浪者ただ一人。
 ――ヴァントさんが居るなら、あの周辺は大丈夫。
 初めて出会った頃を思い出しながら、内心で呟く。
 彼は確かに優秀なアークスだが、普段の戦闘能力は相当に高い、にすぎない。身のこなしは一流だが、それだけだ。体質のためか、カグダチ以外の武器は数度使えば、彼が有するフォトン量に耐えきれず故障するらしいから、実質大剣しか使えない。第三世代としてはありえぬ状況。普段においても、訓練場等での模擬戦では、大抵ライサが勝利する。
 されど、今回のように、周囲を一切気にせずに『全力』で暴れられる場合――評価は全て覆る。
 彼の真骨頂は、人の枠組みを外れた膨大なフォトン量と、倒したダーカーの因子を喰らい尽くし、自身の中でフォトンへと変換してしまえる事。
 初めて出会った砂漠での殲滅戦で、敗色が濃厚になりつつある一つのエリアに現れたが最後、オーバーエンド――通常の其れを遙かに越える巨大な――の横薙ぎ一撃で、戦況をひっくり返したのは今も尚忘れられない。
 ――何より、今回は全てがダーカー。
 倒せば倒す程に、自身へとフォトンが回帰――途切れることのない永久機関。独壇場だ。
 となれば、あの周囲に向かうべきではない。間違って巻き込まれたら面倒だ。ならば――

「――サケサケサケ!」
 パァン、と巨大な炎弾が炸裂したのは、思考を纏めた瞬間だった。
 思わず、そちらを見やる。少し離れた位置で、杖を持った小さな幼女――しかも見覚えのある――が、ブンブンと、何故か半泣きでラフォイエを撃ちまくって――
 パァッ、と。虹色の光柱が立ち上ったのは、その僅かな後のこと。しかも、複数の。
 ――PSEバースト、しかもクロス!?
「――ゆ?」
 涙目のまま、少し不思議そうに首を傾げて、幼女が動きを止める。
 瞬時に、百鬼夜行もあわやとばかりの膨大なダーカーの群。
 最早、次の行動は決定した。
 ――どうにか、上手く行けば良いのですが!
 心の中で叫びながら、ライサは愛刀の鍔に手をかけた。




「――こりゃスゴい状況だねぇ」
 緊急警報によって、探索に出ていた状況から慌ててとんぼ返りに帰ってきた低身長女性、イリスは、降り立った戦場の状況を見つめ、ただそうとだけ呟いた。
「――えぇ、本当に」
 同じパーティメンバーであり、傍らに立つ長身の女性、リンも同様のコメントを呟いた。
 降り立った先に有ったのは、紛れもなく破壊された町並み――されど。
「……一般人が大半無事なのが凄いねこれ」
 イリスは呟き、遠くにある広場――緊急用のアークスシップ内への転送装置がある――を眺めていた。
 ざわざわと――けが人ももちろん居るけれど――集まっている、たくさんの一般人。それを守るように立つアークス達の姿。
 途方もない破壊跡にも関わらず、殆ど死者のような何かは見られない。勿論、見えてない所で死んでいる人はいるだろうけれど、目に見える死人はいない。周辺に殆どダーカーが見られないことも相まって、随分と不思議な状態である。
〈今最後の角を曲がった、予定通りこのまま直線のルートを行く!〉
〈もうすぐだ、だから頑張れ!〉
「パニックになっている人が少ないからでしょう。誤った先導や孤立が通信を聞く限り殆どありませんから」
 今、二人が到着を待っている避難集団もそうだ。
 アークスが守ってくれると分かっていても、平静でいられない一般人は多い。むしろ、それが当たり前のはずなのに。
 アークスだって、普段と違い確実な情報ではなく周辺状況しかないのに。
 考えつつも、周囲にダーカーが出現する端から撃ち抜き、叩き潰し、予想より遙かに早く来た集団を迎え入れる。
「ここからは我々も広場まで同行します」
「助かる!」
 リンが告げる間に一般人の人数と怪我の具合を確認して――イリスは信じられないことに気づいた。男と男の間に守られる女性の、腕の中。
「すー……」
 ――寝てる!?
 視線に気づいたのだろう、寝ている赤子の母親が恐縮したように頭を下げていた。リンも驚きに目を見開いたが、すぐに感心したように頷く。
「強い子ですね、将来が楽しみだ」
「普段は子守歌がないと寝れない子なんですが」
 その一言が、合図になったように。
 イリスとリンは、その旋律に気づいた。
 ――唄?
 初めからその場所に流れていたかのように、自然と聞こえてくる旋律――心へとすっと染み渡る、とても心地よい唄。大丈夫だよ、と、そんな風にも謳っているような。
 しかも――
「――これ、単なる唄じゃないようだね」
「そうですね」
 イリスの気付きに同調したようにリンが頷く。
 彼女達の周囲、だけではなく、先にある広場全体、その外まで、簡単に見える範囲のフォトン。そのほぼ全てが、暖かい光を放っていた。
 傷ついたアークスにも、疲れ果てた人達にも、平等にフォトン達が寄り添っているようにも見える。
「――なんだか凄いね、フォトンが唄ってるみたいだ」
 ダーカーの出現と同時に破壊する護衛行動は止めないままに呟く。
「これは、テクニックですね。こんな術式は聞いたこともありませんが」
 彼女自身に出来たかすり傷が回復していくのを見つめてリンが言うのに、イリスはただただ肩を竦めた。
 市街地エリアへ響き渡る、その唄。
 もし、唄が聞こえる範囲全てに、防御と回復の支援――そのような真似が出来るのであれば。
 それはテクニックの範囲を超えた、奇跡に等しい話。
「フォトンを介してるとは言え、これは途方もない力ですね」
 心からの感嘆と、僅かな羨望を込めて、リンは小さな声で呟いていた。




