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宙を駈ける虹の話

 相方からの寄贈作品に、追加加筆を行ったものです。
 先に『The good-bye-colored』を読了の上、お読み下さい。




 そして、彼が知らない物語 ――宙を駈ける虹の話――




 母親譲りの髪は焼けて、保護された先でベリーショートにされてしまった。
 包帯だらけで、とんでもない目に遭ったんだとすれ違う人皆が悲しそうな目で見てきた。車椅子の上、ゆったりした服の下は、そうした人達の想像通りギブスや縫合や包帯で肌なんて見えない。
 そんな可哀想な女の子に対して、上手にお座り出来るようになったばかりのガキんちょユキナミは――指を指して笑いやがった。
 ――なんて可愛げない子なの!
 それが、第一印象。
 そんな可愛げのないガキんちょの子守りが、トトカの仕事だった。アニマルセラピーならぬベビーセラピー、むしろ文字通りの尻拭いに悲しみを思い出す暇なんて寝る時だけで、そして泣きそうな夜になると先に隣で寝ていたガキんちょが泣き出すのだ。
 ――泣きたいのはあたしの方なのに……。
 そう思うのに、その小さな手が自分の手を必死に掴むのを見ると、涙は一筋しか流れないのだ。
 大嫌いな夢を見た後の朝を何度も繰り返して、その度にガキんちょは大きくなる。
「トトねー、なかないで」
 最初は人を見て笑っていたガキんちょが必死に『お姉ちゃん』をあやすようになって、
「だいじょーぶ、おねーちゃん泣いてないよ」
 そして、トトカは笑い方を思い出すのだ。
 それからしばらくして、アークスとしての資質――フォトンを感知し操る能力を持つことが分かった。
「――急いで働かないとと思ってるなら、心配しなくて良いのよ」
 アークス候補生として寮生活をする。トトカがそう決めた時、ユキナミの母親――自分の二番目のお母さんは敢えてそう言ってくれた。
 ――本当は、敵討ちしたいんじゃないかと心配していたのに。
 ダーカーに殺された両親、過去と身体をズタズタにされたトトカ。
 アークスになることは、そいつらに間接的に復讐出来るということ。
 でも、
「トトねー、いかないでー!!」
 古傷を構わず蹴り倒すガキんちょに戻ったユキナミが、泣いて縋ってくれる。
 そんな姿に、痛いけど笑顔になれる。
 あったかい気持ちを手に入れたトトカには、ダーカーを殺し尽す暗い未来なんて選択肢外のもので。
「トト姉ね、色んな所に行ってくるけど、ちゃんと帰ってくるよ」
 ――どうかこの優しい気持ちが、ユッキーにも伝わりますように。
 そんな願いと共に、小指を繋いだ。
「やくそくね、ぜったいね」
「うん」
「あしたのあしたには、かえってきてね」
「……それは無理かなぁ」
「ならやだー!!」
 拙い言葉。でも、言葉よりも雄弁な想いがトトカの未来を明るくしてくれた。


 だから、今度はトトカの番だ。
「私は、ここまで」
 最初で最後の嘘は、トトカが引き取られた理由。  
 だからこれは、トトカの本心。
「ユキナミ――またね」
 暗くて悲しい過去が、トトカの肩を叩いてる。
 迎えに来たと。今度こそ一緒に行こうと。
 ――嫌よ。
 髪と一緒に肩から払い、彼女は前を睨む。
 彼女の過去がユキナミの未来を奪うなら。
 ユキナミと二番目の両親がくれた未来で、奪い返すだけ。
 何度泣いても、何度悪夢を見ても。
 何度も笑えるように、優しい朝を迎えられるように。


 ――虹でもかかってくれないかな。
 真っ暗な宙(ソラ)から、赤く禍々しい星屑が降り注ぐ。
 宇宙の敵、ダーカー。
 青かった空も、明るく緑が茂っていた市街地も、黒と赤だけの世界になっていく。
 ユキナミと皆と過ごした青空の虹が、無性に恋しい。
 ――二時じゃないのに虹がかかったとか、言ってたなー。
 雨上がりの奇跡、それを見る度に皆笑っていた。
 戦況は最悪、太ももと腕は無傷なのに気を抜けば痙攣してしまいそうだ。
 大剣を持ち直し、大群に挑む。
 生き残れるなんて甘いことは考えてない。でも、もしも願いが叶うなら。
 青い空を見る度に、虹を見る度に。
「チェストォ――!!」
 ――生き残った皆が、私のことも思い出してくれますように。


