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四月の花嫁






 物語は、続きからご覧下さい。





 晴れやかな空の下、全てから祝福される白の花。
 想う人、その大切な一人から贈られた幸せのドレス。
 青空を舞う鳥達が高らかに旋律を奏で、重くも美しい鐘の音色が旋律に色を加えていく。
 ――とても、綺麗……。
 とある控え室の中、純白の衣装を纏い、空を見上げている少女は、そっと掌を空へと向けた。
 ――あなたも、見てくれてる?
 開かれた窓の向こう、遠く晴れた澄んだ空。その彼方に居るだろう弟を想い、そっと瞼を閉じる。
 たった一人だけの家族――種族が違っても、家族と呼べるのは彼しかいなかった。今日までは。
 ――ちゃんと、最後まで見ていてね?
 言葉にならない声と一緒に、少女――クーナは静かに微笑んでいた。




 この始まりが何時からだったのか――それは、きっとクーナとしての出会いから。
 そんな風に想ってしまうのは――
『――綺麗な歌だな』
 きっと、初めてかけられたその言葉が、余りにも優しくて、嬉しかったから。
『……邪魔したか?』
 アークスシップの片隅で、気配を消して歌っていた、誰にも気づかれることのない場所で。
 誰にも見つけられなかったわたしを、彼は当たり前に見つけてくれた。
 驚きながら――心臓が跳ねた感覚も、まだ覚えてる――少し、嬉しさと恥ずかしさを覚えた。
 それからも、いろんな所で。
『……君か』
『……どうして、あなたには見つかるんでしょうね』
 弟を捜している間も、色んな星を渡っても尚も見つけてくれて。途中からは、弟探しを一緒に手伝ってくれて――最後の瞬間まで、ずっと隣にいてくれた。
 そう、して。
 弟を送って。自暴自棄になって。もう全部終わって、静かに眠ろうって、そう思っていた時に。
『――俺は、逝かせたくはないな。それで、君が静かに眠れるとしても』
 彼が。
 彼だけが。
 『わたし』を。
 「アイドル」でも「始末屋」でもない、『クーナ』を抱きしめてくれた。
 きっと、その時からずっと、ずっと。
 ――わたしは、彼が好きだった。




 コンコン、と響くノックの音。
 そっと椅子から立ち上がり、窓を閉じる。
「クーナ、いいか?」
 優しい呼び声。これから、ずっと一緒に過ごす事になる想い人の。
「うん、空いてるよ」
 ドアが開いて、彼が姿を見せる。
 いつもの放浪服ではない、純白のタキシード。着こなす、なんて言葉にはほど遠く。
 いつもの泰然とした様子は欠片も見えない、浮ついた様子だった。
「どうしたの? 落ち着かない?」
「……まぁな。どうにもこの服は落ち着かん」
 憮然と呟く彼に、クスクスと笑う。
「やっぱり」
 何となくわかっていた彼の答え。そうして、彼が手持ちぶさたに頭に手をやる――何気ない、いつものこと。

 今もずっと、彼が好きなまま。
 初めて自覚した時みたいに、大きな花が咲くような勢いはないけれど、もう咲いた想いが枯れることもないように、こうしてゆっくりと続いていくのだろう。
 彼に貰った想い、彼と共にあることで生まれた感情。
 彼と一緒に生きてきたことで、初めて知ったことなんか、本当にたくさんあった。
 任務以外で過ごした旅路。一緒に作って、一緒に食べる食事。
 町中で、普通のカップルが過ごせるような、二人だけでのデートとか――掛け替えのない、二人だけの時間。
 そんな彼から貰った、わたしがいる今、生きている今。
 生きられなかった筈の、生きている筈が無いはずの、眩しい程に綺麗で幸せな、暖かい未来。


「……それに、どうにも緊張するものだな」
 憮然としたまま彼が言う。
 よく見ずとも、体の動きが堅いし、手が少しだけ震えていたり。動作もどこかぎこちなく、視線も部屋中を迷っていて。
 いつもは見れない子犬みたいな姿に、思わず口元が綻んでいた。
「あはは、それはわたしも一緒だよ」
 彼の様子のおかげで、多少解れてはいるけれど。
 こんな一面を見ているだけでも、暖かい気持ちが胸の内側から溢れてきた。
 ――本当に、こんな日が来るなんて。

 モルモットとして、使い捨てられる暗殺者として生まれさせられた。
 子供の頃はずっと、怯えながら強がって、誰にも見せなかったけれど誰よりも泣き虫だった、本当に小さくて弱い子供だった。
 それは、彼と出会うまで、彼が隣に立ってくれるまで。
 多くの人と関わってきた訳じゃない、親しい人もそんなにいない。
 その中の一人が、その中の一番が彼だったことが、本当に嬉しく思えた。
 彼と出会ってから、嬉しいことも悲しいことも、ケンカしたり言い合うことだってあったりしたけれど、何よりも、本心で生きられるようになった。
 心から、笑えるようになったから。

