スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

The good-bye-colored ――the former

 三日連続ですってよ(・・ )
 しかも新ストーリーの前編なんですってよ(・・ )

 何してるんだろうホント。



「――さぁ」
 シュン、と小さな音がして。
「私は、ここまで」
 黒き波を前に、彼女は笑いながらそう言った。
「ユキナミ」
 青い光の壁に隔たれた先、二度と渡れない壁の先。
「――またね」
 そうして、少女との世界は閉じた。
 少女は最後まで、微笑んでいた――




 ――……ん……。
 瞼の狭間から差し込む光。緩やかに覚醒する意識の中で、のそりと体を起こす。
 時計を確認したら、まだ午前四時前。活動開始には速過ぎる時間だ。
 隣を見れば、未だ微かな寝息を立てるリユイが居た。布団を掛け直してから、一人静かにベットから這い出す。
 ――懐かしい夢、見たなー。
 途切れた視界――夢の先。永遠に忘れられない、忘れてはならない一つの事象。ユキナミが存在する、其の理由。
 寝巻きをパパっと脱ぎ捨てて、いつもの外套を羽織る。ついでに軽くなり始めた財布をポケットに。
 枕元に書き置きを残して、ユキナミはマイルームを後にした。

 早朝のストリートエリアは、大抵の場合誰とすれ違うこともない。早朝に活動を開始する人達も珍しく、朝の散歩にも速過ぎる時間。
 静まり返った世界を歩いていると、否応なく夢の記憶に思いを馳せていた。
 ――最近、忙しかったしなー。
 テクテクと、心を鎮める様に歩きながら。
 メインストリートを抜け、市街地エリアの外れ――小高い丘の上に立てられた、一つの石碑。
 今朝見た夢の終着点。ユキナミが目指していた目的地。
「久しぶり、父さん。母さん。――トト姉」
 亡骸のない、慰霊碑の前。
 アークスシップ・エリスに対する数年前の襲撃事件後に作られたモニュメント。
 皆の名前が刻み込まれた慰霊碑を見つめながら、ユキナミはそっと呟いた。
 ――何年前だっけ……四年前だっけ、あの日は。
 蒼く広がった空を眺めて、ユキナミはそっと意識を過去へ巡らせた。




「――起きなさーい!!」
 ガンガンガンガン、と工事現場の如く鳴り響く金属音。
「うわぁっ?!」
 耳障りな異音の合唱に、思わず身体が跳ね起きた。くらくらする聴覚と、ぼやけた視界の中で、何とか意識を取り戻す。
 ややあって落ち着いた世界の中には、見知った人の姿があった。
 右手にお玉、左手にフライパンを持ったエプロン姿の女性。肩より伸びた栗色の髪は寝起きのようにあらぶっていて、それなりに整った顔つきには青筋が浮いていた。
「――おはよー、トト姉」
「おはよう。何時まで寝てる気、ユッキー?」
「休みだし、昼ま――」
「黙るッ!」
 スカァン、と小気味良い音が脳天から鳴り響くのがわかった。お玉の情熱的なキッスと一緒に。
「……つーか何でトト姉が家居るのさ、アークスの仕事じゃなかったっけ」
 空中でくるくる回るお玉を掴んで、おでこをさすりながら、ユキナミは小さく呟いた。それに、彼女――トトカは呆れたように肩を竦めた。
「同期の候補生と行ってきたらあっさりと片づいたわよ。あの蒼鬼つくづく人外だわ、全く。なんであたしがアークスで、あいつがまだ候補生やらされてんのかわっかんないなー」
「あぁ、よく話してる人だねー。ホントどんな人なのさ」
「薄汚い浮浪者みたいな化け物よ」
「……ふろーしゃのばけもの? 面白そうな人だねー」
 無表情で呟いたトトカに、
「いや其れが本当なんだけど……まぁいいわ。ユッキー、朝ごはん出来てるから降りてきなさい」
「え? トト姉、作ってくれたの?」
「ユッキーの親御さんから頼まれたからねー。自信作よ?」
「黒こげじゃなければ何でもいいよー」
 ――スカァン!
 トトカが投げたフライパンが飛来するのと言い終えるのは、ぴったり同時であった。


