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わたしがここにいたりゆう






 とある存在、その理由。
 ※EP3-7のネタバレ含みます。




「泣かないで、笑ってて――……」
 崩れて、光へと消えていく少女の言葉。
 自らが刺し殺した、世界の中でたった一人、愛して、愛された少女の笑顔。
 溶けていく、消えていく少女に駆け寄って、触れることなく少女は消えた。
 楽園のように美しい花畑の中心――少女が自分を待ってくれていた場所に、呆然と立ち尽くす。
 これは嘘だ、夢だ、幻だ――そう叫ぶには、その手に残った最後の感覚が、何一つ消えることはない。
 ――ふざけるな。
 何が、愛している、だ。何が、大切に思うだ。
 ――こんな結末を。
 世界より大事だった彼女を、殺した奴が。
 ――マトイがいない未来を。認めろというのか。
 花畑の中心。彼女を殺したその場所に、一つ残った最後の武器――
 世界を救い、彼女を殺した、Dセイバー。
 その内側に脈打つ、紅黒の輝き――世界を壊しうる其れに、躊躇いなく手を伸ばす。
 手に吸いついたその刃から、闇を飲み、喰らい――そうして生まれた『仮面』は、躊躇い一つなく世界を跳んだ。
 彼がマトイを殺す際に、手助けをして消えていった『仮面』の歴史をなぞるように。




 あれから、どれほどの時が経過したのか、もう思い出せなかった。
 幾つもの時間軸を見てきて、言葉すら残せない程の絶望を幾つも味わった。
 どれほどの時間を跳ぼうとも、彼女が生きていられる、否、彼女を助けられる歴史が存在しなかった。
 ――俺が出会った『仮面』が見てきた記憶、その中にすら。
 一番初めの――世界が全て、深遠なる闇と化したマトイに壊されて、たった一人だけ残った世界で、彼女の想いに従って彼女を愛し、殺しきった始まりの『仮面』から。
 何度も、何度もやり直して。何度繰り返しても、救えないことを理解しながら消えていった先代の『仮面』の記憶まで。
 何度の時を巻き戻っているのか分からない位、無数の時間を舞い戻ってきた、その全てを受け継いだ。どんな闇の中にあっても全てを切り開いて、彼女が生きていける、そんな世界の為に。
 絶望的だと泣き言を言う前に、前に進んできた。見つけ出す為に、何度だって繰り返し続けて――

『――私と共に来い、私よ。彼女に安らかな終焉を与えるために――』
 ――あぁ、あの時のあいつもきっと――
 残された力で、最後にたどり着いた、一つの世界線。
 薄汚い布を羽織った、自分とは到底似つかない自分である放浪者。
 それでも、他に手はなかった。
 世界に存在するありとあらゆる、自分が知っている全てを巡った。
 彼女が苦しむ前に、壊れ果てる前に最後の安らぎを与えようと裏から舞台を整えて――
 結局、彼女を生かす道は見つけ出せなかった。
 ――なんて、無様な。
 全ては繰り返し。この時間軸の私が、どのような選択をするかはわからない。
 けれど、全ては分かっている。分かりきっている。この男は、どう足掻いても私なのだ。
 マトイが深淵なる闇と化したと聞いたときの憤激を、救う術がないと知った時の絶望を、昨日のように覚えている。救われないことも、助からないことも、何もかも。
 どれほど心が折れたのか、そんな事、吐きそうな程に知っている。
 そうして、ここで此の提案を呑むしかないことも――


「――何言ってんだお前? 頭狂ったか?」


 ――……は?
 帰ってきたのは、救いようのない愚者を眺めている軽蔑の視線だった。
 ゴミを見る目というか、汚物を見る目というか――少なくとも見下している目であることは間違いなく。
 仮面の下で、思わず瞬く。二度見する。
 自分と同じ骨格をして、自分と同じ顔をして、自分と同じ程度の強さである筈の男が、心底馬鹿を見る目を向けている。
 ――……は?
『――お前、私の話が理解できているか?』
 訳が分からず、問いを投げつける。
 確かに、今まで見てきた、どの私とも性質は違う奴だ。
 だが、ここまで頭の回転が弱い奴ではなかったと思うんだが――
「分かってるよ――それが何だ?」
 心底馬鹿にしている眼差し。
 ――こいつは……。
 されど、決して今を見ていない訳ではない――この、目の前にいる私は、塵一つたりとも、諦めてなどいなかった。
「あいつが深淵なる闇になった。ならば助ける、それ以外に何がある」
『――ふざけているのか』
 ――馬鹿か、馬鹿なのか。