『キャァァァ!!』
 ――!?
 大剣が、空を裂く。
 悲鳴は、後ろから。
「――っ!」
「――なぁ、来るなよぉ!!」
「助けて! 誰か助けて!!!」
 絶対に通さないと決意した場所から響く、悲鳴と殺戮の音。
 ――敵は、シェルターにもいた?
 嘘だと、気のせいだと信じたい可能性。でも――。
「やめて、よ……」
 即座に障壁に飛びかかり、叩く。
「うそでしょ!? やめてよ! やめてよ!!」
 叩いて、斬ろうとして――刃に乗ったフォトンが、ただ吸い込まれていく。
 フォトンコート、フォトンの障壁がダーカーの物理的侵攻を阻み、アークスの攻撃から建物を守る。
「ユキナミ、ユキナミ!!」
 それが今、トトカを阻んでいる。トトカの世界とユキナミの世界を反転させて、
「来ないで、お願いだから来ないで!!」
 未来と過去を入れ替える。
『あの時』も、アークスは誰も助けに来なかった。そのせいで、一般人はシェルターで怯えて。
 そうだ、あの時は天井が保たなかったのだ。そこからダーカーが来て、皆が転送装置へ押し寄せて、両親はトトカの為に――。
「やだやだ!! そんなのやだぁ!!」
 真っ黒い闇がユキナミを、トトカを、全てを飲み込んで――。



 ――むー。
 ――トト姉なにしてんのー?
 ――サポートパートナーの申請の準備ー。
 ――サポートパートナー?
 小首を傾げたあの日の君が、歪んでいく。
 ――アークスを手伝ってくれる子達のこと。
 ――え、それって僕もなれる!?
 あの日の笑顔が、記憶と手から零れ落ちていく。
 ――え……ああ、違う違う! 素体っていうのをベースにした、人工生命よ。最初からアークスを助ける為に作られるの。
 ――なーんだ。
 ――今は素体数が少ないから、好みに近いのを紹介してくれるけど、その内自分で全部指定して作れるかもしれないんだって。
 ――そーなんだ。
 ――……ユッキー、明らかに興味なくしたね。
 ――だって僕、トト姉と一緒にアークスになりたいんだもん。
 ――ははっ、それはサポートじゃ無理ね。
 約束が、未来が、優しい気持ちが――。


 ――トトねー、泣かないで!


「――ぁ」
 肩から背中にかけて、痛みが走った。
 無防備だった背中越しに聞こえる、カサカサという不気味な音。
「……だいじょーぶ」
 でも、おかげで頭が冴えた。
「ぉねーちゃん、泣いて、ないよ」 
 まだ、自分が生きてる。
 何度もダーカーに傷つけられた自分が、過去をめちゃくちゃにされたトトカが、生きてる。
 ――可愛げないガキんちょだったなぁ。
 その上、大きくなってからもアークスになったトトカと同じだけ動ける憎たらしい子。
 憎まれっ子は、世に憚るものだ。
「仕切り直し、よ!」
 笑みを浮かべて、ユキナミを信じて、集まり出したダーカーを青い大刃で薙ぎ払った。


 痛みが大きくなって、その度に手に熱いものが滴り落ちた。
 それを振り払うように戦い続けている内に、親指と小指の感覚も消えていった。
「全然、よわっちーわね」
 何かが上手く行く度にユキナミと立て合った親指、泣く度に繋いだ小指。
 何度も黒い闇が覆いかぶさって来て、その度に泣きそうになって、あの声と笑顔を思い出して。
 ――あんたもいつか、そんな風に戦うのかな。
「うちの弟の方が、っ、よっぽど強いわよ」
 負けん気の強い弟分。
 自分よりずっと強い、たった一人の弟。
「まだ、あたしの方が強いけどね!!」
 今もきっと、必死に生き残ってくれてると信じて。


 ボロボロの身体が、膝から崩れ落ちる。
 それに少し遅れて、最後の黒い塊が灰となって散った。
 少しでも自分は、守れたのだろうか。その中に、あの子はいるだろうか。
 これから先、あの子はどんな選択をするのだろうか。
 前を向いてくれるのだろうか、必死に生きる人々を守ろうと戦うのだろうか。
 過去に苦しんでしまうのだろうか、失った人々の為だけに戦うのだろうか。
 ちゃんと笑って、くれるだろうか。
 笑い方を忘れて、しまわないだろうか。
 ――それは、嫌だなぁ。
 自分の想像に、泣きたくなる。
 悲しい気持ちじゃなくて、あったかい笑顔で、優しい気持ちと一緒に、思い出して欲しい。
 背中が痛い。どうしようもない不覚に、苦笑いしか浮かばない。
 ――ユッキーには、こんな目に遭って欲しくないなぁ……。
 でも、自分に出来ることはもう――