「――死ねぇぇぇぇ!!」
 ガガガガガガ、と薬莢をまき散らして咆哮。
 有象無象のダーカーを光へと消し飛ばし、ひたすらに機関銃を回し続ける。
 粗方、銃弾を吐き出し続けて――
 ――……こんなもの、かな。
 動く影が一つもいなくなった戦場跡。朱雀は小さく嘆息し、機関銃から飛び降りた。
「全く、厄日だなぁ」
 ――ヴァント氏からの訓練要請なかったらヤバかったかなー。
 内心で呟きながら、辺りを見回す。
 手ぶらだったところを、彼からの連絡でとりあえず間に合わせのツインダガーを持ってきていたから、どうにか思い切り戦えている。もしなかったら、ひたすらに逃げまどう羽目になっていただろう。
 ――実際、支援がなかったらかなりやばそうだし。
 孤軍状態の朱雀に寄り添う、普段より強い光を放つフォトン。幾度か経験してるから分かる、耳を澄ませば聞こえてくる旋律。
 空から降ってくる、聴く者の体と心を癒してくれるこの唄。体中にできた擦り傷は完治して、折れそうになる心に力を与えてくれるもの。
 今日だけではなく、今までに何回か、朱雀はこの唄を聴いた事があった。
 戦場に響くその唄は、其処に立つ全てのアークスに力を与えてくれる。
 一人じゃない、と歌詞までは分からないのに伝わってくる旋律は、どんな劣勢であっても活路を導き出す力になってくれる。
 それは、今この時であっても、例外ではなく。
 ――とりあえずここは片づけた。結局フォトンキャノンまでは要らなかったし。さ、どうしよ。
 辺りから全ての敵が消滅している事を再確認し、次へ向けて思考する。
 アークスとして戦うのを応援してもらっているのに、安全な場所へ逃げる事など、考えにすら入らない。
 ただ只管に前を向いて、この最悪の戦場を切り抜ける為に――
 ――!
 其れは、ただの直感。不意に、朱雀は空を見上げた。
 壊れた空と、赤黒の光――その中で、朱雀は見つけた。
 世界に唄を投げかける、一人の歌い手と、其れへと向かう宵闇の軍勢を。