 晴れ渡った晴天の如き、心地よいまでに明確に放たれた言葉に、思わず声を荒らげた。
 どれほどの時を越えてきたのか。
 どれほどの絶望を見てきたのか。
 貴様に何が分かるのか――
『現実を見ても、まだ貴様はそう叫ぶのか!』
 少女の体は深遠なる闇に飲み込まれ、世界は滅びへと進み始める。
 何回も、何十もの仮面が受け継ぎ、覆すことができなかった歴史。
『彼女も死を望んでいる! だからこそ、十年前に彼女は自らの手で命を絶った――絶とうとした!』
 一度として覆せなかった、最悪の歴史。
『――彼女を救うため、全てを尽くし、時を越えて全ての可能性を探し尽くした、愚かで無様な存在――其れが私だ! どれだけ願おうと無駄! 私の力では、彼女を助けられない!』
 仮面が存在する、意義――其れを、全身全霊で、吼え叫ぶ。
『其れなのに、貴様は――私は、それでも諦めないというのか!』
 返事は、刹那に。
「当然だ。あの馬鹿の想いを曲解してんじゃねぇよ」
 迷いを至極あっさりと切り捨てる。
 諦める――そんな言葉がどこにある、と言わんばかりに。
「諦めてない奴が何をほざくか――俺を切り捨ててでも先に進まない時点で、いい加減に気付け馬鹿野郎」
 もう冷えきって冷えきって、絶対零度といっても過言ではない目線。
 ――あぁ、こんな目が出来たのか、自分は。
「俺にあいつを助ける事を諦める理由はない。深遠なる闇? 知ったことか――どんな手を使ってでも、あいつは取り戻す」
 目の前の私が、言い放つ。

「お前もアイツを救う為に、此処まで生きてきたんだろうが」

 魂を奮わせる、仮面で隠した心の奥底にまで響いてくる、その事実を。
 ――あぁ、そうだ。そうだったな。
 先代の手を取る前の、仮面になる前の、自身にとっての始まり。
 あの世界の仮面の手をとって、彼女を深遠なる闇と共に滅ぼして。
 泣かないで、笑ってて――そう、最後の願いを託されて。
 其れなのに、其れなのに、彼女の意思を塗り潰しても、彼女を助けたかった。
 マトイに、生きて欲しかった。彼女が幸せになる、そんな世界が見たかった。
『――貴様は……私は……』
「其れに、アイツを助けたいのは俺だけじゃない」
『――何?』
 彼が、小さく指を鳴らす。其れに合わせて、後ろの道から、数人の足音が聞こえてくる。
 其方へと振り返りながら、言葉を紡いだ。
「俺の知り合い――マトイの友人だ」
『貴様! 何故、貴様以外を呼び出した! そんな奴らが、何の役に立つ!』
 されど、この時代の私は、顔色一つ変えずに言い放った。
「お前一人、俺一人で何が出来る。たかだかダークファルスとアークス一人で全てが解決できるなどと、思い上がるな」
『な――』
 ――助けを、請う?
 言葉も無い。そんな選択肢、自分には存在しなかった――他の誰かと共に、などと。
 他人など、マトイを守る何の役に立つのか。そう切り捨て、彼女を守るためだけに戦い続けてきた。
 自身も、それ以前の仮面達も――
「お前も来い。マトイを助けたいんだろうが」
『――――』
 二の句が告げない。訳が分からない。
 仮にもアークスが、ダークファルスを誘うのか――他のアークスを巻き込んで。
 そのアークス達が、仮面を殺さない理由など、どこにもないのに。
 そんなことは有り得ないとばかりに、そのアークス達を信じて歩き出している。
 ――信じられん。
 内心は困惑と、疑惑で溢れている。当たり前だ。されど――不思議と、反発や警戒感は微塵も生まれてこなかった。
 彼は振り返る事無く、真っ直ぐに歩き出している。こちらを――DFを、微塵たりとも警戒せずに。
 自分だけでやる気だったのならば、問答が拒否された時点で切り捨てる、又は帰ればよかった。
 にも関わらず、こうして最後まで話を聞いていた以上――彼の言うとおり、自分もまた。
 ――毒を喰らわば皿まで、か。
 仮面は静かに肩を落とした後、その背を追って、同じように歩き出した。




