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ある曇り空の月見酒。

 なんかできてました。






 パチ、パチと小枝が爆ぜる音。
 薄暗い雲が空に広がった、ナベリウスの夜。
 釣り上げた魚を焼きながら、ヴァントは一人、杯を傾けた。清流色の柔らかい口当たりの酒。其れなりに値も張ったが、其の分の価値はあったようだ。
 森と凍土に程近い、湖畔の近く。冬の最中でありながら、凍り付く事もなく輝いている湖を眺めながら、一人で酒を飲み耽る。
 日頃の出来事やら、問題から離れた時間――ヴァントにとっての、至福の瞬間。
 ただ一人、夜色の空を仰ぐ。雲が解けるのも、そろそろの筈――
 背後から、足音が聞こえてきたのは其の時だった。
『――良い匂いがすると思ったら、先客が居ったか』
「ん?」
 敵意も殺意も感じられない聞き覚えのある声に、そっと背後を振り返る。
 アークスの物であった衣服を纏う、漆黒の大男。赤黒に染まった瞳を、いつもとは違う様子で見せる、アークスにとっての宿敵――ダークファルス・ヒューナル。
 正しいアークスであれば、即座に戦闘態勢へと切り替わるべきだ。ダーカーは、アークスの絶対敵性存在なのだから。
「――何だ、お前か」
 されど、ヴァントは構えを取る気もなかった。
『ほう。即座に襲いかかってくるかと思ったが』
 驚いたように、少し笑いながらヒューナルが話す。
 ヴァントは酒を注ぎながら、淡々と返答した。
「戦る気がない」
『ふむ。まぁ、其れは我も同じよ』
 見れば、其の手には何か、瓶のような物。
 つまりは、目的はヴァントと同じ――
 ――まぁ、いいか。
「――座れ。お前も目的は同じだろ、そんなもん持ってるなら」
 静寂。パチ、パチと炎が鳴り響く音だけを残して。
『…………ん?』
 返事が返ってきたのは、一分も経過しようかという頃だった。
 嘆息してから、もう一度問いかける。
「耳まで遠くなったのか、お前。さっさと座れ、酒が飲めん訳でもなかろうに」
『――――ふ、はははははっ! 我と酒を飲もうと、そういっておるのか、貴様! アークスが、ダークファルスと!』
「一人で待つのも暇だ、付き合え。杯位は持ってきてるだろ、お前も」
 呟いて、酒瓶を持ち上げる。彼の笑い声が勢いを増した。
『ははははっ! 面白い、実に面白いぞ! 酒宴と行こうか、若きアークスよ!』
「俺はヴァントだ、いい加減名前の一つも覚えろ」
『其れは失礼したな、ヴァント』
「ほれ、さっさと座れ。注いでやる」
『うむ、かたじけない』
 差し出された杯に、酒を傾ける。静かに滴り落ちてゆく清流を眺めるヒューナルの目は、いつもの戦士の其れとは違う、どこにでも居そうな男性の其れだった。
『ならば我も返杯と行こう。案ずるな、そちらの作り方を真似て我が造った物だ』
「頂こう」
 残っていた酒を飲み干して、ヒューナルへと差し出す。彼の瓶から流れ落ちる其の色は、ヴァントが普段飲む其れと同様に美しい色だった。
「折角だ、乾杯と行こうか」
『うむ。この数奇な、心地良き時間に、な』
 彼の持つ杯と、自分の其れを打ち合わせる。
 チィン、と微かな祝福の音色が、夜の世界へ広がった。

