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少し遅れたクリスマス・零

 過去作「少し遅れたクリスマス」の前話、的な物語になります(・・ )
 ある意味リメイクに近いのかもしれません。続きは下から、どうぞ。







「みんなー、今日も集まってくれてあっりがとー!!」
『オォォォォォ!!』
 光り舞う雪のステージ、その中心でライトを浴びて輝く少女の呼び声に、割れんばかりの歓声が巻き起こる。
『クーナちゃぁぁぁん!』
「はーいっ! みんなー、今日はクリスマス・イヴ! いつも以上に盛り上がっていこー!!」
 アークスシップ内、ストリートエリア――あくまでも一般人向けのクーナライブ。
 夜の訪れと共に始まった其れは、大喝采と共に幕を開いた。




「こういうのはどうでしょう?」
 ひらりん、と効果音でもつきそうなテンポで、長い裾が翻る。諷雫のマイルームの中、リリィは眉一つ動かさずに彼女の全身をチェックする。
 シンプルなチュニックにクーナグッズの一つであるパーカー、パンツルックにスニーカーのセット。機動性を重視しつつ可愛らしくもある服装は童顔を気にする彼女からするとアクティブで珍しい。
 リリィは太鼓判を押す気持ちで軽く頷いた。
「ん、動きやすそうだしいーんじゃない? ちっと暑すぎる気もするけど、一応冬だし良いでしょー」
「それじゃ、ライブ前に着る場所確保しなくちゃ、ですね」
 いそいそと服を脱ぎ出す諷雫から目をそらし、部屋の隅にあるスクリーンを見やる。
 その中で輝いているのは、今まさに生放送中の知り合いの少女、クーナのライブ映像だ。
「おー、クーにゃん今日はりきってるなー」
「明日も楽しみですね!」
「そだねー」
 右腕に抱えた蒸留酒の大瓶を杯に傾けながら相槌を打つ。
 ウィンターライブと銘打たれた今回のクーナライブ、本日は一般人のみで明日クリスマスはアークスのみ、なのでクーナの護衛も今日はラピピのみだ。
 ――ま、明日のことも考えたら今日もラピピだけじゃないと不公平だもんね。
 と、そこに、
「リリィ、こんな服ならどう?! 可愛いと思うの!」
 隣室の扉が開いて、着替えていたリユイが飛び出してくる。
 明らかに可愛らしさしか意識していない冬用のモコモコワンピースに、膝まで覆うハイロングブーツ。手袋に帽子、バッグも統一感があり、完全に計算され尽くされている。
 とどめとばかりに可愛らしく裾を持ち上げて笑うリユイに、リリィも静かに笑みを返した。
 可愛いか可愛くないかで言えば、身内の欲目をさっ引いてもお釣りが来る程に可愛い。
 が、
「アウト」
「何で!?」
「リユっち、あたしの話聞いてたか!? クーにゃんのライブ行くんでしょーが!!」
 画面からファン達の歓声が大きく響く中、リリィは半分切れながら叫んでいた。
 そう、今日のこの集まりはクーナのライブを一緒に見る以上に、明日のライブに参加するための前準備である。
 チケット自体は招待という形で簡単に入手できたものの、リリィ以外の誰一人としてライブに参加した経験がある人間がいないという問題が発覚。
 その為に、出発前の準備も併せて、わざわざ荷物と服装チェックを行っているというのに。
「あんた、ライブ前のユッキーとのデートしか頭になかっただろそれ」
「そんな訳ないじゃない、ちゃんとライブも行くわよ」
「其のヒールとワンピース脱いで、Tシャツショーパンスニーカーに着替えてから言え」
 えー、と不満そうながらもリユイが隣室に消えていく。流石に二度目は自重するだろう、多分。
「――つーかマスター覚えてるのかなー。ちっとも連絡来ないんだけど」
 ため息をつきながら、自分の端末を操作。マスターであるヴァントの存在位置を測定するも、予想通り予定通りの計測不能の文字列が帰ってくる。この調子では明日どうなっているかわかったもんじゃない。
 ――あーもうまたナベリウス篭ってんなバカマスター。
 普段ならナイトラッピーの中身としてクーナライブの差前列で警護の任務にあたっている所。
 が、今回はクーナから、
「ヴァントにも一度くらいライブ見てほしい」
 という希望が、本人を除く周辺に伝えられた為、急遽ナイトラッピーはお休みとなっている。
 ――予定あるから明日は部屋にいろ、って言ってんのになー。
「『緊急連絡、連絡ヨコセ』、と」
 口元を尖らせながらメールを打って、送信。
 気づけば連絡来るだろう、多分。
「……ぅぅ……起きて、なきゃ……」
「あんたは寝れ」
 眠りへと向かう船をこぎだしているマンルーンに突っ込みを入れながら毛布を掛けてやる。
 元々が夜9時には眠る子だ、そこから30分オーバーしても起きている事を誉めてあげるべきか。
「まだ、終わって、ない……」
「明日は絶対最後まで起きてなきゃいけないんだから、その分しっかり休むと思って、ほらほら」
「うぅ、ん……」
 クッションを背中に差し込んで頭を撫でてやれば、すぐに穏やかな寝息を立て始める。
 まるでサンタクロースを待ちくたびれて眠ってしまった子どものようなあどけなさに微笑を浮かべ、野暮ったい外套を着た青年を思い出してため息を吐いた。
「明日どうなるかなぁ」




