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アークス達の非日常~~温泉~~

 続きからどうぞ。




「撮影以上です、みなさんお疲れ様でしたー!」
「「「お疲れ様でしたー!」」」
 森林の開けた場所に響く声、その中心には話題のアイドル。
「みんなー、ありがとー!!」
 新しいCDのジャケット、特典映像、写真、並びにアークス広報活動。その為に集まった者達がようやく仕事が終わり肩の荷を下ろす中、
「終わったか」
「あ、はい!」
 木立の中から飛び出した放浪者の言葉に、驚きつつも撮影班が頷いた。それに合わせるように次々と森から姿を見せるアークス達。
「うー、おっつかれー!」
「クエストクリア、ですかね」
「お疲れ様ー」
 その総勢、サポートパートナーも合わせて十二人。
 表向き非戦闘員であるアイドルと、実質後方支援担当である広報部所属者達の護衛。それが今回ヴァント達の請け負った依頼だ。
 エネミーが近づかないように見張り、適当に追っ払ったりして、撮影の邪魔をさせない。どこぞのケーキ屋の商品を守るよりは安全な仕事だが、そこらの依頼よりずっと高い報酬である。
 ただ。
「じゃー、あたしはこの後護衛の皆と――」
「クーナさん撮影お疲れ様でした、向こうでバーベキューの準備が出来てますよ!」
「え?」
「安全な区域ですし交流会も兼ねてますからアークスもたくさんいるんで安心して楽しめますよ!!」
「ちょ、いやあた しは」
「護衛のみなさんも」
「いや、俺達は最初の打合せ通りここでゆっくりさせてもらう」
「そうですか、ではお疲れ様でした」
「だからあたしもー!!」
 慌ただしくキャンプシップへと戻った者達――戻らされた者含む――を見送り、
「じゃ、行くか」
 ヴァント達は報酬を楽しむ為に連れ立って歩き出した。

 白い霧が辺りを覆い、地盤からは仄かな暖かみ。
 幾つもの綺麗な泉が広がった、周囲を森に囲まれた、岩風呂の温泉地帯――
『おー!』
 感嘆の声が多数、ナベリウスの空に呑まれる。
 今回撮影に使われる為他のアークス達も立ち入りを禁じられ、自分達で安全区域へと塗り替えた場所に広がる景色は見事という言葉に尽きた。
 戦績や金銭を超え た報酬、それがこの貸切状態の露天風呂である。
「スゲー綺麗って奴だねー、実に清酒が合う光景!」
 約一名台無しな感想を上げた奴も居たけれど。
「入る前から飲む算段かお前は」
「先に着替えようか、リリィ氏」
 荷物から意気揚々と大瓶を取り出すリリィに、ヴァントと朱雀が同時に半眼を投げつけた。
「しかし、本当に良い場所ですね、ここは。これほど清々しい景色がナベリウスにあったとは」
「その仮面のせいで清々しさ消し飛んでると思うよ、ライサさん。いい加減返り血洗ったら?」
「ぴぴぃ」
 凄惨な色に変わりつつある死神のお面を外そうともせずにいるライサへと半眼で呟いたユキナミに、後ろでラピピが同調するように頷いた。
「それじゃ皆さん、着替えまし ょうねー」
 それ全員を纏めるように、パン、と手を叩いて金髪の女性が声を上げる。道行けば半分以上は振り返るだろう、美しいキャストだ。
 ヴァントの知り合いである凛の姉であり、三姉妹長女麗である。
『はーい』
「うん、良い返事」
 さすが長女、纏め役は慣れた者である。肝心の二人の妹達は既に着替えにか消えた後だったけれど。
「諷雫、さっきの頼むぞー」
「はーい」
 麗の隣で色々と用意していた諷雫が頷き、ヴァントが男性用の着替え場へと歩き出す。それを追って男性陣が歩きだし、併せて女性陣も着替えへと向かっていった。
「じゃ、準備出来たら私達は一足先にはいろっか」
「はい!」
 かく言う二人はタオル姿でも水着でもない。
「オッケーです。― ―えっと、本当に膝下だけで脱いだら良いんですよね?」
「そうそう、足湯は靴と靴下だけ脱げば良いのよー」
 断固として太ももを晒したくないという諷雫の希望に応えて、今回二人は足湯組なのである。
「ごめんなさい麗さん、突き合わせてしまって」
「気にしないでに。私もその方が長く浸かってられるし」
「ありがとうございますー」
 安堵の表情でブーツ、靴下と脱ぐ諷雫を――そのふくらはぎを見る麗の眼孔が若干以上鋭かったことに、気がつく者は、誰一人いなかった。

