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蒼日

 ※この物語には公式で表現されていない、作者の想像が含まれて居ます。
  其れでもよろしければ、ご覧下さい。





「観客は、あたしとこの人だけ! それでも明るく、激しく、鮮烈に!」
 叫ぶ。彼女が、ただ叫ぶ。
 グラデーションがかった髪を振り乱して、泣き叫ぶようにして。
「記録は始末され、どこにも残されない、裏に生きるあたしたちだからこそ……見てくれた人の記憶に残るように!」
 誰よりも大切な人が、自分を捨てても尚守りたかった人が。
 自分の――もう、身体の感覚も無くなって、意識も遠く消えそうな――目の前で、泣きながら叫んでる。
「それが、【偶像】ってものよ! あたしが目指し、あんたが支えてきたものの、全てよ!」
 もう戻れない、終わってしまった大切だった人。
 ずっと一緒に、隣で守って居たかった人。
 初めから分かっていた――いつか、終わってしまう事を。ずっと隣になんて居られない事だって。
「あんたはこのクーナの弟なんだから、記憶に残してみせなさい! 始末しきれないほどの、記憶を!」
 だけど。
 ――あぁ、良かった。
 壊れて形も残っていない心が、凄く安心したのが分かる。
 お姉ちゃんの隣に居る人が、居てくれたから。
『――ギゥォォォォッ!』
 もう、身体は止まらない。大好きな人なのに、攻撃しちゃいけないのに。
 目に入ってしまった。もう、抑え切れない。そういう薬だった、らしいから。
 もう、止められない。牙を、向ける。
 だけど――
 ――お姉ちゃんは、もう、大丈夫。
 今まで見てきた誰よりも強い――あの時、出会った瞬間に、思わず僕が逃げ出した程の人が、隣に居てくれるなら。


 せめて、今は。
『グゥォォォォッ!!』
 最初で、最後の、大舞台を。





 ずっと、二人だけで生きようって。
 そんな、遠い遠い未来を目指そうと思ったのは、何時の頃からだったか。
 薄暗い部屋の中で、生まれてから覚えている限りずっと同じ部屋で――
 何一つ変わらない、実験、とかいう嫌なことばかりされる毎日で。

 ――大丈夫、ハドレット? お姉ちゃんが傍に居るからね、怖くないからねー。

 実験の後、身体が熱かったり寒かったり痛かったりして、縮こまっていた時や眠れなかった時。
 小さい身体のお姉ちゃんが、必死に布団かぶせたり子守唄歌ったりして、必死に頑張って助けてくれた。
 実験生物は、大体皆、フォトンの檻で囲まれた部屋の中で捕まえられてた。
 アークスの為だから、誰かの為になるならって、皆は喜んで実験されてたけれど。
 そんな中で、お姉ちゃんとは同じ部屋で、寝る間だって傍に居てくれた。
 他にいた子達は、気がつけば一人、一匹、少しずつ居なくなって、今はもう二人だけ。
 檻の向こうに居る人達は、殆ど変わることもなかったのに。
 だから、大きくなったら――この場所から出られるようになったら、アークスの為でも構わないから、二人で一緒に生きようって伝えて。
 言葉も通じないけれど、お姉ちゃんは何となく、分かってくれた。
 子供同士の慰め合いだったけれど、遠い未来を信じて生きてきた。
 そうやって来たるべき終わりに蓋をして、いつまでもこの時間が続くことを想像してた――