 アークスシップ・エリス――ユキナミが生まれ育った船。
 其の、一般居住区エリアに併設されている、巨大な緑地。自生する動植物の音色が静かに響く、穏やかな筈の憩いの場。
「――ッァ!!」
 しかし、響きわたる声は激しく、静寂とはかけ離れた剣戟の音であった。
「チェストォッ!!」
 子供と女性の声、ではあるが放つ声には明確な殺気が溢れていた。
「おー、いいぞユキ坊ー!」
「ねーちゃんひるんでるぞー!」
「お姉ちゃんユッキーなんかに負けるなー!」
「がんばってー!」
 そんな戦場の周囲では明確なヤジが飛び交っている。子供達の黄色い応援は、両者それぞれに向いていた。
 子供達に混じって見物しているジョギング中の人やらボードゲームに興じていた老人達も、足を止めて二人のイベントを見守っていた。
「――ゼェァァァ!」
 幾度かの打ち合わせが成された直後、少年の薙刀が唸りをあげた。女性が空中から着地する、その寸前。
 神速で心臓へと放たれた一撃に、女性が冷や汗を流しながら刃を合わせ――前へ。
 槍の柄に大剣を滑らせ、瞬時に間合いへ。
「シャァァァッ!!」
 されど、少年が反応。致命的な間合いまで詰まる寸前、突き出した薙刀を思い切り振り上げ――落とす。
 打ち据える程度の一撃だが、少女は反応。真横に飛んで、距離を取った。
 離れて、一瞬。張りつめていた空気が、ほんの少し和らいで。
「――ユッキー。何時の間にそこまで育ったの?」
「トト姉のおかげー」
 両者が同時に力を抜いた。
 引き分けに終わった演習に、周囲から歓声が沸き上がる。両者ともがその場に身を投げ出して、ため息を吐き出した。
「おかしいなー、訓練つけてる筈なのになーんで引き分けなの……」
「今度こそ追いつけると思ったのに……」
 地面にうつぶせになっているユキナミの呟きに、トトカは座り込んだまま半眼を投げつけた。
「正アークスが候補生ですらない子供に相打ちの時点で、大恥なのよ?」
「じゃー今度こそ勝ってもっと恥かかせてやる」
「言うじゃない、ユッキー。それじゃ、休憩したら筋トレから再開しましょう?」
 ゆっくりと立ち上がって、トトカ。周囲に居た人垣は、いつの間にか皆散っていた。
 ユキナミも小さく頷いて、地面から体を離した――瞬間。
 ぐぅ、と二つ分の音色が鳴った。
「――その前にお昼ご飯にしない?」
「うん、同感」
 恥ずかしげに顔を赤らめながら、トトカが小声で呟いた。




「あの頃は楽しかったなー」
 数年前に思いを馳せながら、小さく呟く。
 トトカとは生まれて、三歳頃からの付き合いだった。
 トトカの両親は事故が原因で亡くなって、自身の親が引き取ったと教えて貰った。
 初めて会った時は迷惑を沢山かけたらしいけれど、覚えていない。もう時効だろうし。
 ユキナミの思い出の中のトトカは、アークス候補生の制服を着た姿ばかり。ただ、覚えている古い記憶の中の彼女は普通の服を着てどこかへ行こうとしていて、とにかく自分は泣いて喚いて叩いて蹴って必死に引き留めようとしていた気がする。
 帰ってくる度に彼女の真新しい制服がしわくちゃになってしまうまで遊んでくれて、段々と綺麗だった服は落ち着いた色合いになり、彼女の背丈がそれに見合うものになって。
 自分は彼女がアークスとなる勉強をしていると知って、憧れよりも何より一緒に出来る何かが欲しくて。
 それから。
 それから――。