 男性用の脱衣所――というのもおこがましいほどの掘っ立て小屋でしかないが。
「さて、どうしましょうか」
 ライサが仮面越しに呟き、周囲もただ同意した。
「んー……どうしよう?」
「 隠れる気すらないらしいですね」
 脱衣所は天井と壁の間に隙間があり、見ようと思えば外からでも見れる。
「にゅふふふ」
 だが、誰が男の脱衣所を覗く少女を予想できただろうか。Y染色体の有無で脱衣所に入れないからと油断した途端これである。
「僕は別にこのまま温泉行っても良いんだけど」
「俺もだな」
「「そのまま入らないでください」」
 ユキナミ、ヴァントが外套のまま出ようとするのを、椿とライサが即座に静止。このまま二人を行かせれば貴重な温泉が汚れにまみれること確定である。
「というかその服いつから洗ってないんですか、似たような服を着ているライサさんにも迷惑になるでしょう」
「別に汚れた服でいることは構いませんが、折角身を清めるつもりで 来たのに汚されては困ります」
「――わかったわかった、ならとっとと脱いで行くぞ」
 バサァ、と勢い良くヴァントが外套を脱ぎ捨てる。放浪生活の長さでくたびれた服が、あっさりと地に落ちる。
「わふ!?」
 裂け目の向こうから、そんな声。どうやら予想外だったらしく、目に見えて動揺していた。
 その背後に、黄色い影。
「――ぴっ」
「え? あ、ちょ――」
 俊足の鳥に抱えられた凛が、どこかに運ばれるのが見えた。
「慌てるなら最初から来なきゃ良いのに」
 ユキナミはついそんなことを呟いて服を脱ぎ、乱雑に散らばるそれらを拾って畳みながら椿は無言で頷いた。

 ――さて、この状況は予想していたがどうしたものか。
「ぬふふふふふ」
 男性が女性に覗かれるなんて、と思うかもしれない。
 が、女性である朱雀からしたらまだマシじゃないかと思うのだ。
「ルーン氏、震えてはダメだ」
「は、はい」
 涙目のサポートパートナーが、震える手で必死に服を脱ごうとしている。けれど、それは逆効果だ。
 ――嗚呼、覗かれるなんてまだマシじゃないか。
「マンルーンちゃん涙目かわゆす、朱雀さんのためらいのなさカッコいいよ」
 ピンクの髪の少女――澪がそんな風に呟きながら、カメラを構える。シャッター音が響くより先に己の着ていた服を脱いでレンズから身を隠す。
 凜の姉、かつ麗の妹である次女。長女の美しさと末女の可愛さを足して二で割った少女である。
 ――ただちょっとこれはないだろう。
  本日クーナの姿を撮影した時の真剣さはそのままに、マシンガンのように連射されるレンズが向けるのは女体――というか肌の部分。脱ぐ瞬間に正確に被るシャッター音と歓声は普通の感性を持つ少女達を戦慄させて余りある行為だ。
 レズなのかバイなのかはどうでもいいが、女性に脱衣姿をガン見されるなんて、普通想像できない。
 ついでにカメラを向けられてる時点で色々おかしい。
「こんな場所で写真なんて撮らないでください!」
「ぎゃふっ!」
「うっとうしい!」
 文句と同時に放たれた一閃がカメラと肌に突き刺さって、澪が大きく仰け反る。その瞬間を見誤らず放たれたリリィの一蹴が、カメラマンアークスを屋外へと追い出した。
「ナイスだ、リユイ氏、リリィ氏」
「は ぁ……」
「とっとと着替えちゃお」
 ため息を吐きながらも二人は躊躇いなく服を脱ぎ、水着とタオルをつける。マンルーンも何とか着替えは済んだらしい。
 しかし、脱ぐ動作やタオルを巻く行為で致命的な一枚を防いでいた朱雀は思案する。
 もう脱ぐことはないが、本番で自分の色々と大事な物を守れる気がしない。最悪脱がされたりする可能性すら考えた方が良いかもしれない。裸くらい、とまで開き直ったらその瞬間一番大事なものを失う気もする。
 ――ホント、ヴァント氏もライサ氏も恨むよ。安全圏逃げちゃって。
 性別の違う二人に当たってもどうしようもないのだけれども――
 と。
「ふみゅー!」
「ん?」
 悲鳴らしき声に、其方を見やる。
 あぷ、あぷと大 きな脱衣籠の中でタオルの海に溺れる小さな女の子――クーガ。
 ――ふむ。
 朱雀は中距離メインのアークスだ。一瞬一瞬の情報を即座に処理して素早い行動を要求される彼女は、状況処理については結構強い。
 そこから推測するに、おそらく身体に巻く為の大きなタオルを取ろうと女性一人が抱える程度の籠に顔を突っ込み、そのまま転がり落ち、どうにか這い上がろうとしてどんどんタオルが巻き付いてしまったのだろう。
 それを理解して尚、暫し朱雀は童女を眺め。
「ゆ……ゆ?」
 タオルごと、童女を抱き上げた。
 ――でもこれで、僕も人のことは言えないかな?
 今から行おうとする人ならざる行為を想定して、朱雀はただ肩を竦めた。