 
 ――もー、信じられないー!
 ――……何だ、どうした?
 ――サポートパートナー申請、試験制だったのよ! 今のでもきついのにこの上更にあれやれこれやれ言われちゃったのー!
 ――サポートパートナー?
 ――知らないの? 最近導入された新制度。アークス個人の助手でね、なんか他の同期が連れててさ、サポートの戦績が自分の戦績にカウントされたり収集手伝ってくれるって話でさ。
 ――ほう、つまりそいつらは候補生をやらずとも好き勝手動き回れる訳か。わかった俺もサポートパートナーに登録させてもらおう。
 ――え、無理無理。サポートパートナーは人工生命だもの。サイズもスゴく小さいから一発で分かるよ。
 ――……そうなのか。じゃあ逆にそいつ等は経験を積んでからアークスか候補生に昇級するのか?
 ――んん? しないんじゃないかな。っていうか――――なんか勘違いしてない?
 ――何がだ?
 ――サポートパートナーはあくまでアークスのサポートの為に生まれてくるの。アークスになりたくてとかそういうのはなくて、本当にアークスの為のものなの。
 ――そいつら何の為に生きてるんだ?
 ――いやだからアークスの助手だってば。
 ――馬鹿らしい。自分の意志で動けぬ奴が何の役に立つ。
 ――あはは、あんたにかかればどんなサポートも無理矢理自立させられそうね。
 ――当たり前の話だろう、――


 ――トトカッ!!


 ぼやけていた視界が、意識が、強制的に引きずり起こされる感覚。
 目を開けたら、青い空が戻っていた。
「おい、トトカッ起きろ!!」
 否、それは人の形をしていた。
 其の表情は今まで見たことないくらい必死そうで、辛そうだった。
 置いていった、候補生としては同期なのに未だアークスになれていない青年。
「――あ、ヴァ……ト……ご、め――」
「うるさい黙れ! 喋るな、傷が――」
「あ、はは……あ、たしは、もう……ダメ、っぽい」
 古ぼけた外套越しの彼の匂いでマシになってるが、気持ち悪いダーカー因子のせいで呼吸する端から毒ガスを吸って血を吐いている気分になる。追い出そうにも、体内のフォトンは完全に枯渇してしまっていた。身体もボロボロで、もう動く場所なんか、振動する肺と心臓くらいだ。
 ――でも。
 必死にトトカは彼へと意識を向けた。青い髪と、鮮やかな羽の髪飾り。
 虹と呼ぶには、あまりにもボロボロな恰好の青年だけれど、
「お願い、が、あるの……」
 この奇跡を手放す訳にはいかない。自分が生きてる内に彼が来てくれたことを、無駄にはしたくない。
 アークス候補生の頃から、トトカの過去を知る教官は耳にタコが出来るくらい言い聞かせてきた――戦う時は、絶対に両親を失った時の気持ちに帰ってはいけないと。
 フラッシュバック。過去への回帰、きちんとした覚悟と意志でなく、無慈悲な現実からの絶望的な逃避行為。
 それは目的を果たす役には、決して立たないのだと。
 ――なのに、さ。
 障壁向こうからの悲鳴で、自分はあっさりとやらかしてしまった。まだ分からない皆の未来を、絶望で閉ざした。
 でも、
「ユキ、ナミ、の、こと……お願、い――」
 それでも、諦めちゃいけない。あの子の未来を、希望を、捨てちゃいけない。
 きっとこの青年なら、最強の大剣使いなら、きっと。
 どんな暗い未来も追いかけてくる過去の悪夢も、きっと――。
「何を」
 笑う、笑ってみせる。彼がトトカと願いを思い出した時、後悔だけはさせたくないから。
 ――我ながら勝手なお願いだけど、さ。
「今までの、遅刻の、ツケ」
「……っ、お前が見ろ! 弟なのだろう、生き延びて――」
 青年の顔が歪む。それはきっと、トトカの視界が機能を失い始めたからだけでは、ない。
 ――こんな、顔、初めて、見た、な。
 叫ぶ彼に、ただ、作りものでなく、本心で笑った。
「――生きとくよ、二人の、中で……何も、ゴホッ、出来ないけど、さ。だから――」
 もう自分は旅立たないといけないけれど。きっと、少年や青年と話すことは出来ないけど。
 少年が青年に引っ張ってもらって笑って、青年は少年を引っ張って前を向いてくれたら。
 肩を叩く闇にすら、微笑むことが出来るから――