 ナベリウスの森――この世界の自分自身と話をした、その近く。
 森の中に一人残され、仮面は切り株に腰掛けたまま、今まで起きていたことへの理解に意識を向けていた。
 ――何故、あいつらは、俺に攻撃しなかったんだ。
 この世界の自分が言う、マトイの友人とやら。間違いなく、アークス達であった。
 にもかかわらず、このダークファルスである自身に対して警戒はしても、一切の攻撃を仕掛けようとはしなかった。
 ――そして、全員が、マトイを助ける為に動いている。
 信じられなかった。こんな世界が有り得るなどという事が。
 マトイを深遠なる闇と捉えず――あくまでも友人の少女を助ける為に、アークス達が行動する世界が。
 ダークファルスを前にしても敵対するどころか、目的において仲間だと認識するような世界が。
 ――私は、私達は、何をしていたんだろうな。
 かつて、アークスとして存在していた時。
 周囲の人間は、マトイと生きていく上で何の意味もない存在だと思っていた。
 成り行き上助けることはあっても、マトイと共にアークスとして活動を開始してから、マトイ以外の人間とは関わらなくなった。 
 私だけでなく、かつての仮面達も、間違いなくそうだった。
 そうやって戦い抜くだけの力が、私達には有ったから。
 ――されど、こうして助けを求められる相手もまた、私達には居なかった。
 マトイが深遠なる闇に、飲み込まれた際も、自分一人だけで動いた。動いていた。
 即時抹殺――深遠なる闇に飲み込まれた存在に対する対応としては、それが当たり前の話。自分以外、誰一人として信じられるわけが無い。
 当然、自分の元に駆けつける者などいなかった。
 ーーだが、あいつは違う。
 呼んだと言っていたが、その前からきっと彼らは協力する事を決めていたのだろう。そう思えるほどの信頼や信用が、彼に対して向けられていた。
 それだけの関係を、この世界の私は築いていた。
 今までの私達とは違う。
 戦闘能力は、間違いなく今までの私達より強い――にも関わらず、周囲とも共に生きている。
 ――……こんな可能性が紡げた、とはな。
 内心で呟き、そうして、ゆっくりと立ち上がる。


 ――それでも、やはり、届かない。
 ナベリウスの地へと深遠なる闇、マトイを短期間に封じ込め、その隙に、この世界の自分がマトイの下へ突撃し、連れ戻す。
 彼らの使う手順は、大体理解した――しかし、最大の問題への対処方法が存在していない。
 ――深遠なる闇を、どうするのか。
 恐らくはマトイから引き剥がし、ダークファルス・エルダーの時と同様闇をナベリウスに閉じ込める――そんな発想なのだろう。
 短期間の封じ込めの際に、大量のフォトンを流し込み、無理やり潰す。もしくは、ナベリウスの地に封印する――
 ――無理だな。
 はっきりと、確定させる。そんな未来は、ありえない。
 今まで仮面が見てきた世界に於いて、シオンがマザーシップに残り続けた歴史もあった――そのシオンですら、マトイから深遠なる闇を引き剥がす未来を、見つけ出せなかったのだ。
 ――この世界の私は、自分が全てを飲み込もうとでも考えている事だろう。
 そうして、マトイが生き、この世界の私が死ぬ。
 あぁ、間違いない。逆の立場であれば、確実にそうしていた。
 しかし、封印と吸収を同時に行った所で、未だ届かない。届くならば、シオンは絶対にやらせていた。
 彼らだけでは、届かない――だから。
 思考の直後、仮面はその場から掻き消えた。



 見届けさせてもらうぞ。私よ。




 初めから、分かってた。ずっと、覚悟はしてた。
 自分は、みんなの為に死ぬ。二代目のクラリスクレイスとして戦っていた時から、ずっと理解してた。
 クラリスクレイスとして、立派に戦って、最後まで戦って、そうやって死ぬんだと。
 二代目のクラリスクレイスとして、最後まで諦めず、皆の為に戦って死ぬのだと。
 ――なのに。
 あの襲撃の時、彼は隣に居てくれた。
 最後まで諦めないで、私の名前を呼んで、生きてくれと願ってくれた。
 ――どうして、あなたは来るの?
 そう、それは、今だって。
「――すまんな、遅れた」
 アンガ・ファンタージを纏って、全力で戦って。
 本当に、殺すつもりで戦っていたのに。