 全部変わってしまった日も、はじまりはいつもと同じ、真っ暗な世界から。
『98番、移動しろ』
 眠っていた所に、急に閉まっていた檻の一部が空いて、暗い道に電気がついて。
 ――お姉ちゃん、いつ帰ってくるかな。
 そんな事を思いながら、いつも通りの狭く暗い檻の間を歩いていく。
 他に、誰もいない、何もいない、静か過ぎるトンネルの中。そうして、潜った先には、何一つ変わらない箱のような装置。
『入れ』
 ――言われなくても。
 ギリギリで入る位の装置の中に、いつもみたいに入っていく。そうしてすぐに、腕と足が良く見えない何かで捕まえられる。動かないように、と毎回封じられる。
『――実験準備は出来ましたが……本当によろしいですか?』
『構わぬ、どうせ大詰めだ』
 スピーカーの向こうから聞こえてくる声も、話してる内容は良く分からないけど、いつもの声で。
『わかりました。其れでは、開始します――98番、動くな。開始する』
 スピーカーからの音の直後に、プス、と頭に小さな痛みが走った。其れも、いつもの事だけれど。
 そのまま、何かが流し込まれる感覚。身体の調子を整えて助ける為だ、っていつもは聞かされていたけれど。
 ――今日は、なんだろ、何か変な――
 そんな事を考えた、次の瞬間。
 ドクン、と身体が大きく震えた。
 直後に――痛み。
 ――ァァァ!?
 頭が、割れそうだ。
 心が、砕ける。
 意識が、跳んでいく。
『グゥォァァァァ!?』
 痛い。痛い。イタイ。
 いたい。
 割れる。ワレル。
 イタイ。イヤだ。
 嫌だ。苦しい。
 助けて。タスケテ。
『数値はどうだ、上昇しているか?』
『はい、はっきりと。筋肉の急激な膨張やフォトン量、ダーカー因子共に今までに無い活性反応が見られます。そして、同時に正気度も失っているようです、脳波に異常が見られますが、全て想定の範囲内です』
 雑音が、聞こえてくる。其のノイズまでもが、痛みを発する。
 壊れる。狂う。
 ワレル。クルウ。
 ――痛い、痛いよ。お姉ちゃん、お姉ちゃん――
『素晴らしい、成功した! 急いで報告を上げろ!』
 スピーカーの向こうから漏れ聞こえる声。
 雑音の山。殴られるような痛みと、苦しみと。
 力が溢れる。心が砕ける。考えが遠くなる。
『しかしこの薬、想定してはいましたが、それ以上に体内フォトンを破壊するようです。長くは保ちませんね』
『そんな事は目を瞑れば良い。これほどの効果だ、これから研究すれば良い』
 イタイ。タスケテ。
 痛い。お姉ちゃん。
 分からない。ワカラナクナル。
『それは確かに。それでは、本来の用途である人に打つのはどうしましょうか』
 苦しい。コワイ。
 ひとり。
 辛い。
 シヌ――

『97番が戻り次第準備しよう。奴もそろそろ邪魔になってきた、効果を確認次第、挿げ替えるのも良いだろう』

 ――お姉、ちゃん?
 ピタリ、と。
 壊れていた心が、苦しんでいた頭が――
 今も何も分からない中で、其の言葉だけが
『確かにちょうど良いですね。データを取り終えたら処分しましょうか。好事家にでも流してしまえば――』
 ――お姉ちゃん、に?
 ずっと、守ってくれてた。ずっと、一緒に居てくれてた。
 今の、こんな痛みの中だって。
 他の皆よりも。自分自身よりも、ずっと、大切な――
 ――お姉ちゃんに、此れが、打たれる?
 割れそうになる程に痛くて。目の前の事すら分からなくなる位におかしくなる。
 そんな事を、されてしまう。
 ――ふざ、けるな。
 僕だけじゃなく。
 お姉ちゃん、まで。
 ――許さ、ない。
 何を差し出したって良い。僕がどうなったって構わない。命を失ったって、構いはしない。
 今まで生きてきた、生きる糧にしてきた小さな喜びが、全部嘘になってしまったって構わないから――
 ――お姉ちゃん、は。