 クリスマス・イブ。
 イベントがあちらこちらで行われ、大体のチャンネルがそうしたお祭り行事を中継する中で、
「椿ー、リモコンどこー?」
「僕は今日一切触ってませんよ」
 ユキナミは椿の住む部屋でクリスマススペシャルアニメを見ていた。
「ユッキー、おしり」
「あ、これか。ありがとくーちゃん」
 どうやらすぐ近くにあったらしい、椿は二人の様子を見ることなく裁縫作業に戻った。
 現在ユキナミが見てるのは完全なアニメ専用チャンネル。本来なら月額制だがそこはアークスーーシップ防衛、惑星探査の要ということで映像系や各企業の料金請求の情報は無料で見られるのだ。
 が、流石にちょっと恥ずかしくなってきたのか、最近のユキナミはアニメを見る際にはこの部屋に来ることが増えている。良い傾向なんだろう、多分。
 そして部屋の主はそれを横目に明日の準備、必要な道具の用意をしていた。
「水筒?」
「ライブ中に落ちたり人に当たったら危ないでしょう。ペットボトルを買って持って行って下さい」
 椿に確認しながら。もう複雑な作業はないとはいえ椿からしたら大変迷惑な話だ。
「タオル……ハンカチタオル?」
「大きいバスタオルが基本です、ライブ前にグッズ売場まで買いに行けるならそこで並んで購入して下さい」
「やーだ。――へっどふぉん、ぷりーず」
「耳栓ならともかくヘッドフォンってあなた何しにライブに行くんですか」
「あ、クラフト」
「三日待って下さい、今大量に走らせてるんで」
「で、でいりー!?」
「やっておきますから今下手に触らないで下さい全部最初からになったらどうしてくれるんですか!」
「せっぱん、折半!!」
「デイリーは代わりにやりますから三日待って下さいって言ってるんですよ!!」
 二人の会話は止まらない。むしろ加速度的に熱が入っていく。
「くーちゃん、椿やるって――」
「折半! せ・っ・ぱ・んー!!」
「あれはお互い納得の上でしょうが!!」
 テレビを見ながらの生半可なストップなど、全く停止の意図をなさない。というか別段止まらなくてもどうでもいいとでもいう雰囲気の説得では止まる訳がない。
「半分出した、使う権利がある!!」
「三日後には全面的に許可しますよ、三日後には!!」
「半分? くーちゃん、さっきから折半とか言ってるけど、どーいう事?」
 しかしすごく気になる話に、CMに入ったのもあってユキナミはようやく振り返った。
「あれ」
「クラフト端末?」
 ユキナミはこの部屋のクラフト端末に目をやる。最近は見慣れていて気にならなかったが、改めて見ると他の部屋の端末と比べてかなり大きい気がする。
「折半、購入金額の半分を出した」
「え、椿じゃなかったの!?」
「僕だって半分出してますよ、というか最初はそれぞれが買うつもりだったんです」
「??」
 よく分からず首を傾げる。椿は一呼吸おいてから、
「ユキナミさん、アークスのマイルームにおける家具の大きさって決まってるでしょう?」
「うん――あー、大きすぎるのか」
 椿が触っている、クラフト用の機械を見る。タンスを二つ並べてもまだ足りないレベルの巨大な機械。それと似たような大きさの装置が二つあった。
 これをもう一セット揃えようというのは、確かに無茶かもしれない。
「それで話し合った結果、いっそ上位版を買おうという話になったんです」
「一台ぷらす少々の金額、スロットも四十と倍以上。……企業レベル?」
「企業?」
「中小企業で各人が試作品を作る為に使うレベルですね」
「クラフトを? 何で?」
「武具を改造出来ますから、特殊状況下での梱包材の強度を上げたり、武器をナマクラにしたりとか」
「ナマクラ!? それって使えないじゃん!」
 驚くユキナミに、椿は至極普通に頷いた。
「ええ、使えなくして鑑賞用や参考資料、後は撮影用にするんです。クーナさんのライブで一般人もいる時は大体この処置をしますね」
「へー……色々出来るなら、調整も沢山必要なの?」
「まぁ、そうですね。僕が作ると大体時間掛かります」
「――空いてるスロット指定しろよ、そしたらすぐ終わる」
 椿の顔が微妙に歪んだ。空いてるのは空いてたのか。
 ――あ、CM終わったー。
 顔をテレビに戻す。どうなってるか分からないけど、まずアニメの方が――
「えいや」
 後ろで掛け声――そして齎されたのは福音。
 思わず後ろに視線を戻す。クラフトの結果表示に出ていた文字列は【大成功】の文字。
 けれど、クーガはそんなこと知ったこっちゃ無いとばかりに、何か結晶を詰め込んでいて。
 そして数秒――また福音。それを繰り返す。
「おわった」
 ようやく満足げな表情をして、クーガがユキナミの隣まで戻ってきた。
「この人みたいなギャンブル、僕には無理なので大人しく計算してやってるんです」
 ギャンブル好きなリリィならくーちゃんに頼むな、とユキナミは確信した。