「――迎えに来たぞ、マトイ」

 ――どうして、あなたは、私の傍に来てくれるの?
 地上に落ちた体が、ふらふらの手足を使って、立ち上がる。
 闇に犯された身体が、何一つ躊躇わず、変質したロッドを、彼へと向ける。
 あなたを殺す、そう告げる動作に、しかし彼は静かに笑ったまま目を閉じた。
 殺す気は無い――撃つなら撃てと。
 深遠なる闇に飲まれつつある肉体が、刺し殺しうる先端を、彼の頭に向けて――

「――ほんと、あなたは、優しすぎるよ」

 マトイが、其れを下ろした。
 顔を隠していたバイザーを解く――漠然と見えていた彼の顔が、その姿が、はっきりと見えた。
 全身血だらけで、いつもの外套は淀んだ赤に染まっている。
 顔には新しい裂傷が入って、真紅が滴り落ちていた。
 ――私のせいで、そんなに傷ついたのに。
 彼は静かに笑っている。怒りなど、何一つ感じさせない、明るい笑顔で。
「私はもう覚悟してたのに、手が、止まっちゃったじゃん……その優しさ、残酷だよ」
 本当に、彼は優しすぎる。
 ――そんな彼だから、生きていて欲しい。
「真っ黒い闇に包まれてる間も、あなたの声は、届いてた」
 言葉の間に、力を紡ぐ。
 彼が助けに来てくれたのに、私の意志で其れを拒絶する。
 ――彼がいれば大丈夫、そう思えるのに。
 感情は、彼が居るならなんとでもしてくれるって叫んでる――それでも。
「だから、出てこられた。これが、正真正銘最後のチャンス――キチンと、やり遂げなくちゃ」

 もっと早くに出会えていたら、もっと早くに気付いていたら、違う未来もあったかもしれない。
 そんな物、かもしれない、でしかない。

 生まれ落ちてから、今までずっと。自分で決め始めたのも、彼と出会ってからでしかなくて。
 最初から決まっていた。クラリスクレイスはみんなの為に死ぬ。
 マトイとして居られた時間はきっと、シオン達が用意してくれた贈り物ーー世界にとっては幻でしかないのだとも思うから。
 ――でも、わたしはそんなこの世界が、この世界で生きるみんなが好きなの。
 与えられたみんなではない。
 降り立った星、自分と関わってくれた人、それら全てに連なる命すべて。
 みんなの為に、その為に、自分の命だって投げ捨てる。
 それが、私。私が生まれたその理由。
 だけど、それでも。
 ――やっぱり、怖い、な。
「……もう、とめられない。深遠なる闇は、私の内に顕現してしまった。でも、今此処で私が死ねば、深遠なる闇を閉じ込める事が出来る。其れで終わり、其れでお終い」
 声が震える。意志がぶれる。何もかも投げ出して、彼に抱き付いて、助けて、そう叫びたくなる。
 ――それでも、最後まで。終わりまで、やり遂げなくちゃ。
「だから。優しすぎるあなたに、できないのなら。わたしが、わたしを――」

 タン、と杖を地に――陣を展開。彼を吹き飛ばし、同時に空へと飛び上がる。
 どんどん、心が闇に食われていく。其れを全部、体の中から吐き出して。
 杖を空へと放り投げ――現実が、歪みだす。空の一点が漆黒に飲まれ、世界が変質し――
 両翼を広げた、アンガ・ファンタージが生まれ落ちる。
 大きく咆哮を上げた其れが、丸いエネルギーを生成した。人を跡形もなく消し飛ばすのには、十分な。
 生まれ、即座に崩れ逝くアンガ・ファンタージの全エネルギーを持って放たれた弾丸を、真っ直ぐに見つめる。
 ――あぁ、これで。
 自分の内に生まれ落ちた、深遠なる闇。其れを間違いなく殺し尽くせる、闇の衝撃。
 ――私は。私、は――
 迫り来る其れに、瞼を閉じる。
 走馬燈のように、感情が溢れ出す。
 助けて。お願い。やめて。こんなの嫌だ。
 怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。死ぬのが怖い。死にたくない。消えたくない。一緒に、一緒に、生きていたい。
 それら全てを切り捨てて、残った想いに殉じる。
 ――それでも、あなたが生きてくれる、なら――
 これで終わり、これで、お終い――