『待て、様子がおかしい。フォトン濃度が――』
 バキィ、と。
 全身を塞いでいた何かを、力任せに引きちぎる。膨張する筋肉が、今までビクともしなかった其れを、いとも簡単に壊してしまった。
 装置にも腕をたたき付けて、打ち壊す。
 そのまま壁を壊して外に飛び出す――残っているのは、巨大な檻だけ。
『待て、拘束具が壊されたぞ!? 急ぎ空間封鎖を――』
 力任せに、目の前の檻を掴み――尋常じゃなく熱い其れに触れて、腕が焼けるのも気にせずに、力任せに引き千切る。
 今まで壊せなかった障壁を、紙を千切るように打ち壊して。
 そのまま空間を引き裂いて――酷いことをする、奴等の前に。ガラスを壊して、奴等の部屋に入り込んで――
「ヒ、ヒィィィ!!」
「逃げろ、逃げろ、急げ! アークスに――」
『グゥルォォォォォッ!!!』
 ――こんな奴らなんか、全員、殺してしまえ。
 眼下に居る、奴らに向けて――思い切り、腕を振るった。

 何もかも、殺し尽くして。
 其処に有った、隣の部屋に有った、液体薬――実験に使われた全部の液体を、何もかも食べ尽くす。
 皆の命を奪った、命を盥回しにして作られていた其れを。
 何もかも――何もかも。お姉ちゃんに入れられる、とか。身体に悪い物、何もかも。全部、噛み砕いて、飲み干して――


 もう、人の姿なんてとうの昔に消え去って。龍としての命さえ、まともに生きることは出来なくて。
 そんな僕だから、こそ。何もかもを失った、僕だから。

 ――お姉ちゃん、は。
   僕が、守る、から――




「――ハァァァ!!」
 アムドゥスキアに作られた、彼と私のための舞台。たった二人だけの、青きステージ。
 見届けてくれるあの人は、手出し無用とばかりに、周囲に寄って来たダーカー全てを相手して。
 ――わたしは、あんたと殺し合う。
 白の体躯に、細い両手足。複雑な角に、黄色のリボン――私が贈った、初めてのプレゼント。
 ――ハドレット。
 大切な、裏切り者。
 刃を交し合う、たった一人の弟。
 ――なんで、あたしとあんたが殺し合わないといけないんだろうね。
 あんな暗くて冷たい、最悪な場所で生きてきた、血が繋がっていなくても大切な家族だったのに。

 普通の子供達はきっと、朝起きたら、両親が作った食事をして、平和な学校で学んで、暖かい夕食を家族と食べて。
 そんな暖かい生活は、実験生物にとっては、何よりも優しくて暖かい奇跡のような日々。
 アークスシップの殆どで、平和っていう当たり前の奇跡を、普通の皆はつまらないと貪ってる。
 何で私は、こんな目に合わないといけないんだろう、って凄く思った事もある。
 ハドレットが同じように考えていたか分からないけれど、いつかそんな事を話もした。
 ――きっと、二人まとめて外れくじでも引いたんだよ、人生の。
 当たりくじだらけの中で、ほんの少しだけ混ざってる外れくじ。
 普通の人が知らなくても良い、地獄を、絶望を、全部纏めて味わう外れくじ。
 きっと、其れを引かされた二人なんだって。
 ――でも、だからこそ、一緒に居れたよね。
 そんな毎日でも、弟と一緒に居れたのだから。
 だけど――だから、こそ。

「――終わりにしよう、ハドレット」
 正気を無くして我武者羅に、子供みたいに腕を振り回す弟の眼前に飛び込んで。
 ――きっちりと、終わらせてあげるから。
 こんなに苦しそうな弟を、これ以上見ていられなくて。
 光も無くした眼を、正面から見据えて――
「――ァァァァァッ!!」
 轟、と。クーナは、其れを解き放った。
 目にも止まらぬ、未曾有の斬撃――ファセットフォリア。
 大切だった弟を、共に生きてきた自分の家族を――
 ――ハドレット。
 存分に、切り裂いた。

 鮮血が舞って、光が消える。其の巨体から力が抜けて――ハドレットは、大地へと倒れ伏した。
 ――ハドレット……!
 見届け人は、刃を納めて。
 私はただ、その場へと立ち尽くした。