 ――よし、大丈夫。
 光と雪の中、くるくると踊り、歌う。
 ドーム中の熱気を浴びて、マイクへと叫びながら、クーナは内心で自分の動きをトレースし、問題が無いことを確認していた。
 今日のライブも、勿論真剣だ。見に来てくれている、アイドルとしてではあっても、わざわざ見に来てくれている皆に、最高のショーをプレゼントしたい。心から楽しんでいって欲しい。その気持ちに、偽りはない。
 だが、それでも、今日のライブは、ある意味では、予行練習のような物。明日のための本番なんだ。
 何よりも、何よりも大切なのは、明日――アークス向けに踊り、唄う明日のライブ。
 勿論、歌い手としてのクーナは、何もかもの全力投球。けれど。
 ――これで、ヴァントにも胸を張って見て貰える!
 一人の『クーナ』としては、どうしようもなく、本番にはなり得ない。
『――俺は、逝かせたくはないな。それで、君が静かに眠れるのだとしても』
 あの日――自らを終わらせようとした、最後の日のはずだった日。
 初めてかもしれない、『生きて欲しい』と伝えられた言葉、想い。きっと、それから――
 あぁ、でも。きっとそれよりもずっと前――きっと、彼と出会ってからの全てで。
 ――わたしの、大切な人だから。
 今までずっと、助けてもらってきた。そのお礼に私ができる事は、結局の所、歌い、踊ること。
 普段から、少しでも彼にお返しできればな、とライブでは出来る限り頑張って。
 その度に、ナイトラッピーとしては、なるほど、確かに彼は一緒に居てくれてはいるし、ライブの中に巻き込めては居るけれど――
 ――ぜーったい聞いてないからね、ヴァント。
 だからこそ、明日は何があっても成功させないといけない。
『クーナ』が『ヴァント』に想いを、感謝を返すため――少しでも、彼にも楽しんでもらうために。
 ――その分今日は、皆の為に頑張っちゃうから!!
 今日はファンの皆、ここにいる人達だけじゃない、テレビの向こうでわざわざ見てる人達の為のライブを。
 一曲を唄い終わり、突き上げていた腕を下ろす。ステージに舞う粉雪、溶け掛けて煌く氷達――すべて、計算通りに。
 大歓声が巻き起こるのに、両手を振って感謝を返しながら――心の奥で、少しだけ舌を出した。
 ――ごめんなさい、偶像クーナは今日だけ。アンコールはムリだからね。