「――ふざけるなァッ!!」

 影。
 衝撃――来ない、衝撃。
 声。
 誰の、声。
 彼の、声。

 ――え――
 瞼を、開く。
 空の、手前。マトイの、寸前。
 影――灰色の外套。
 ずっと隣に居てくれた、彼――世界なんかより、もっともっと大切な、彼が。
 私を殺すエネルギーの前で、必死に、壁となって、私を守って――
「ダメだよ! あなたも、巻き込まれちゃう!」
「――誰が、やラせるカァ!」
 変質していく、彼の声。闇を飲み込み、封じ――その分だけ、彼が壊れていく。
 私を、助ける、その為だけに。
「ッ、この、わからずやっ! 邪魔しないで、これは私が望んでやってることなの!」
 叫ぶ。泣き叫ぶ。吼える。
 ――なんで、なんで!! 
「私は、与えられてるだけだった! なんで、みんなを守りたいのか、その理由がわからないまま戦ってた! ……でも、今は違う! 十年前とは、違うの! わたしは自分で考え、自分で思ったの!」
 ――なんで、なんであなたが死なないといけないの!?
 絶対に正しい、同時に変わらない本心。
 建前なんかじゃない。それが生まれた理由で、この選択を選んだ理由ーー。
「みんなを守りたい、みんながいる世界を守りたい! ……ううん、そうじゃない」
 模範解答、そんなものに動く彼ではない。
 それなら、こんな所まで来なかった。
 自分だってーーそれだけだったら、ここまで苦しんで、それでも選んだりできなかった。
「あなたを……あなたのいる世界を、守りたい! あなたを、守りたい、って」
 ――あなたに生きて欲しいから! あなたが、幸せに生きて欲しいから!!
「だから、だからね。私は何も……怖くない。なにも怖くなんか、ないんだよ!」
 嘘。でも、貫かないといけない。
 お願い、止まって。そのまま逃げて。
 ーーあなただけは、失いたくないの!
「――――!」
 言葉にならない、彼の声。
 受け止めたまま、決して退かない彼。
 飲み込まれる――球体に、飲み込まれる。
 彼が、死ぬ。私の、せいで。私の、せいで。
 彼が、居なくなる。
 ――嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ、やだやだ、やだ、やだぁ!
 叫ぶ、心で、心の中で。
 どうして、なんで、なんで、なんで――

『ならば、何故泣く』

「――え?」
 彼と同じ――違う、もっと深くなった重みの有る声。
 自然と、顔が其方を向いた――
 彼と私だけだった世界に、一人。
 私の、手放したクラリッサを持っている誰かが、ただ一人、其処に居た。




 ――やはり、こうなったか。
 深遠なる闇の力に巻き込まれ、飲み込まれている、この世界の自分を見やる。
 同時に、その後ろで泣き濡れているマトイも。
「――――!!」
 深遠なる闇に飲み込まれながら、されど彼の瞳は現実を映したままだ。
 全てを諦め、彼女への救いだと勝手に思い、楽な手段を選んだ私とは違う。
 確実な方法などなくとも最後まで足掻き続けると、奴は全身で叫んでいる。
 全知が不可能だと諦めた結果に、意志だけで立ち向かい、捻じ曲げようと足掻いている。
 ――……全く。いい道化だな、私は。
 マトイの涙を見れば、本当によく分かった。
 否、彼女を殺したときから、本当はずっと分かっていた。
 彼女の、本心は。
 もっと、生きたいと。
 死にたくない、そう叫んでいたことを。
 ――あの時は、守れなかった。彼女が生きる未来を、信じることが出来なかった。
 だから。
 だから、こそ。
 ――今、この時に、全てを果たす!
 クラリッサを天に掲げる。黒の領域で転がっていた、彼女の武器。
 これが、全てを解消する為の、マトイが生きられる世界を紡ぐための、最後の鍵。
『起きろ、クラリッサ! 否、シオンよ!』
 杖の先端に、輝きは無い――されど、知っている。
 幾星霜の時を渡った、自身だからこそ。
 マトイを助ける、その為だけに、無限に等しい時間を生きてきた自分だからこそ、理解している。
『私達の巡ってきた悠久の輪廻を、ここで終わらせる。その為に、力を貸してくれ』
 ――共に世界を巡ってきた貴様が、ここにいないはずが無い事を!