 ――どうして、こうなっちゃったんだろう。
 裏切り者――何も知らなかった時は、そんな風に思っていたけれど。
 ハドレットが、わたしの弟が、意味もない事をする訳がない。
 きっと、わたしが何かをされそうになったから――ハドレットがされたような、何かを。
 だけど、其れが何かは、わからないまま。
 ――なんで、あんたが全部、苦しまなくちゃいけなかったの?
 実験場跡地を調べて、分かった。ハドレットが行ったこと――
 研究員を皆殺しにして、わたしや、他の皆に与えられた未曾有の劇薬を、二度と作り出せないように、全部、全部喰らい尽くしていた事。
 皆の命を奪って、ハドレットの身体をも蝕んだ其れ。無数の命を奪って作られていた研究を、何もかも破壊し尽くした。
 全部、わたしを守る為に。


 ハドレット。
 貴方が、居なくなるのなら。
 伝えられなかったさよならは、どうやって伝えれば良い?
 貴方が失った幸せは、貴方が得られなかった幸せは、一体どうやって貴方に返せば良い?
 貴方と生きていく約束は、どうやって果たせば良い?
 貴方の為に作った歌は、どこの誰へと届ければ良い――?


「クーナ」
 見届けてくれた、彼の呼び声。
 そうして続けられた其の言葉は、纏まらないクーナの意志を統一するかのように、明瞭に放たれた。
「――君を呼んでいる」
「――え?」
 言われ、気付く。
 光の無かった瞳の中に、ほんの僅かな意思の輝き。死に触れた表情で、必死に口を動かしている。
 ハドレットの命は、未だ、繋がっている――
 急いで駆け寄って、しゃがみこむ。
「……何? 何を伝えたいの、ハドレット?」
 見届け人と共に、荒い息を繰り返すハドレットを見つめる。
 意志の無かった筈の瞳が、ゆっくりと、だけど確実に見開かれて。
『もう一度……あの歌を……』
 話すことが出来なかった筈の、言葉を。
「やっと、覚えた言葉が……それなの? ……ばか。ばかだよ、あんたは。本当に……本当に……っ!」
 恨み言でも、悔やむ言葉でも。罵りの言葉でもない、たった一言のリクエスト。
 心に響く、最後の言葉。
「――ああ、いいともさ! 一曲と言わず、いくらでも歌ってあげる! 観客はこの人、それにハドレッドの二人だけ! だけど、だけど、だからこそっ……!」
 言葉が詰まる。其れでも、懸命に音を紡ぎだす。
「いい、ハドレッド! きちんと聞いてなさい! 寝ちゃダメよ!」
 ハドレットは、動かない。其れでも、瞳だけは間違いなくクーナを捉えていて。
 其の眼が、言葉よりも強く、彼の意思を示していた。
 全身全霊を持って、一つの唄を聞き届けようと。
「――この歌は、この歌だけはあなただけのために……!」
 息を吸い込む。深く、深く。
 意志を鎮める。歌を、唄を。
 そうして、想いを音に詰め込んで――
 ハドレットへと送る、最後に贈る大切な想いを。

 ――あなたと出会えた、この喜びを――





 たった二人だけが聞く――そして、ただ一人の為だけに紡ぎ上げられる、葬送歌。
 優しく柔らかい、心へと浸み込む音の奔流。
 其れはいつまでも、終わるとも知れぬ、世界へと還る祝福の旋律で有った――

 ――今まで、ありがとう。ずっと隣に居てくれて、ありがとう――

 ――今まで、ありがとう、お姉ちゃん――




 ――あとがき。
 という訳で物語『蒼日』読了ありがとうございました。
 此方の曲を聴いていて、初めはマトイのイメージが有ったのですが、ふっと、クーナの姿が連想できまして。
 そして気付けば紡ぎ上げていた、この物語。『それが、あなたの――』の前に存在したかもしれない物語です。
 ハドレットが裏切った、とありますけれど、其れは実際はクーナが誰かから命じられた際の理由だった事で。
 本当は、こうしてクーナを守るため――何もかも、自分を捨てても、彼女に生きて欲しかったから。そう思いたい想いから、書き上げました。

 重ね重ね読了ありがとうございました。また、よろしければ次なる物語もお付き合い下さいませ。

 使用曲:Radwimps『白日』
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