「ぬふふふふ、カ メラはあれ一つじゃないのよー」
 着替え室の外に出て、そっと出入り口を見て澪は笑った。既に着替えは済んでいるから問題ない。というか凛と違って澪は本当に裸でも問題ない。
 ――しかし流石に明け透けにやりすぎたか。
 まさかリリィにまで追い出されるとは予想外だった。フォースとしてテクニック行使には長けるが、即座の力技はちょっと勝てない。
 ――次からは気をつけないと。
 反省しても自制はしない。滾る想いのままに、カメラを構える――
 図ったように現れた人影に目とレンズを輝かせた。
「シャッターチャンスキタコレ!」
 反射でシャッターを切る。即座に内容確認。
 撮れたのは、愛しい朱雀さんの美乳と呼べる胸――ではなく青空色の見開かれた両目 と、モコモコのタオルの塊。
「みゅ、みゅみゅ!?」
「マスタァァァァァ!」
「さーいくよルーン氏。ためらったらアウトだからね」
 素肌を見せるのは死んでも嫌だと体言するように。
 グルグル巻きになった童女を抱えて、朱雀が温泉目掛けて早足で歩き去っていく。其の後ろをマンルーンちゃんが混乱した様子でついていく。
 すれ違う瞬間、澪は思わず朱雀のナイズバディーを隠す無粋なタオルを握っていた。が、童女を抱きしめることで固定されたタオルは澪程度ではびくともしない。
 美しい赤い髪を靡かせ、迷いなく歩く朱雀を澪は止めることが出来なかった。
 そのまま立ち尽くす澪は、他者には敗者のように見えただろう。
 けれど、違った。
 シャッターチャンスは 逃した。朱雀の美麗な肢体をカメラに収められなかったのは、酷く悲しい。
 ただ。
「……これはこれで」
 ぬいぐるみを抱える少女のようである構図を改めて見て、澪は思わず零れた涎を拭った。
 女性達には斜め上の逞しさがあった。

