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ある黒熊の悲哀




 第4回対抗戦を受けて。
 続きからどうぞ。
 
 アークスシップ内、自室。
 リリィの手によって宴会場に生まれ変わった部屋の中、リリィとサシで飲み交わしている中、不意に、館内放送が響き渡った。
<第4回、アークスシップ対抗戦が開催中です。アークスの皆様は所属シップごとに~>
 面倒な時期が来た――そんな事を思いながら、ヴァントは静かにため息をついた。各アークスの実力を向上させるためなのか不明だが、自由気ままな旅をしたいヴァントにとっては迷惑な話でしかない。
「んあ、マスター? あー、マスターもこれ行くの?」
 酒瓶を傾けながらリリィが気だるげに話すのに、同様にお猪口をグイと開けながら。
「ヒューイからの頼まれ事だ。面倒だが、奴としても可能な限り参加して欲しい、とさ」
「ヒューイから? あー、まぁマスターいないと張り合いが無いとかもあるんじゃない?」
「……まぁいい、行って来る」
「あーマスターちょい待ち。そろそろ酒の備蓄無くなって来てさ、よかったら買出し付き合ってもらって良い? 一人で持って帰るにはちょっとばっかり量多くてさー」
「ん、構わん。俺もそろそろ補充しておきたかった」
「ん、ありがとー。そんじゃ、ストリートエリアまでゴー」
 のんびりとした主従の会話の後、二人揃って外へと出て行く。余談では有るが、その姿はどことなく腐れ縁の夫婦の其れに通じる物があったそうな。



 アークスシップ内、ストリートエリア。
 アークスも一般人も関係なく、自由に人々が行き来して日常を謳歌している、賑やかなる街。
「さて、そんじゃ行こっかー。マスター、こっちこっちー」
「目当ての店があるのか?」
「もち。美味しい酒一杯あるよー。マスターの好きな奴も結構あるから、買い物楽しんだら?」
「ふむ。探索途中で飲むのに丁度良い奴があれば良いんだが」
 其の一角に降り立った二人は連れ立って歩きながら、簡単に言葉を交し合う。リリィは簡単な戦装束、ヴァントはいつもの放浪服という姿も相まって、往来の人々からは若干ながら浮いていた。
 其れに加えて明らかに年若い二人が酒の話を交わしている時点で、尚更奇異の目が向けられるという物だが、其れを気にする事もなく、人々の視線を引き連れて歩いてゆく。
「しかし、あの対抗戦のクマとも此れで四回目か」
 黒を基調とした、縫いぐるみのような姿の生物。アークスシップ対抗戦のシンボルともいえる、訳の分からない生物である。
「あー、アークマ? 有れも良くわからないよねー。たまに酒場に居たりするし」
「あいつも酒飲むのか……中々想像できんが」
「あたしも吃驚したよー。ただまぁ、普段から色々してるみたいだね。あ、マスターそこの角左ね」
 リリィの案内に従って、ヴァントは言われたままに大通りに沿って曲がった。
 そうして、

『こらこら、押すな蹴るな。一人一つまでである』

 今まさに話題の中心にあった存在を見かけて、二人の足と意識は停止した。
 未だ変わらぬ往来の一部。行き交う流れの中心付近、幾つもの風船を持った姿で、その存在は立っていた。否、配っていた――風船と、何かの紙を。
『喧嘩をするでない――む?』
 そうして、アークマがヴァントとリリィを振り返った。逃げる意識など、停止している二人に有るわけもなく。
『おぉ、貴君らか。久しいな』
 何事もなかったように、平然と片手をあげて、アークマがそう言ってきた。後ろで子供達に蹴飛ばされながら。
「……アー、クマ……?」
『他に私がどう見えるというのか、リリィ殿』
「……お前、一体、何やってんだ……?」
『風船とチラシによる広報活動である。後、子供達の仲裁である』
 何事もなかったかのように、本当に不思議そうにアークマが首を傾げる。風船は未だ持ったまま。
「……お前、対抗戦はどうしたよ」
『そちらの業務は後任者が引き継いだ』
 そうして淡々と返してきたアークマの瞳は、いつもと変わらない綺麗に澄んだそのままであった。