 彼女は一人だった。
 この辺りで比較的高いビル、周囲を一望出来る場所で。
 黒い煙と赤い炎、点在する黒い化け物と逃げまどう人達がはっきりと見える場所で。
 計算され尽くされ、建物同士が人工日光を遮ることなく適度な広さを感じさせていた姿は見る影もなく。
 破壊と悲鳴と嘆きで壊されたセカイは、目を背けたくなるもので。
 それでも彼女はここに来た。
 セカイを壊す存在から人々を守る為に。
 セカイを狂わす存在と戦う者達の為に。
 彼女は一人で謳い始めていた。
 彼女の周囲のフォトンが波のように広がり、まず緑と青の帯が人々を取り巻いた。
 ――彼らは味方。いなくなる必要のない命。
 彼女は祈り謳う。人々が速く逃げられるように、闇の魔の手に少しでも侵されないように。
 彼女は願い謳う。戦う者達がもっと速く動けるように、傷つかないように。
 ――護る為に守護の詩を謳います。
 緑と青が、黒を退け始めた。
 彼女は一人で謳っている。
 フォトンがその詩に惹かれ、セカイを塗りつぶす悪夢を消す為動き出す。
 段々と人々が安全な場所へたどり着けば、セカイに赤のフォトンも加わり出す。
 戦う者達が武器を使えるようになれば、赤のフォトンが彼らに更に力を与え出す。
 セカイが黒い悪夢を斬り裂く術を見つけ、彼女と一緒に謳い出す。
 彼女は一人で謳っている。
 彼女はセカイと謳っている。
 黒い化け物達が彼女に気づいても、彼女は構わず謳い続ける。
 化け物からすれば、彼女は源泉。
 壊し汚すべき、フォトンの源泉。
 大小問わぬ鳥達が、彼女に襲いかかる。
 一体ならば雑魚でも、群れがたった一人に向かって突貫する姿は地上の者から見れば黒い竜のようで。
 ――彼らは敵。私のセカイを傷つける敵。
 彼女は高い場所、最も狙われ易く最も迎撃しやすい場所で、化け物達に視線を定めた。
 ――退ける為、かまいたちの詩を謳います。
「来ないで下さい!!」
 瞬間、彼女の詩が変化した。
 彼女の周りを緩やかに踊っていた、周囲を漂っていたフォトンが風となり、群へ襲いかかる。
 普通なら、大した威力もない斬撃。
 けれど、化け物達は拒絶の意志を伴う突風にバランスを崩し、次々と高度を落とす。
 結果、
「喰らえぇ――!!」
 彼女の動向を見定め、フォトンキャノンを構えていた少女の砲撃ですべて塵に還った。
 青い光が収まり、彼女は礼を込めて再び最初の詩を謳い出す。 
 彼女は一人で謳っている。
 けれど、彼女は決して一人じゃない。