 そんなこんながあっての、入浴タイム。
「ふぃー、極楽極楽ー」
「あぁ、全くだ。ここの所仕事漬けだったからな」
 温泉に肩まで浸かって、主従が和やかな声を上げる。ヴァントとリリィ、其の手には両者ともに麦酒入りのジョッキである。
 周囲も思い思いの様子で湯に浸かっている――ただ、クーガの場合はタオルに包まれてるのか温泉に浸かっているのか判別が付かないが。
 其処に、ぺたぺたと足音が一つ。リリィがく るりと振り返った。
「あ、フーちゃん」
「ヴァントさん。さっき言われて漬けてましたけど、温泉卵って、これで良いんでしょうか」
 ホカホカと湯気を立てる食用卵が二つ。彼女の手から其れを受け取って、ヴァントはうむ、と頷いた。
「あぁ、丁度良い感じだな。諷雫、ついでですまんが熱燗を用意してくれ」
「熱燗?」
「これだ」
 首を傾げた彼女に、燗に入った清酒を渡す。二つ。
「湯の中に入れれば丁度良い温度になる」
「あ、じゃあ木桶にお湯を張って――源泉の熱めのお湯の方が良いですね」
「そうだな、頼む」
「ありがとー、フーちゃん」
「マスター、手伝います」
「大丈夫ですよー、ごゆっくりー」
 そんな会話と共に、彼女が源泉の方へと歩いていく。 其れを眺めていた澪が、一言。
「なんて出来た嫁、なぜ一緒に入ってくれないのか」
「お前がいるからだろうが。で、凛、いい加減離れろ暑い」
「にゅふふふふ、お背中流しますよ、あ・な・た」
 ヴァントの隣に陣取っている凜が、ニヤリと楽しげに笑う。腕を絡ませる――というか捕まえながら。
 其れを眺めながら、すぐ近くの足湯に入っている麗が小さく呟いた。
「あっちゃー、うちの子諷雫ちゃんに対抗意識出しちゃった」
「おや、諷雫氏もヴァント氏争奪戦の参加者だったのかい?」
「まさか」
 パシャリとシャッターを切りながら、水も入り込んでややぬるめの湯に浸かっていた椿は即座に否定した。隣にはしっかり湯につかるラピピ。
「あなた何撮ってるの?」
「 もしもの時の交渉材料」
「――それを使う時にはもうお前は生きてられない状況にあると思え」
「一蓮托生ですか、それでマスターを守れるなら本望ですよ」
「……女の子が男にへばりついてる写真程度でこいつら何言ってんだろ、って言えないのが怖い所だよね」
 遠くで、バーベキューという交流会参加中のアイドルがくしゃみをした。

「所でライサさん、何で仮面つけたまま?」
 隣の死神を見ながら、ユキナミが半眼で問いかける。
 其れに、ライサは笑い声を上げた。
「ははは、何を言うんですユキナミ君。これはきちんとお風呂用に用意した物ですよ」
「お風呂用があるのか」
 驚くクーガ(inもこもこ)に、彼は胸を僅かに張った。
「食事用もあります よ」
「……むしろ食事用はどうなるの?」
「口元が外れます。ユキナミ君、想像力が足りませんね」
「……僕はそこまでする位なら外した方が早いと思うんだ、ライサ氏」
 呆れた目で朱雀が告げるも、彼は決して外す素振りは見せない。
「外せるものなら外してみなさい」
「すごい自信」
 呆れではなく本心から感心したようなマンルーンの呟き。さっきから必死に朱雀と距離をつめているが、残念ながら接近戦については朱雀の方がずっと上で、自分のマスターの動きを封じるタオルを外す所か触れることも出来ない。
 そんなマンルーンの言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、ライサの姿が消えた。
「「!?」」
 バシャ、と激しい水しぶき。次いで少女の舌打ち。
「 れ、麗さん!?」
「なんじゃらほい?」
 言葉の感じは皆のお姉さんのまま、しかし鋭い目は一瞬の内に移動したライサに向いている。
「また貴女ですか麗さん」
「ぬふふ、今のはプロポーズですね仮面を取れたらお婿に貰っていいんですね! 毎日最高の身体に触ってハスハスする権利がこの手に」
「どこでそうなった」
「なら麗さん頑張っちゃうぞー!」
「そいじゃ僕も手伝うてやさー!」
「今日こそはその尊顔捉えて見せる―!!」
「ふふ、外せますかね」
 最速の男が楽しげに笑う。飛び掛ったユキナミをいなして瞬時に遠くへと移動。そこをロデオドライブで麗が突貫し、ラピピも飛べない翼を広げて飛びかかる。
 風呂に入りながら位置がシュンシュン飛び回っているのはおかしい気がする。
「いや外した方がどう考えても楽なんじゃ、いやもうライサ氏が其れで良いなら其れで良いけど」
 朱雀は誰にも聞こえない声で呟いて、自分用の氷水に手を伸ばした。
「皆さん湯冷めしますよー」
「マスター、聞こえてま せんよ。それより手伝います」
「えー、今日ぐらいはゆっくりして良いんですよ?」
「椿、あなたは働きすぎだと私も思うわ」
 フォローの方が遙かに多いリユイも諷雫に同意するが、椿は珍しく諾としなかった。
「ラピピも参加しちゃってます、何もしないのは苦痛です」
「んー、じゃあ椿君は果物お願いします。私は飲み物の準備するので」
「なら私は風でライサさんの妨害でもしようかしら」
「むむ、実はリユイちゃんもライサさんの顔見たい感じ?」
「……ちょっとだけ」
 リリィや凜も巻き込んだ追いかけっこは、まだまだ続いてしまいそうだ。