 ――本当に、本当に。
「ねぇ、あなた」
 緊張で、わたしを見れていなかった彼を呼ぶ。そっと椅子から立ち上がって、音を立てず、彼のすぐ傍に。
「ん?」
 ふわり。
 陽気の隙間から入り込んだ風で、遮光カーテンが大きく広がって。
 この後のクーナの行動を、他人には絶対見えないようにしてくれて。
 ああ、絶対来てるななんて確信と共に彼に口付けていた。
 彼が氷結したように凍り付く。それを面白く思いながら抱きしめる。
 そうして、クーナは満足するまでキスをして。唇を離し、微笑みかけながら囁いた。

「大好きよ。『あたし』も『私』も、『わたし』の全てで貴方を愛してる」

 今更な事かもしれないけれど。
 いくらでも聞いてほしい、何度だって伝えたい言葉を。



 彼から貰った想いや感情は、みんな、とてもとても暖かくて、優しくて。
 この、小さな胸じゃ、きっと抱えきれなくて。

 ――いいの? 私が抱えてるもの、とても重いよ?

 一人じゃ、抱えきれない想いがあった。
 一人だけじゃ、耐えきれなかった時があった。

 ――構うか。君に支えられて、俺が支えられない道理もない。

 そんな時に、隣にいて、抱えきれなかった何かを一緒に支えてくれた。
 耐えきれなくて終わらせようとしたわたしの命を、彼は一人で救ってくれた。

 ――いいの? 『私』でも『あたし』でもない、『わたし』で生きていても、いいの?

 一人だけで、生きる理由もなくて。
 一人だけじゃ、生きていくこともできなかったから。

 ――迷惑なんぞ幾らでもかけろ――君が笑えるようになるのなら、幾らでも。

 一人だけじゃなくて、隣で生きると言ってくれた。
 二人一緒に、生きていくことを選んでくれた。

 ――ありがとう。本当に、あり、がと――

 弟と命令しかなかった、歌うことが好きなだけだった。
 あなたのおかげで、沢山のことを知って、欲しいモノが出来た。
 そんなあなたといられる日々が、これからずっと続いていくことが、今日、約束される。

 幸せになるからね――幸せにするからね。

 だから、一生、これからずっと。
 わたしの隣で、ずっと、笑っていて――




 ――刹那。

「ピピィーッ!!?」
「え、え、きゃっ!?」
 叫んで、起きて。
 気がつけば、抱きしめて、口付けをしていた筈の彼の姿は影も形も消えていて。
 そのかわり、可愛らしい見知ったラッピーと、いくつもの照明器具の光に照らされていた。
「ぴ、ぴー!!」
「……えっと、クーナちゃん、大丈夫?」
 辺りをくるくると見回して、必死に意識を回転させる。
 綺麗な椅子に腰掛けて笑っている、純白の花嫁姿でいる自身。後ろには、教会を模して作られた撮影セット。
 正面にラピピ、その向こうに幾つも設置されたライト、カメラ――
 そうして、気付いて、思い出した。
 ――ウエディングドレスのモデル撮影やってたんだこれ!!
 アイドルとしての仕事の一環。結婚式場のPRの為の花嫁の写真を撮る為に、ここに居る。
 大丈夫? と小首を傾げているラピピに、不安そうな困惑気味なカメラマン。空想――というか妄想の中に入り込んでしまっていたみたいだ。
 ――……夢、かぁ。
 壁際の時計を見る感じだと、数分程度。短いのに、とてもとても幸せな夢だった。
「ぴー?」
「あ、ごめんねラピピ。大丈夫、ごめんちょっとボーっとしてた」
 ラピピの呼び声に、慌てて想像から現実に戻ってくる。
「クーナちゃん大丈夫? 疲れてない?」
「大丈夫だよー、ごめんねカメラマンさん。ちょっとボーっとしちゃってたみたい」
「なら良いけれど……モデルさんなんだから、健康には気を使いなさいよ? 折角綺麗なお肌してるんだし」
「勿論、ありがとー。ん、大丈夫!」
「そう? それなら再開するわね!」
 ――気を使ってくれる良い人なんだけど、なんでほんとオネェ言葉が似合うんだろこの人。
 パシャパシャとシャッターが切られる中、そんな事を思い――そうして、僅かにだけ、意識を夢へと戻す。

 ――……本当に、今は夢でしかないけれど。
 暖かくて、心地よくて。
 何よりも、何よりも、心から感じた幸せの感覚。



 ――大好きよ。これからも、ずっと。

 今はまだ言葉に出せない想いを、心の奥で呟いて。
 クーナは彼を想い、ただそっと微笑んでいた。





 ――あとがき。
 もうゴールデンウィークだってよ。
 書き始めたの2月の末だってよ。
 大半書き上げたの投稿日だってよ。
 ……何がどうしてこうなった。

 今回の物語「四月の花嫁」を読了頂きまして、ありがとうございました。
 元々は二月末に発表されたある方の曲から発想を得て、幸せな話を書きたいなー、から始まり。最終的に夢落ちで落とすという、なんとも言えない物語になったかと思います。
 実際には夢ばかり幸せばかりでもないというのは通説ですが、この世で一番幸せでなければならない『花嫁』なのですから、どれだけ幸せであっても許されるだろう、と思います。

 それでは、またの物語でお会いできますことを。

 使用曲:『二月の花嫁』(ちんまりP)
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