「しかし、凄まじい物ですね」
 避難民の受け入れに一区切りが着いた頃、唄は音楽と呼べるものにまでなっていた。
 けれど、リンが感嘆を込めて呟いたのは別のものについてだ。同じく、隣で待機を続けていたイリスもまた、其方を見ながら声に応じた。
「――あそこ、一体何体集まってるんだろうね」
 広場の外周付近で、ダーカーが襲撃に来ない事を見張りながら、広場とは違う方向――市街地エリアの中心付近。
 平時なら、買い物客や店の活気で賑わっているだろう通りにはしかし、宵闇色の渦が出来ていた。視認しきれない、おぞましい量のダーカーが溢れ返っている、その現場。
 まるで生有る物を喰らい尽くす、ブラックホールのような形状である。
 ダーカーを除く一切が存在できないだろう、その中心地点に、しかし。
「その中で暴れている、あの光は」
「……ヴァントさんだろーねぇ」
 その渦を切り裂くように飛び回る、、巨大な蒼刃。いつか見たことがある、ヴァントが扱う技――オーバーエンドとは呼べない戦略兵器より酷い何か。
 地上から生える柱が右往左往する度に、次々とダーカーがフォトンへと掻き消され――また即座に埋め尽くされる。
 時折見える赤い光は、恐らくウォークライという所か――何で数ブロック離れた先まで見えるのかは知らないが。
 軽く見積もっても数百は超える数を引きつけているだろう状況に、イリスは感嘆の吐息を吐いた。
「唄もそうだけど――彼が居なかったらどうなってたか分かったもんじゃないね」
「ですが、どうにも状況がよいわけではなさそうですね」
 今度は広場の方に目を向けて、リンは静かに言葉を紡ぐ。またもイリスは頷いた。
「……まさか、転送装置が動かなくなるなんてね」
「通信設備の不具合は流石に予想外過ぎます」
 特殊な待避用テレパイプ。こういった有事に備え、市街地エリア含む殆どのエリアに整備されてある其れが、なぜか今日に限って動かない。
 手動で動かす手段も有る――とは聞いているものの、その起動方法なんぞ、一般のアークスが覚えている筈もなかった。
 比較的若い新人のアークスがかかりきりになっているが、どう動かすかすらも分かって居なさそうだ。
 自分達も同じだから、何も言えないけれども。
「……研修生時代にぽろっと言われただけだしねぇ」
「流石に思い出せませんね」
 個々のアークスの市街地での役割は戦闘。逃げ遅れた人の救助などは行うが、通常の場合は護衛も避難もアークスの職員――後方支援員が行うものなのだ。
 通信障害の影響で職員が殆どいない状況下、一般人は避難者の関係で増え続けるから、当然護衛に必要なアークスも増えていく。
 付近のダーカーの殲滅は終わっているが、このままずっと出現しないとは限らない。
 また、想像するのも難しいが、中央で暴れる彼が倒れたが最後、彼が引きつけてくれていた全てが溢れ出す――当然、ここに来る可能性もあるのだから。
「私達の転送を使えれば良いんですけどね」
「キャンプシップまでは戻れるがその先が駄目だから、まさに八方塞がり――」
 答えの出ない相談を続けていた、まさにその時であった。
<――エリアB側のアークスへ連絡! 今転送装置起動出来る人がC5から移動中!!>
「お」
「おお」
 リン、イリスが共に聞こえた言葉に、小さな呟きを零した。
 アークス専用の回線を使っての連絡――放った存在は、間違いなくアークスか、後方支援員のどちらか。
 他にも聞いていた護衛のアークス達が、顔に安堵の色を滲ませた。
<単身で移動してるから露払いしてやってくれ>
「C5から来るなら」
「あちらですね」
 二人して、その方角を――ダーカー渦巻く中心街ではなく、少し入り組んだ別の道を見つめる。
 此処からアークスが大量に離れる訳にも行かないけれど、二人組が駆除に走る位なら、別段問題ないだろう――即座に避難民を護衛しているアークス達に通信を飛ばし、二人は駆け出していた。




 ――さて、次は、と。
 目の前で霧になって消えていくプレディガーダには目もくれず、朱雀は次の自身の行動について思考を開始した。
 歌い手の傍に誰かがたどり着いたのを確認してから、雑魚が居そうな箇所目掛けて走り回っている。
 この辺りの目ぼしい所は全部回って、片っ端から殺しつくした――その過程で、持ってきた武器の大半は使い物にならなくなっていた。
 ――あの髭に壊されてなければァァァ……。
 恨みを込めて、内心で呪詛を呟く。
 ほんの数時間前に、武器の強化ラボでドゥドゥに強化を求めて数多のグラインダーと共に差し出した武器群。
『素晴らしく運がないな、君は』
 の一言と共に全部がなまくらになって帰ってきた――しかも、予備用の武器まで纏めて。
 その時の事を思い出したら怒りしか湧いて来ない――頼むから死んでいてほしいとまで思う。切実に。
 ――おかげで市販武器持ってくる羽目になったし。
 アークスの武器ショップで買える、本当に脆い武器。間に合わせにも程があるのに、其れを使うしか手がない。
 せめてどこかに使える武器でも落ちていたら――オーナー登録もされてないような奴があれば本当にベストなのに。
 ――まー、そんな偶然がある訳――