「うちのマスターはなんつーかあれだよね。なんで胸の十字傷だけ生々しくてそれ以外無傷なのよ」
 追いかけ っこも落ち着いた後。
 己のマスターを見据えて、リリィ。汗までかいたのに完敗に終わったためか、不機嫌そうな声。
 それに、ヴァントもまた、不機嫌そうに顔を歪めた。
「むしろ俺が聞きたい。何故かしらんが、この部位にのみ攻撃が集中するんでな」
「……私との手合わせの時もそうでしたね、何故かあなたの胸元にだけ……」
 湯船に入りなおしたライサが不思議そうに首を傾げる。鬼役にも関わらず、息一つ切れてはいなかった。
「他の箇所には一切攻撃が当たらないのですが、何故かその箇所だけ吸い込まれるように当たるのですよ」
「ヒューイやらも似たような事を言っていたな」
 うんざりとヴァントが呟き、肩を落とした。
「小手狙いの筈が吸い込まれるように胸に武 器が当たっているらしくてな。しかも治るか治る直前に同じ箇所に喰らう」
「一体いつからそんな状態なんですか?」
 諷雫の問いに、彼は静かに頭を振って。
「森で暮らしていた時――ああ、襲ってきたアークスを返り討ちにした後からだ」
 え、と興味本位で聞いていた一同の声が重なり消えた。
「あの頃は森も平和だった。ダーカーもいないからと武器の性能チェックに悪意の無い原生種に襲いかかったりする馬鹿はいたが、な。そういった連中を迎え撃つのが留守番していた俺の仕事だった」
「いやいや、そんときマスターまだ子どもなんじゃ……」
「当時の俺程度に負ける奴が多かったのが笑える話だ」
 青い髪の鬼神は実に残念そうに肩を竦める。
 周囲からすれば、当時から 相当な実力だったのではないかと思ってしまうのだが。流石ダーリン、と凛が言って小突かれた。
「まぁ、少々やりすぎたらしくてな。追い返した屑どもが徒党を組んで襲いかかってきやがった。その時に二太刀もらってな、そこからだ」
「いや待て待てマスター、アークスの集団に襲われてそれで済んだの!? 何人倒したのさ一体!?」
「数十は居たと思うが……それで二太刀程度とはな、全く。さっさと埋めておいて正解だ――」
「ヴァント氏、ボクはなにも聞いてない。だから、その話はここでやめておく方が良い」
 冷や汗を流した朱雀の震え声に、周囲が一斉に同意する。
「……そうか」
 若干以上残念そうに、ヴァントはそういって杯に手を伸ばした。
「……所で椿君、君ハン ターでもしてたんですか?」
 凍てついた空気を溶かそうと、仮面の裏から汗を流しているライサが、必死に言葉を紡ぎ出す。
「あー、確かに凄い傷の数、その胸のとかかなり酷いじゃん」
 其れに併せて、リリィも言葉を続ける。
 生傷はいつものことだが、髪をかき上げたことであらわになった眼球に達してないのが奇跡的な顔の傷に、ヴァントには及ばないが大きな胸の傷はどう見ても後衛が受ける傷ではない。
「あー……記憶にないんで多分転んだんじゃないですかね」
「いやいや、それどう見ても転んでつく傷じゃないでしょう!?」
「じゃあ転んで牽かれた時とか」
「貴方それ色々突っ込み所しかないわよ!」
 スルーする気だったリユイすらも突っ込むが椿はどこ吹く風と湯 あたりを起こして足湯に移動したラピピへ水を渡していた。
「ライサさんは逆にほとんど傷ないよね、凄っ」
「そして完璧なパーツ、パーツ、パーツ! 誘ってるんでしょう? 本当は誘ってるんでしょう!?」
「困ったフォトンであの人来てくれませんかね」
「あー、無理。今多分ウォパルだよ」
「ねーさん、ちょっと落ち着こう? 流石に化けの皮剥がれすぎ」
「マンルーンちゃんも傷跡とかほとんどないね。結構エステとか利用してる?」
「エステ?」
「え、まさか存在すら知らない?」
「なんと、アークスガール御用達施設を利用してないと!? それはいかん、明日にでもお姉さんと一緒に行こう!」
 ハァハァと口元を歪めながら、澪。一体何をする気だとマンルーンが身構 える。
「澪ちゃん落ち着いて。――エステってのは、身体活動に支障はないけど酷い傷跡を消したい人が利用する医療系の施設だよ」
「あ、聞いたことあります。元々は女性アークスさんの為に作られたんでしたっけ?」
「そうそう、そして今では身体能力には影響が出ない程度の豊胸やボディペイント、髪型やメイクの相談まで聞いてくれる程になったの。今じゃ友達の結婚式の披露宴は下手な美容院に行かずにエステに行くのが一番とまで言われてるし」
 常識的なお姉さんに戻ってくれた麗が丁寧に会話を繋げる。そんな彼女の様子に警戒を解いたマンルーンは、ただただ関心したように頷いていた。
「初めて知りました」
 それで肌の色も変えられるだろうか、とちょっとだけ考えるマンル ーンの鎖骨を麗が一瞬舐めるように見たことに気づいたのは少数だった。
 常識的で妹達に手を焼かされている麗だが、実は無類の肢体パーツフェチである。