「あ、そういえば椿は明日どうすんのー?」
 再びのCMで、クーガと世間話をしていたユキナミが、不意に椿に声を掛けてきた。
 今更、と思いながら手元から目線は外さない。身じろぎすらせずに、淡々と言葉を返す。
「この間も言いましたが、留守番の予定です」
「あ、違う違う」
「え?」
 指を完全に止めて顔を上げれば、幼さを残した少年もきちんと椿を振り返っていた。
「夕飯、ライブ終わってから合流する? それとも買って帰った方が良い?」
 その申し出に、椿ですら考えていなかったことに驚く。
 ユキナミは群を抜いて交流を好むが、同時に抜けてる所も多い。今もアニメに夢中で、そんな適当さだからクーガという突飛で不可解な思考回路のモノとも部屋を行き来する関係を築けている。
 ただ、以前ならきっと椿が参加する前提で話してただろうし、留守番と聞いたら慌てふためいていたかもしれない。
 ――リユイさんには申し訳ないですが、此処は甘えるべきですかね?
 しかし、ユキナミらしからぬ気遣いに椿は応じることが出来なかった。




「あ?」
 最初に気づいたのは、デュマ娘二人だった。
 リリィの声、起きたマンルーンにニュマ娘二人の視線が動いた直後にテレビに映し出されていた映像が、音が消えて、
「――マジか」
 最初の二人が気づいてから約一秒後、警報が部屋のスピーカーというスピーカーから響き渡った。


《緊急連絡! 緊急連絡!》
 ――嘘でしょ。
「――さぁ、次の曲いっくわよー!!」
 内心を微塵も出さず、アイドルの仮面を被り続ける。されど、感情は平静とは言いがたく。
 ――なんでこんな時に、緊急警報!?
 耳元から聞こえてくる、アークス、否、六芒としてのクーナに向けられた緊急警報。クーナが常に耳に付けているイヤホンからのみ響き渡ってくる音。
 ライブに沸く観客には聞こえない。ましてやスタッフ達にも聞こえては居ない筈だ。この緊急警報は、アークスにのみ向けられているものだ。
 それ程までの事態だ、とも言える――言えるのだが。
 ――明日のライブ……できる、かなぁ……?
 今のライブへと意識を切り替えながら――それでも、内心は心穏やかには居られなかった。
「ぴぃ」
 普段はファンサービス以外鳴かずに我慢してくれる友達が、流れ出すメロディに体を揺らしながらも不安そうな声を上げていた。