「――撒くど、武器撒くど!」

「……んう?」
 少し先から聞こえてきた、よく分からない叫び声。其れも多分知ってる幼女の声。
 ――武器?
 訳が分からないままに、とりあえず駆け出してみる。
 道の角を曲がった先。なんか色んな武器を撒き散らしている、知り合いの幼女を見つけた。
 何をしてるのか、問い正したくなった朱雀は。
 しかし。
 ――……あれ、は?
 撒き散らすのを止め、何か葛藤するように首を傾げる幼女の仕草。
 その手にあった、とある双機銃――つい先程ポンコツにされた物と、まったく同じ武器――を見て。
 ゆらり、と、其方へ向けて歩き出していた。
 ――ハハハハッ! 面白くなってきたねェ!
 心の中、誰かの笑い声を聞きながら。



 時間はほんの僅かに巻き戻る。
「――それでは、私は別の場所へ向かいます」
「わかりました、お気をつけて」
 フォトン達のお祭りが落ち着いた後。
 お祭りに飛び込んできた死神さんの発言に丁寧に答える。
 消えるような速度で走り去っていくその人を見送りながら、クーガは次に自分が取るべき手を考え始めた。
 ――ゆー。えーと、確か。
 諷雫の方はひとまず問題なさそう、先ほどまでは一人だったが誰か別のアークスと合流できたようだ。
 避難についてはクーガではどうしようもない、というか誘導しようとしたら逆に抱え上げられそうになった。
 次の優先度高そうな物――中でもクーガ自身ができる手助け――を探して。
 ――武器!
 市街地で突発的に発生したこの緊急事態。最初から市街地にいたアークス達は、まともに使える武器が殆どない状態で戦っていると聞いた。
 戦況を確認すれば、人数の割にダーカーの数が減ってない箇所がちらほら。
 ――これ!
 即座にテレパイプを起動、キャンプシップへ戻り倉庫の中身をじゃんじゃか詰め直して、ついでに回復関係のアイテムも袋詰めして転送座標を直接入力。
 ――飛び込んだ先は戦場。
 即座に広域回復材――スターアトマイザーを散布。
 戦っていたアークス達全員を回復させて、同時に注意を引きつけた。
「緊急事態により、武器の配布を行います」
 そうして、ポイポイとアイテムパックの中身を放り投げる。
 もう使わないと思っていた、たくさんの武器――希少価値がそれなりにある物。
 周りのアークスのクラスを確認しながら、使えそうな武器を次々と。
「え、えぇ?!」
「良いの! 返せないかもだよ?」
 ――むむっ。
 分からずにやるわけがないのに――そんな不満を、戦場というのも忘れて抱けるのがクーガである。
「迎撃体勢を整えたアークスから順次応戦して下さい」
「……嬢ちゃんありがとよー!」
「おまえら反撃いくぞ! やられっぱなしで舐められんなよ!」
 周囲のアークスが口々に叫んで、近くの武器をそれぞれ持ってダーカーの群に突っ込んでいく。
 粗方を放り投げたら、大体皆に武器は行き渡ったようで、周囲から殆どのアークスの姿は見えなくなった。これくらいで良さそう。
 だったので、本当は使いたかった台詞を口にした。
「『武器撒くど、武器撒くど! 戦(いくさ)せー、戦(いくさ)せー!』――ゆ?」
 手にした、投げるフリをしたのはツインマシンガン――ヤスミノコフ。つい持ってきてしまったが、これはダメだ。ガンナーになった時に使うと決めている。
 無自覚だったが、クーガは幼子の外見にふさわしくちょっとだけ持っている武器を自慢したかった部分があった。こんな状況にも関わらず。
 だから、この後起きたことはきっとそんな幼子への罰だったのだ。
 ゆらり、影が差したのでクーガは振り向いた。
 凍り付いた。
 よく会う知り合いのアークスが、赤い髪が綺麗な守護霊獣の名を持つ女性がいた。