 朱雀の胸を枕に夢うつつなクーガだが、最初は本気で脱出しようとしていたのだ。そもそもユキナミやリリィやマンルーンの誘いがなければ来ようとすら考えず、脱衣所すらも初めてでアワアワしていたのだから、自由を奪われるなんて願い下げだ。
「みーちゃん寝ちゃだめだよー」
 ただ、初めての温泉は思いのほか気持ちよくて、しかも浮いた状態を勝手にキープしてくれるのである。独り言も夢見心地だ。
 ちょっと蒸れるが、お風呂で寝られるというのは中々魅力的な状態だ。外の為お風呂場のように空気がこもっていないの も良い。
「くーちゃん、寝ちゃだめ。ほら」
 そんなクーガを窘める声と、それに続いて鼻先に甘い香り。くんくんと匂いを嗅ぎ、口を突き出す。  
 はむ、はむはむ。ごきゅん。
「ふゆー」
 微かな酸味は果実のおいしさを引き出し、眠気を少し遠ざける。
「はーい」
 つん、と唇に当たる感触と声に、クーガは再び口を開いた。

 もこもこに入ったまま、与えられるままに果物を飲み込んでいく幼女。どことなく幸せそうに蕩けた顔。
「ぬふふふ、可愛ぃー」
「本当に楽しそうだね、澪さん」
 ペットに餌をやるように、クーガへと果物を与えている澪を見ながら、ユキナミ。
 彼の疑問に、澪はただ面白そうに笑って。
「――やってみる?」
「うん」
 と りあえず近づいて、澪から果物を受け取る。
 ユキナミは、試しに口元に果物を差し出してみた。もふもふと蠢くタオルの塊が、嬉しそうに其れにかじりつく。
 はむ、はむはむ。
 疑うこともせずに、幼子の口が開いて果実を含んでいく。なんだか可愛い。
「……もっかい」
 はむ、はむはむ。
「ゆー」
「……餌付け、楽しいかも」
「でしょ?」
 澪の発言に頷きながら、ユキナミはもう一度果物を彼女の口元に近づけた。
「……むー」
 面白くないのは、リユイである。段々と暗い色を帯びる瞳に臆することなく笑うのは凛。
「リユイちゃんやきもちー?」
「まーユッキーが子どもだかんねー」
 好奇心のままに小さな果実をクーガの口へどんどん詰め込むユキナミに、 リリィも苦笑する。けれど、
「おや」
「あら」
 ライサと諷雫がちょっと驚く。ユキナミが果物の入った皿を持ってこちらへやってきたのだ。
「リユイー?」
「……――!?」
 ふてくされながらも振り向いたリユイの口に、ウサギの形のリンゴが差し出される。
「おいしい?」
 コクコク、と必死に頷くリユイを次の標的に定めたのか、ユキナミは小さく切られた果実を与えていく。