 打ち合わせた杯を、一息に飲み干す。
 ゆるりと世界が輝く、心地の良い味。かなり質の良い酒だ。
『……うむ。美味いものだな。そちらの酒は』
「其れなりに値が張ったからな」
 リリィに言わせれば、自分の収入の量を考えて物を言え、ということらしいが。
『若干キツいがな。我にはもう少し、柔らかい口当たりの物でもよさそうだ』
「お前の奴はちょうど良いが、度数が低い。もう少しアルコール濃度を上げてみてもいいんじゃないか」
『うむ、検討してみようぞ』
 飲み干して、焼き魚に手を伸ばす。ちょうど良い案分となっていた。
「ヒューナル、喰うか? そもそもお前等が何を食ってるのかよく知らんが」
『お主等と似たような物よ。我らが滅びずとも、素体の方には栄養を与えねばならぬしな。まぁ、この酒を開発してからは、其れも楽しみとなったがな」
「体すら誰かのを借りねばならんとは、難儀なもんだな。ほれ」
『頂こう。相変わらず面白き感覚をしておるな、お主。貴様の体も乗っ取って操られるかも知れぬというのに』
「入った瞬間に喰い殺してやるよ、安心しろ」
『ふははは! そうか、其れは実に楽しみだ!』
「こんな会話をアークスと交わしてる時点で、お前も随分変わってるよ」
『違いないな、はははは!』
 実に楽しそうに笑うヒューナルを横目に、自分の魚に齧りつく。
 眼前の湖畔から釣り上げたを枝に刺して焼いた程度の、特に加工もしていない純粋な味。幼き頃に慣れ親しんだ其れでもあった。
「塩は先に振ってる」
『いい案配だ。十分であろう』
 どこか満足そうに、ヒューナルの表情が綻んだ。
「其れは何よりだ」
『ふむ。こんな事になるので有れば、何か食物でも持ってくればよかったか』
「ダガンでもいれば、十分な食い物になるんだが」
『……流石にあの蜘蛛を喰らうのはどうかと思うぞ、ダーカーではない者が』
 随分な呆れ顔を見せるヒューナルに、ヴァントはただただ肩をすくめた。
「食えるものは何でも食えと教わったんでな。其れより、お前の庇護下にあるダーカー殺しを諫めようとも思わんのか」
『弱肉強食よ、我らで有っても。敗北したのであれば、そこまでのことだ』
「随分ドライだな。まぁ、よっぽど分かりやすい理論か」
『ましてや良き闘争であれば、尚更である』
 聞きあきたフレーズに、思わず顔をしかめる。
「良き闘争、とやらは良いんだが毎回毎回忙しい時に来るな。大体俺が相手する羽目になるだろうが」
『我とて在るが侭に生きるのみよ』
 こんこんと杯に酒を注ぎながら、ヒューナルはどこか楽しげに話している。
 在るが侭――其れは、ナベリウスという世界で生きてきたヴァントにとっても、とても慣れ親しんだ感覚で。
「つくづく、変わった奴だ」
『鏡に向けて言っておるのと同じ事よ』
「……お互い、変わり者らしいな」
『うむ』
 呟き、ヒューナルが空を見上げる。
 そうして、ほぅ、と息を吐くのがわかった。
『見上げよ、ヴァントよ。空が割れるぞ』
「ん」
 ヒューナルの言葉に従って、空を見上げる。
 夜を覆い隠していた薄雲の壁が、流れゆく風に乗って、薄く、溶け落ちて――
 煌々と輝く望月が、世界へと顔を覗かせた。
 雲の切れ間から眺める望月と、湖畔に写った揺らめく満月ーー天地に広がる、優しき月光。
 世界に広がる月影に、ヴァントはただただ感嘆の吐息を吐き出した。
『……うむ。良い月だ』
 それは、恐らくヒューナルも。
「あぁ。月見酒には、良すぎるほどに」
『月に酒。其れだけで、他には何も要らぬとは良く言ったものよ』
「全くだ」
 呟き、杯を傾ける。
 天地に輝く優しき輝きと、流麗なる酒の味。言葉など不要だと、何よりもよくわかる程の感嘆が、そこにはあった。
 ややあって、ヒューナルが徐に立ち上がる。至極、満足げな表情で。
『さて、我はそろそろ行くとしよう。余り離れておるとアプレンティスの奴がうるさいのでな』
「そうか。なら、またな、ヒューナル。今度会う時は」
『うむ。戦場で会おうぞ、ヴァントよ』
 実に楽しげに笑いながら、ヒューナルの姿が紅光へと溶けていく。
 霧のように去った事を見送って、ヴァントはまた湖畔に浮かぶ満月を見下ろした。
 そっと、杯を持ち上げる。
「随分と、良い月だったな」
 そうして、其の手に写る満月を、一息に飲み干した。
 充実した時を、最後まで堪能したままに。



 あとがき。
 何でこんなの思いついたのか。
 このヴァントなら、やる気がない宿敵相手なら、たぶん普通に飲もうぜと言い出すだろうな、と想定してたらこんな話ができました。
 戦場では殺し合って、それでも戦場以外では飲み友達。そんな関係が合っても面白いんじゃないかな、って思います。
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テーマ : PHANTASY STAR ONLINE2
ジャンル : オンラインゲーム

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 PSO2世界を旅する、気楽な放浪者の綴り草です。
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