「――おはよー!」
「あ、おっはよー!」
「ユッキーおっそいよー」
 わいわいと沸き上がる声達に、ユキナミは適当に手をあげて答えた。
 六歳から十二歳までの子供達が集められた学校。子供達が日常の殆どを過ごす場所。
「姉さん帰ってきてたから特訓してたのさー」
「トトカさん帰って来てたの?」
「そーそー」
「確か今日まで居ないんだー、って言ってなかった?」
「早く終わったって――」
 言葉を遮って、カラァン、と大きな鐘の音一つ。授業開始を知らせる大きな音色。
 直後、プシューと前の扉が開いて、大股で男性が入ってくる――担任教師。
「おしゃべりはそこまで、全員静かにするように」
 途端に、教室は水を打ったように静かになって、立っていた子供達も慌てて着席する。
 ピンと張り詰めたようになる教室の空気に、自席の端末を起動させつつユキナミは小さく嘆息した。
 ――つまんないなぁ。
 一般的な義務教育。一日の大半を机に座っての勉学に費やされる日々。
 そんな事をしている暇があれば、走り込みをしたい。戦闘訓練をしたい。文字の読み書きは大体できるのだから、後は強くなりたい。
「はい、それじゃ日直」
「起立!」
 義務化した声に合わせて、全員が席を立つ。周囲に動きを合わせながら、ただただ肩を竦めた。
「礼!」
 ――早く夕方にならないかなー。
 心の中で呟きながら、周りと一緒に頭を下げた。




 ――何より、退屈だった毎日を吹き飛ばしてくれた。
 彼女がアークス候補生の頃から、稽古をつけてくれた。元々勉強嫌いで、机に向かっているのも嫌だった。そんな中で、無理に勉学を進めずに、一緒に過ごしてくれたこと。きっと疲れて休みたかったのに嫌な顔一つしないで、ずっと訓練だったり遊びだったり、一緒に付き合ってくれた。
 ――おかげで、学校じゃ筋肉馬鹿扱いだったっけ。
 其れは今も何も変わらない。少しは勉強もしたのだけれど、元々頭は良くなかったようだし。
 そんでもって体育祭とかじゃ最上位の学年を悠々と追い抜けるレベルの俊足で色々引っ張り出された。何が悲しくて1対6リレーをしなくちゃいけないのか――其れで勝ててしまう時点で色々とおかしいのだろうけれど。
 そのおかげで、今の自分があると思えば、本当に有り難い限りではあるけれど。

 あの日の始まりも、普段と何一つ変わらなかった。
 家に帰ってきていたトトカに訓練をつけて貰って、ソーンへと出発した彼女を見送って。
 両親は仕事に行って。自分も、つまらない事が多かった学校に行って――

 あんな事になるなんて。
 誰一人、知る者はいなかった。




 ――さて、そろそろ約束の時間なんだけど。
 アークスシップ・ソーン。ゲートエリアの一角、喫茶店で紅茶を飲みながら。
 ――彼はまた遅刻か。
 かれこれ何杯目になるか忘れたが、本音を言えば、いい加減にしてほしい。
 少なくとも遅れてきた分、ここの代金は向こうに持ってもらわないとーー
『すまん。トトカ、いるか?』
「――あ、お疲れ様。終わったの?」
 突然飛来した秘匿通信に、合わせて秘匿通信で返答する。待ち合わせをしていた、通信先からの返事は、すぐにあった。
『まだ若干掛かりそうだ。リリーパに居るんでな』
「連絡遅いよ! 何、あたしの周囲は待たせる人しかいないの!?」
『文句は教官共に言え、話が長すぎるんだあいつら』
「演習でビッグヴァーダーの本体真っ二つに叩き斬ったって聞いたよ。その爆発で坑道を一部崩壊させたって。他の皆、無事だったの?」
 向こうから聞こえてきたのは嘆息だった。
『あの程度で文句を言われてもな……俺も手持ちの剣が何本壊れたか、全く。まぁ、こっちの処理は終わったが、後三十分ほど待たせる。すまんな』
「遅れるって知っていたら、ユッキーの訓練内容もうちょっと考えてたわよ」
 最近、メキメキと力がついてきた弟分を思い出す。肉体的には十歳――背丈を除けば、アークス候補として超有望な一人。フォトンが使えるか怪しいという点を除けば。
 彼が希望すれば、すぐにでも教官に頼み込んで、アークス候補生の群れに放り込んで見せるのに。
『ん、弟分だったか? どんな奴か気になるな、既にお前と引き分けるレベルなら』
「あれは訓練だからよ! 実戦でやったら負けてないわ!」
『終いに追い抜かれるんじゃないかお前。今度候補生として連れてこい、面白そうだ』
「余計な事はいいから、早く帰ってきなさーい!」
『あぁ、分かった分かった。さっさと――』