 ――元気で、ね。
 ユキ、ナミ。
 ヴァン……ト――




「――おい」
 青年は叫ぶ。
「おい、トトカ」
 少女の名を呼ぶ。
「――――」
 少女は、答えない。ヴァント、と青年の名を呼ぶこともない。
 闇に塗れて倒れ伏した、其の瞳が開くことは、二度と、ない。
「――トトカ」
 青年は、少女の名を呼ぶ。
 答えが無いことを、知りながら。
 そっと、少女の身体を横たえる。
「――後は、引き受ける。任せて、おけ」
 そうして、彼は刃を構え――
 閉じられた障壁を『真っ二つ』に引き裂いた。
 フォトンの防壁をも気にせず、紙を引き裂くように切り落とした青年は、砕け散った大剣を放り捨てた。
 少女の傍らに立て掛けられていた剣――古の大樹から作り上げられた刃に手を伸ばす。そうして、一度だけ少女を振り返り、駆け出した。
「――お休み、トトカ」
 そんな言葉を残して、ただ一人――夜闇の波の先へと。





「――ん」
 数ヶ月ぶりに来訪した、記念碑の先。乱雑に、されど美しい花々が献花されていることに気付いて、彼は静かに口元を緩めた。
「そうか。あいつも、来ていたのか」
 それらを簡単に束ねて、自分の持ってきた花束共々置き直す。
 優しく吹く風に蒼髪を遊ばれながら、一人――ヴァントは静かに呟いた。
「――トトカ。お前の忘れ形見、順調に育っているぞ」
 障壁を突破した先は、死体しか見えないモルグと化していた。
 其の中で唯一、ダーカー因子に侵されながらも生き続けていた、一人の少年。
 即座に転移装置を走らせて、メディカルセンターにねじ込んで――再度の面会が出来たのは、其れから一月ほども先のこと。
 ユキナミ、という名前を知った時は、ただただ胸を撫で下ろしたのを覚えている。間違いなく、トトカの忘れ形見だと。
 其の後は、訓練と称して色々と叩き込んできたが――何とか形にはなってくれた。あの半分命を捨てるような戦い方だけはどうしようもなかったが、概ね真っ直ぐに育ってくれた。
 ――お陰で、なんとか顔向けが出来そうだ。
 これで、どこかで死なせてしまったり、捻じ曲がってしまっていたら――こうして花束を捧げに来る頻度が確実に増加していそうだ。
「――あいつも俺もお前に会いに行くのは、相当先の話になりそうだ。土産話は其の時まで、我慢してくれ」
 空へと言葉を投げかける。帰って来ない返事を思い、笑いながら。
「――またな」
 ヴァントは軽く手を振って、踵を返し、歩き出した。




 手向けられた花束だけが、風に遊ばれて左右へと揺れていた。
 まるで、青年の道行きを、手を振って見送るように――


 ――あとがき。
 物語『The good-bye colored』のトトカ視点の物語、並びにもう一人の登場人物であったヴァントの過去物語。
 こちら、大半は相方から寄贈された作品になります。ヴァント視点の後半部分のみ、此方が書き加えた部分ですね。
 相変わらずの速度で仕上げてくれました。三時間でここまで書けるってどういう事ですか(;; )
※途中で緊急ありました。参戦、してました。

「トイトレ(トイレトレーニング)がユッキーは遅かった上大変だったようですね。(・w・`)←名付け親による特権「許可を取って捏造」
 作成を手助けするようにと偶然BGMにした曲でしたが「トトカのイメージに合う」と言われ、この曲は自分が書くぞと一念発起しました。
 本来この歌は別の世界同士を繋げ直す目的があります。 そこへ迫ってくる暗い過去に消されそうな未来、虹(奇跡)と青空が開く未来。そんなイメージを込めました。
 BGMも大変聞きやすく訴えかける素敵な曲ですのでよろしければ一度聴いて頂けると一ファンとして嬉しいです。最後まで読んで頂きありがとうございます」

 それでは、読了頂きありがとうございました。

 使用曲『Class::AR_NOSURGE#RE:Incarnation;』(南條愛乃『キャスティ・リアノイト』)
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