 刹那。
 杖が、瞬いた。
<――勿論だ>

 言葉――其れと同時に、杖を振る。
 空を薙いだクラリッサを、マトイと、彼へと向け――
 噴き出し、零れ出し、吸い込まれつつ有る全ての闇の因子を、クラリッサへと――自身へと、縫い付ける。
「な、何を……!?」
 困惑する声。気付いたのだろう、彼女自身の変化に。
『幾ら器に適しているとはいえ、貴様らはアークス、私はダークファルスだ』
 喰らう。
 少女を蝕む闇を、青年を飲み込む闇を。
 世界を滅ぼしうる深遠なる闇、その因子、何もかも全てを。
『ならば、ダークファルスである私に闇が集うのは、当然の事だろう?』
「――オ前……初ッから、コれが、狙いか――」
 闇から解かれつつある青年の唸り声。その肉体から、マトイの体から、闇が剥がれ落ちていく。
 同時に、己の肉体が闇に飲み込まれていく。今度こそ抵抗すら不可能な、世界を壊す闇へと変貌していく。
 されど、喰らう――喰らい続ける。
 自分がいなくなっても構わないと、何もかもを守り抜こうとする奴の如くに。
 私の全てが、闇色に溶けていく――それでも、絶対に忘れない。
「――貴様が、気づかせてくれた。ただ一人を救いたいとする意志、其れを成し遂げるために、やるべきことを!」
 ――私は、彼女と生きることしかしてこなかったな。
 周りで何が起きているとか、正直に言ってしまえばどうだってよかった。
 たった二人の締め切った世界――他人と関わることに意味が見いだせず、内側にのめり込んでしまったが故に、彼女は救えないと勝手に思いこんでしまっていた。
 ――私は、何も知らなかった。
 周りを助け、助けられてきた事が、どれほどの力になるのか。皆と関わり、様々な意見を得ることで、様々な解決方法があることを知れるのか。
 そして――
 たった一つを為すために、自らの存在をも投げ捨てて足掻く事。
 人の意志そのものが、運命をも覆しうる力になるのだということを。
 私は――私たちは、今まで一つたりとも知らなかった。
 だから、だから――だから、こそ。

「私は、彼女が救えれば其れで十分――それ以外は、何も要らない!!」
 一息に、食らう。喰らう。喰らい続ける。
 ――例え、私の存在が消えるとしても!
 深淵なる闇を、彼女を苦しめる全てを。
 ――彼女が生きる未来が、この手で作り出せるのなら!
 世界の全てが闇色に溶け去って、全てが反転した世界の中、たった一人で彼女の願いを守りきった自身。
 自身に最後に残った想いを糧に生れ落ちた、仮面という意志。
 唯一つ、マトイが生きていける未来を目指して。
 何度も試行を重ね、幾つもの自身を飲み込んで進んできた。
 途方もなく長い長い、時を渡る旅路の果て。
 やっと辿りついた、終着点。
 ーーこれが、私がここにいる理由。
 自身、が溶けて消えていく。
 闇色に、意思も、心も、全てが塗り替えられて――




 ――……?
 気付けば、海の中に居た。仮面が外れた私と、全知を司る存在――シオン。対して立つのは、自身に瓜二つな青年と、その傍らに立つ最愛の少女、マトイ。
「ごめん、なさ……ごめん、なさい……!!」
 激しく泣きじゃくる、その少女。顔を覆う掌から零れ落ちるのは、無数の雫と、謝罪の叫び。
 ――あぁ、そうか。
 此処がどこか、など分かる訳も無い。それでも、此れが彼らと言葉を交わせる最後の瞬間なのだと、理解できた。
 青年は決して口を開かない――不満と苛立ちと無力感が綯い交ぜになった表情で、彼女の隣に立っている。
 ――……全く。お前がいなければ成し遂げられなかったというのに。
 だから誇れ、とは言えない。自分だからこそ、そんなことを望まないと知っている。
 だから、そっと少女に歩み寄る。
「私は結局、覚悟なんて出来てなかった」
 悲哀に彩られた、少女の言の葉。
「私は、あなたたちを犠牲に――!!」
 ――犠牲に、か。そんなこと、ないのにな。
 大切な少女が生まれてくるこの歴史さえあれば、どんな場所だって――自分が消え去る未来へも、胸を張って歩いてゆける。
 されど、何を言っても、彼女にこの想いが、感謝が、綺麗に伝わることはないだろう。だから――
 そっと、その肩に触れる。びくりと震えた少女に、そっと言葉を紡ぐ。
「君は知らないだろうが、君と私は――最後に一つ、約束をした」
 ――君がくれた、最後の言の葉。私を、これほど長く生き永らえさせてくれた大切な言葉を。