 刹那。
 ――ビィーッ!!
 緊急事態を示す警報が鳴り響き、ゲートエリアの壁面が紅へと塗り替えられた。
≪緊急警報発令! アークスシップ・エリスに多数のダーカーが接近しています! アークス各員は至急、出撃願います!≫
「……え?」
『おい、どうした?』
 ――今の、アナウンス。
≪繰り返します! アークスシップ・エリスに多数のダーカーが接近しています――≫
 無常に告げられる、船の名。
 今朝まで滞在していた――家族の皆が居る、大切な故郷の名前。
「緊急警報……エ、エリスに……!?」
『何だと?』
「ごめん、先に行く!」
『おい待て! 俺も――』
 通信を叩き切る。彼を待っている暇なんてない。
 自分一人で、ダーカーの群れに突撃するなんて、考えたこともなかったけれど。
 ――皆が、居るから。
 画面の中で、未曾有の波が一隻のアークスシップへと殺到する光景を見つめながら。
 ――お父さん、お母さん。ユッキー。今、行くよ。
 トトカは即座に、キャンプシップへと駆け出した。




 ――早く終わらないかなー。
 教室前の巨大スクリーンに映し出される文字の羅列を頬杖ついて眺めながら、ただただユキナミは内心で呟いた。
 暇なのだ。どうしようもなく暇なのだ。
 予鈴まで後一分――それが鳴ってくれさえすれば、学校生活中唯一の楽しみである昼ご飯。
 其れが終われば昼休みだ。思い切り遊び回れる。
 ――まぁ、昼寝するけど。
「――以上、分かったな!」
『はーい』
「よし、それじゃぁ――」
 教師の目が、壁掛け時計に動く。デジタルの時刻計が、丁度予鈴時刻を指して――

 ――ビィーッ!!

 予鈴が鳴り響く事は、無かった。
「キャーッ!?」
「うわ、何々ー!!」
 けたたましい騒音が教室中、否学校中に響き渡って、つまらない文字列が踊っていたスクリーンが、赤一色に変貌する。
 生まれてから一度もなかった、子供はおろか大人達すら知識としてしか見たことのない異様な光景。
 ――これって。
 ユキナミは、知っていた。トトカから聞いた事がある、緊急警報の其れに似たこの光景を。
 警報が鳴り止まぬ中、反射的に窓の外を見やる。
 そうして、ユキナミは全てを理解した。

《緊急警報が発令されました! 市街地エリアの住民はただちに各シェルターへ避難を開始してください! 繰り返します――》

 広がっていた筈の青空が、闇色に変貌し。刹那に空が砕け、紅闇の波が溢れ還っていく。
 教室中に、悲鳴が、絶叫が、絶望が渦巻いて。
 紅闇の輝きが、青空を覆い尽くして――

 アークスシップ・エリスにおけるダーカー襲撃事件は、そうして始まった。



スポンサーサイト

テーマ : PHANTASY STAR ONLINE2
ジャンル : オンラインゲーム

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Author:ヴァント
 PSO2世界を旅する、気楽な放浪者の綴り草です。
ツイッターやってます。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。