《緊急連絡、緊急連絡!》
「緊急? こんな時に?」
 着替え途中だったのだろう、下着姿のリユイが隣室から顔を覗かせる。リリィは静かに嘆息して、立ち上がりながらも新たな瓶を取り出した。
 さっきまでライブを映していた画面も、今や赤黒二色の文字列だけだ。
「まぁ、緊急といってもさ、内容次第じゃ別に」
《ダークファルス・エルダーの反応を確認しました! 現在――》
「あかん」
 思わず反射で呟いていた。読み上げられたアナウンスに、天を仰く。よりにもよって最悪な奴が来た。
 いや、ある意味危険性はもっとも低い。素晴らしき闘争を求めるだけあって、あくまで狙いはアークス。オラクル船団周囲に漂う既に残骸となったシップ付近で律儀に待ってくれる。
 だが、存在そのものが脅威であるダーカーの親玉の一人が来たとなれば最高レベルの警戒態勢が敷かれ、戦いにかり出されるアークスが半死半生の目に遭うのはザラだ。
 それほどに激しい戦闘である。その上で、現状の最大の問題は――
「――明日のクーナさんのライブ、大丈夫でしょうか?」
「ほんとそれ」
 室内の全員の疑問を代弁したようにフーナが呟いた言葉にリリィはにべもなく頷いた。




 ――あぁ、これはきっと夢なんだ。
 閉じた瞼の向こうから漏れてくる赤い光。今まで見ていたアニメの輝きとは違っている其れ。
「はーい、ご飯の時間だよー」
 ほら、椿だってそんなこと言ってる。
「ユッキー、マグに餌あげなきゃ」
 ふわふわー、とユキナミのマグが離れていく。そうだ、マグだって何も危険なんか感じてないんだ。
 ――この、ビーって鳴り響いてる音だって、きっと僕が見てたアニメの特殊効果音か何かなんだ。
〔ねぇ、ユキマグ? あなたのご主人様大丈夫なの?〕
〔もぐもぐ〕
〔知ってるか? スペシャルって基本再放送されないらしいぜ、ご主人様が言ってた〕
〔む、むぐ〕
〔え、最近じゃ前後編でやるらしいわよ〕
〔これだからモノメイトしか食わねぇ奴は、イテッ〕
〔ユキマグー、こいつも噛んで良いわよー〕
〔けふ。そいつ不味い、寝る〕
 マグの会話なんて、自分のマグであるユキマグのものでも僅かしか分からないユキナミは己の思考に逃げ続ける。
 ――ほら、きっと目を開いたら、倒れたヒーローが一念発起して立ち上がって――
 静かに開いた瞳の中、ユキナミが認識した映像は、立ち上がったヒーローに賛美の声が送られるシーンだった。
 ユキナミの脳内では。
 実際は真っ赤な画面に骨太の黒字が浮かんでいるだけ――『緊急警報』、ただそれだけ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 現状を認識して、ユキナミは血涙を流して天を仰いだ。
 彼が見ていたアークス専用テレビは一般の有料放送であっても無料で見られる代わりに、緊急事態が起きた際には全放送が中止される――その無慈悲さを思い知った少年は、ただただ力なくうなだれ、地に伏した。
「……ユッキー、有料配信を待とう。ただ今は緊急だ」
「その時にお金があれば良いですけどね。準備が出来たら次第順次出撃するようにとのことです」
 なお、同室にいた人間達の反応はドライそのものであった。