 そして二人の時間軸が、完全に一致した。
「くーちゃん、仲間外れはよくないなぁ。僕もいいよねぇ?」
 幼女を見つめる女性は、なんか目が暗く笑ってた。
 格が違う。
 名前と動きで、クーガはそれを知っていた。もう、この後の展開はクーガにも分かってた。
 でも、それでも。いじらしい思いで必死に、珍しく必死に言葉を重ねた。
「あ、あのね、これね、ドゥドゥたんがね、強化してくれたの」
 それは最早、命乞い。
「へー」
「とっても難しいのに、すぐ強化してくれたの」
「あ、そうなんだー」
 知らなかったのだ。目の前の女性がその強化に失敗して愛用武器がゴミくず同然にされてしまったなんて。
 ス、カチ。
 手が伸びて、ツインマシンガンが女性の手に渡って、マスター登録が完了してた。
「――じゃぁ頑張ってくるからねぇッ!」
「ノー!?」
 それは、本人達以外には観測されなかった、完全なる略奪劇。



『ん? 被害が少ないな……なら、少し早めてみようか』



「――っねぇぇぇっ!!」
 バババババ、と高速で放つフォトンの矢の嵐。出現しようとする核を、既に活動を開始している蟷螂の頭を、地を這う蜘蛛の群を、全て一撃の元に葬っていく。
「ぴぴぃっ!!」
 黄色い影が戦場を縦横無尽に、神出鬼没に飛び回りながら、あちこちで火花と鮮血が花を咲かせていく。
 目に見える大体の敵を撃破したと確認し、リリィは静かに背後を振り返った。
「ユッキー、いけっかー!」
「だ、大丈夫ー!」
 少し後ろへ離れた所に見える少年と、それに担がれている少女。気丈に叫び返してきているが、遠目で見るだけでも、どうにも顔色が悪い。
 数ブロックとはいえ、ひたすら走らせている――しかも人を抱えさせて――のは少々無茶があったか。
 ――とはいえ、後もう少し。
 開けた道の先を見やる。今まで走ってきた道は崩壊が激しく、走りにくいことこの上なかった。が、視界の端に見えるエリアから先は多少被害がマシ。そして、町外れから住宅地エリアに入るから、転送装置もどこかで見つかるだろう。そうしてしまえば、二人まとめて転送装置に放り込んでしまえば良い。一番安全な脱出手段。
「ユッキー、もうちょいだ! 頑張れー!」
 言いながら、ラピピと共に前へと駆け出す。
 一体でも、ユキナミ達を害する可能性があるダーカーを皆殺しにするために――
 刹那。

《緊急事態! 緊急事態! 緊急事態!》

「ひゃっ!?」
「ぴぴ!?」
 耳を劈く警報音が鳴り響き、思わずリリィはラピピと共に足を止めた。
 周辺の音響機器全てから――壊れているそれからも――唐突に鳴り響いた其れ。何が起きたのか、一瞬分からなかった。
 そして、それは後方のユキナミも。
 リリィが振り返った先には、目を白黒させて周囲を見ているユキナミが居た――足が止まっている。
「ッ、ユッキー! ごめん、急いでこっち来て! 何が起きるかわかんない!」
「あ、ごめん!」
 慌てて、ユキナミが走りだそうとして――

《緊急事態! 緊急事態! 隔壁を生成します!》
 ほんの僅かな地鳴りと共に。
 音一つ無く、ユキナミ達との間に、光の隔壁が出現し。
「えっ」「えっ」「ぴ?」
 驚愕する間に、フォトンの間に物理的な隔壁もが出現し。
『……えっ……?』「ぴ、ぃ……?」
 壁の向こう側と此方側。
 完全に隔たれた二つの場所で、リリィはラピピ、そして向こうのユキナミと共に、そんな事をつぶやいていた。