「――泣くな。笑え……」
【泣かないで、笑ってて――】
 記憶の中の彼女が、やっと、心から笑ってくれた気がした。

 少女が、顔を上げる。
 涙でぼろぼろに塗れたその顔に、仮面は静かに微笑んだ。
<深遠なる闇は、私達が受け取った。これで、彼女は生き、あなたも生きる>
 シオンの声。恐らくは、この世界の私に向けた。
<だが、深遠なる闇もまた、消し去ることはできていない。やがて、形をとるだろう。ダークファルスを従え、現れる、新たな深遠なる闇――人類の勝つ歴史を、私は知らない>
 未だ、少女の瞳からは涙がぼろぼろと零れ落ちている。
 それでも、ぎこちないながらも、泣き止もうとしてくれてる。
 そんな彼女の、他人を想う優しさは、決して変わっていなかった。
 ――あぁ、やっぱり君は、優しい子だったな。
<だが、彼女が救われた歴史も、私は知らなかった>
 そう告げるシオンの声は、自分の知る悲哀に染まったものではなかった。
 優しさと、隠しようもない誇らしさがあった。
<ここからは、あなた次第だ。全知の先に進み、新たな歴史を、紡いでくれ。それが、私達の最後の願いだ>

 シオンの言葉と共に、体が少しずつ溶けて行く。
 最後に残されていた奇跡の刹那――其れが終わる時が来た、ただそれだけのこと。
 ――時間か。
 静かに彼女から手を離し、踵を返す。シオンもまた、同じように――
 意志が、光に溶ける。自身が、消えて――

 ――最後に。
「私、いや、――――」
 この世界における、自身と同じ筈だった、自身ではなかった者。
 確定していた歴史を塗り替え、マトイを生かせた、仮面達にとっての救世主。
 今までずっと紡いできた、仮面達、全員の想いを載せた言葉を――
「――マトイを、頼んだぞ」





 ――マトイ。君が、幸せに生き続ける事を。
   私は、決して忘れず、願っている。



 ――あとがき。
 物語「わたしがここにいたりゆう」読了頂き、ありがとうございました。
 物語、EP3-7の世界観から、しかし、今回はストーリー展開としての形において、EP3-7とは違う形で仕上げました。私達の世界観における、仮面の歴史等を書くという形での。
 前作を読まなくても問題は無いと思いますが、この仮面の物語――全ては、一番初めの世界観、自分と彼女以外の全てが滅び去った世界(fighter)⇒(みんなのなかのあなた)から紡いできた「マトイが生きている世界」を作るという渇望。
 自分の中での仮面のキャラクターは、あの時点で何となく定まっていました。其れを形にするのに、相応しい物語になったかな、とも思います。
 その上で、この唄を選んだのは、話としても良かったのかな、と思います。
 なおこの話とこの唄を結びつけたのは相方でした。タイトルも頂きました(・・ )

 それでは、またの物語で。

 ※相方作「青色~魔女と騎士と少女の夜明け~」は此方になります。



 究極のNGシーン【盗作ダメ絶対】
「なぁ、この文章」
「ん、どっかおかしい?」
「こちらが考察として話したことそのままだ」
「え?」
「こっちが考察が正しいか確認の為話したことを文章化しただけ、というかどう考えても上下とのつながりがおかしいだろう」
「……自分で思いついたと思った」
「ヘレン・ケラーの話もこちらが話したことだな」
「……マジすんませんです」
「お詫びすれば許されるとかモニカでもありえんわボケェェェェ!!」
 えぇもうやらかしてたようです。
 ……マジで気をつけないといけません。マジで。
 他人だったら本気で洒落になりませんから。
 ※該当文章は勿論削除済みです。
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読みましたよ!

小説読みました。力作じゃまいか!努力の結晶と思える作品だと思いますよ。そそ、ネタ写真を皆さんに見せたかったので、とりあいずここで公開! (上記Url参考)

Re: 読みましたよ!

<トナカイ=サン
 コメントありがとうございましたですよ、そういっていただけると有り難いです。
 えぇ、其方の方も見せて頂きました(・・)ノ
プロフィール

ヴァント

Author:ヴァント
 PSO2世界を旅する、気楽な放浪者の綴り草です。
ツイッターやってます。

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