 ――ビーッ! ビーッ!
「ん?」
『バウ?』
「わぅ?!」
 緑豊かな森林の奥深く、もうもうと湯気の上がる温泉地帯。そこにけたたましく響きわたった随分場違いなアラーム音に、温泉に浸かっていた一同の視線が動いた。
 至福の表情で浸かっているバンサ・オングは、この中で最も音の正体を知るだろう存在――ヴァントの方を振り向いた。
「オゥ」
「いや、俺の端末は電源切ってるから、お前等に預けてる方じゃないか」
 温泉から上がりながらヴァントが呟くのに、キュピーン、と三匹ほどの子狼――バンサ夫妻の三つ子――が激しく反応。
「ばぅ!」「わう」「わぅわ!」
「グァゥ!」
 我先に「取ってくルー!」と叫んで飛び出した三匹ではあるが、即座に母親であるドンナによって捕獲。アークス製のタオル――預けた端末やタオルは勿論ヴァントからの寄贈品ーーによって滅茶苦茶に拭かれていた。
「俺の方でも確認してみるか」
 自身の端末に電源を入れる――ナベリウスの奥地などに行く場合は、常に電源を切ってある。
 起動音、数瞬の間――端末から映し出された情報に、ヴァントは静かに首を傾げた。
 ――連絡寄越せ? 何かあったのか?
「オゥ?」
「――あぁ、すまん。温泉はここまでらしい」
「ワゥ」
「ありがとな。まぁ、いつものことだ、さっさと片づけて向こうで飲み直すさ」
 簡単に体を拭いて、下着を着込み、外套を羽織る。一分と掛からずに済むのはこのホロウワンダラーの最大の利点だな、と心の中で呟く。
「またな」
「ウォゥ!」「ワーフ」
「バゥ!」「ワゥ!」「ウ!」
 バンサ一家の声援を受けながら、ヴァントは改めて戦場へ向けて歩き始めた。

 なお、アークスが原生種と共に温泉入りしたあげくの会話など、普通のアークスが見たら訳が分からず発狂してもおかしくはないだろう光景である。




 聖夜のプレゼント、夢を見れる子どもにとってはなくてはならないもの。
『素晴らしき闘争よ!』
 しかしアークスの永遠の敵、ダークファルス【巨駆】と闘争がプレゼントなんてごめん被るだろう。
「うざいー!」
「こんな日に来るなボケェ!!」
 アークスシップの群の中でも、過去に襲撃を受けて残骸しか残ってない場所とはいえ、間違いなく宇宙船団への侵攻に対し、アークスは総出で迎撃。
「去ねぇぇぇ!!」
 数える気もなくなる戦闘の後、25日の未明に何とか追い返したが。
 予想外の緊急事態にアークスシップで予定されていたイベントは全て中止。戻ったアークスを迎えたのは白い雪とイルミネーションだけだった。


 そして話は、その日の午後へ移る。
 最初に気づいたのは、広報担当の一人だった。
「あれ?」
 延期となったクリスマスに行われる予定だったライブの調整の為奔走していた彼は、共有データの中に絶対に欠かせない申請の結果が表示されていないことに気づいた。
「ちょっとー、環境管理部門への申請書類、回答まだなの?」
「え? ――いえ、出てますよ。ほらこれ」
「違う違う、ライブ許可じゃない方」
「??」
「空調、雪が溶けちゃうから27日まで該当エリアの温度を下げて貰わないといけないからその申請したでしょ」
「え――?」
「え?」
 惑星へ降りたこともない、比較的新人。
 ――まさか。
「基本的にシップ内は全種族にとって最も快適と感じる20度前後、そんな温度じゃ雪は水になって、氷に至っては溶けるぞ」
 雪が降る惑星に降り立つアークスなら、冷凍品やスキー場に携わってる者なら当たり前に理解してること。
 しかし、シップの中しか経験したことのない者にとってはそんなものただの知識でしかない。
「あ、ぁ……い、今すぐ申請します!」
 ――無理だろうなー。
 慌てて申請を開始する新人を遠い目で見つめながら、彼は小さくため息をついた。
 とりあえず、責任者と主役に連絡必須だろう、と。


 ――あとがき。
 本編加筆修正中です(・・ ) そちらは[pixiv]にて掲載予定。
 なおこの記事の大半は相方が一晩でやってくれました。
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Author:ヴァント
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