「――ッァァ!」
 ――思ったより量が多いか。
 次々とダーカーをフォトンへ溶かしながら、ヴァントは小さく舌を打った。
 ノンストップで流れ来るダーカーの波に呑まれぬように立ち回っているせいか、普段以上に衝撃が激しい。
 定期的に放つウォークライで、全てが命を取らんと襲いかかってくる状態であり、一瞬の油断も許されない。
 先ほど、偶発的に援護に来た知り合いのアークスも今は別の場所へと散っている。不用意な攻撃を貰うと、確実にアウト。
 ただ。
 ――とはいえ、そろそろ終わるか?
 倒す端からフォトンに還元して喰らっている為に、動き回る体力が怪しいが、オーバーエンドの持続時間はまだまだ余裕がある。
 その点を踏まえても、周辺の敵の数と自身の残存体力であれば、ギリギリで残存体力の方が上回ってくれそうだ。
 ――時間的に考えれば、解除コードの配布と避難誘導は終わりつつある筈。
 戦闘開始からの時間を逆算しつつ、頭の中に現状を展開する。
 自身のいるエリアを中心とした四方2エリアの円内部のダーカーは全て皆殺しに出来る――これが後五分程。
 リリィからユキナミと合流したとの連絡は少し前に届いたから、そちらは何とかなる。避難の鍵である転送装置の起動についても手は打っておいた。
 諷雫のウタも、余りにも激しくフォトンを行使するヴァントへの効果は薄いが、途切れていないということは問題なく生きているということ。クーガは心配するだけ無駄だ。
 クーナのライブ会場の付近からの情報はない――問題がない事を祈るしかない。他の、連絡をしておいたアークス達も改変前の状況ですら生き残ったのだからと信じるしかない。
 ――ここで俺が崩れなければどうにでもなる。
 思考を締めくくった、その刹那に。
「――ヴァントさーん!!」
 どこか聞き覚えのある、少女の呼び声と。
 北東の方の壁がぶち破られたのは、全くの同時であった。
 剣舞を続けつつ、意識だけをそちらに向ける。
 紅黒の波を破壊して飛び込んできたのは、漆黒の髪を靡かせる、一人の少女――凛。
「大丈夫にー?」
 双剣を振り回して周囲を細切れにしつつ近づいてくる少女に、ヴァントは軽く頷いた。
「なんとかな。助かった」
「ヴァントさんの助けになったなら何よりに! ついでにこの紙に印鑑突いてくれたら」
「そっちは未来永劫諦めろ」
 軽口を交わしながら、斬撃を振り回す。
 壁のように迫り来るダーカーの群れを片っ端から吹き飛ばし、更に――呼気を整え、前に。
「――オォォォォッ!!」
 一閃。
 地表から建物一つまでを覆い尽くす『斬撃』の壁。
 汚れをイレイザーで落とすが如く、光が走った先に存在した全てがフォトンへと回帰する。
 空を飛ぶ者達すらフォトンへと喰われた事を見てか、広場へ流れ込むダーカーの動きが緩んだ――それは許さない。
「――どうした、腰抜けどもァ!」
 叫び、微弱なフォトンをまき散らす――ウォークライ。
 他の場所には行かせない――凜には少々迷惑をかけるが、ここまで来たら一蓮托生だ。
 どのみち、自分が下手にこの場所から離れる訳にも行かない。せめて、ユキナミとリユイの無事が確保できるまで――

『マスタァァァッ!!』
 ――?!
 脳内に響き渡った、リリィの叫び。直接通信。
 余りにも緊迫した其れに、思わず叫び返していた。
<なんだ、なにが起きた!?>

『なんか隔壁出てきて分断されたんだけどー!?』

<――は?>
 通話向こうから聞こえてきた言葉に、思わず呟きを投げ返す。
『言葉のまんまー!! むしろどーなってるのさー、何でこんなとこに隔壁出てんのさー!? ユッキー達隔壁向こうに閉じこめられちゃったんだけどー!? あーかーなーいーしィィッ!!』
 大混乱を来す通話向こうの声を聞きながら、迫りくる敵を作業的に消しながら――
 ――あの野郎……!
 ヴァントは胸中で呪いの言葉を吐き捨てた。




 ――あとがき。
 歪めた者達が黙って見過ごすほど、その意志は生優しくはありません。
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Author:ヴァント
 PSO2世界を旅する、気楽な放浪者の綴り草です。
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