『元々、今回も私が司会を行う予定ではあったが――上層部の方で、女性型を起用すべきではないか、という連絡があってな』
 カキン、と器用に缶のタブを起こしながら、しみじみとアークマが呟く。
 旨そうにホットコーヒーを飲みながら、
『実際の所、私では華に欠ける。どうにも、アークスに恨まれているというのもある。であるならば、華のある後任に引き継ぐべきだ――そう判断されたようでな』
「それで、なんでアンタは風船配りなんかやってんのよ」
『私ができる、アークスへの支援というだけだ』
 缶コーヒーを飲み干してか、満足そうにため息をつく。
 そうして、アークスシップの空を見上げながら、
『アークスの後方支援とは、何も派手なイベントの中心に立つことばかりではない。こうした地道な広報活動、というのはアークスの地位向上に何よりも良いものだ。引退したアークスが一般の警察等に採用される事例も多数増えてきた、実に良き事よ』
「地位向上?」
 リリィの問いに、アークマがうむ、と頷いた。
『貴君らアークスの存在というのは、フォトンをアークス程に扱えない一般市民にとっては憧れであると同時に、異端者である事は理解しているか?』
「へ?」
「……まぁ、そうだろうな」
 不思議そうに首を傾げたリリィに対し、ヴァントはただただ肯定して頷いた。
 フォトンを扱い、他の星へ飛び立って、ダーカーと呼ばれる絶対悪を滅ぼしていく存在――言葉にだけすれば、ある意味で英雄のような存在である。自分達に害為す、手を出せない悪を倒す。
 されど――
『自分達が倒せないダーカーを倒せる――言い換えれば『自分達など簡単に殺せる』という事だ。そんな存在がウロウロと市外を歩き回っておるのは、剥き身の刀がそこら中に有るに等しい。事実、昔はならず者のような連中が市街地で暴れまわったこともあった』
「……マジ?」
『うむ』
 凍りつくリリィに、アークマが淡々と頷く。ヴァントは静かにため息をついて、
「どこにでもそういった屑はいるもんだな、つくづく」
『おかげで、一般市民の中には暴力を絶対悪とし、恒久の平和を訴えて、一番身近な脅威であるダーカーとも対話によって協力関係を取れる、などと夢物語を実践しようと声を上げる者達すら居るのだ』
「そんな事言ってる奴いんの? 全員捕まえて試しにナベリウスの森にでも放り込もうよ、その方がよっぽど平和になるんだし」
 呆れたように半眼でリリィが呟く。アークマも概ね同意するように笑っていた。
『私としてもそういった手を取ることは吝かではない。無論、死なせる事にはならぬようにな。だが、そういう者達が一般市民の中に於いては高い地位を有していたりもするのだよ。貴君らのような最近のアークスは知らぬだろうが、先ほどの狼藉者達のせいで、一時は市街地エリアにアークスの通行が認められなかった時代もあるのだ』
 悲しげに呟くアークマの瞳は、遠く――もしかすれば、リリィよりも、ヴァントよりも遠くの時代を見つめている瞳で。
『故に、私はこの仕事を誇りに思っておる。アークスの活動の成果が恐怖に歪められる事無く、一般市民が怯えて近寄らなくなることも無い、この成果を紡ぎ上げたのは他でもないアークス広報班の活動による物であると、胸を張って言える』
 そうして、さて、と呟き、アークマが空になった缶コーヒーを近くのゴミ箱へと投げ捨てた。
『では、私は仕事へ戻る。珈琲、馳走になった』
 言うべきことは話した、とばかりに悠然とした足取りで、風船配りの地点へと戻っていく。
 その、マスコットの雄々しき背中を、ヴァントとリリィはただただ言葉無く見送った。




「……所でさ、マスター? あの熊、仕事とられた事について本人的にはどう思ってるか、最後まで言わなかったね」
「言わないでやれ。多分、わざと言わなくて済む様に話してたんだろうから……」



 其の晩、近くの酒場で泥酔して飲み潰れるアークマの姿が目撃されたとか。



 ――あとがき。
 今回のアークスシップ対抗戦でアークマが更迭されたという事で、ふと思いついていたネタを書きました。
 実際どうなんだろう、別にアークマミに変わっても殆ど変わってない気しかしないが。

 相方編のアークマはこちら
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