 ススス、とリユイとユキナミの周りにいた者達が移動する。二人は気づかず、世にいう甘酸っぱい空気を生産し始めていた。
「これは……ようやく自覚したのかな?」
「どうでしょう? ただユキナミさんも子どもみたいな独占欲を時々見せてましたからね。リユイさんの重さで見えにくかったで すけど」
「あれを重いで済ませる椿君も相当だよ、君なら百合のドロドロも耐えられる。所で最近お姉さん男の娘にも目覚めつつあるんだが」
「どうぞ妄想の中でお楽しみ下さい」

「ぴぃ」
 ちょっとお湯で頭がぼーっとしてしまっていたラピピだが、冷たい水で大分意識がはっきりしてきた。
 諷雫の隣で足だけ浸かり騒ぐ皆を眺め、ふと森で光が瞬いたのに気付いた。
「?」
 太陽の光が反射しただけだと思う。が、どうして森の中で光を反射するレンズがそこかしこにあるんだろう。
 考えるが、ラピピには分からない。
「どうしたのラピピちゃん」
「ぴ、ぴー」
「んん?」
 尋ねてきた麗に必死に伝える。そうすればラピピの示した方向へ向いた彼女のガラスみた いな目が微かに金属音を立てた気がした。
「……みーおーちゃーん?」
 視線はそのままに、すぐ下の妹を呼ぶ。
「ほえ?」
「あれは何かなー」
 それで他の者達も、気づく。否、見られてる感覚はしていたのだ、動物と思ってスルーしていただけで。
「ぬふふ、クーナちゃんを全角度から撮れるように配置した機材が今も動いて皆のあれこれを記録し続けてるのさ!」
 桶が、弓が、銃弾が、風と電撃、そして手刀が澪と澪の配置した機材に向けて放たれた。

「全く、澪には困ったものだ」
 機械部品を全てきちんと回収するまで戻ってくるなと澪を追い出してから、ヴァントは嘆息と共に呟いた。
「おねーちゃん、写真はすごいんだよ」
「そういえば、以前個展を開いてお られましたね」
 凜の発言に、思い出したようにライサが続ける。
「アークスじゃない人達は、アークスシップの外――惑星の光景は中々見られないからねー。戦場の様子とかを伝える意味でも、結構人気はあるみたい」
「なるる。色々考えてるのねー、澪っち」
「……ただ、ちょっと、趣味の方はね。この間も、うんやめとく」
「待て。聞き捨てならん、それは」
 若干視線を下げた凜に、ヴァントはただ半眼を向けた。
「行動が行動だけに怪しいって凜氏」
「……えっと、これ。おねーちゃんから一枚もらった」
 全員、ではなくまずヴァントとライサと朱雀と椿とリリィがのぞき込む。
 反応は即座にあった。
「何考えてるんだあいつ」
 無表情にて、ヴァント。
「ヒェェ 、というやつですね」
 おどけながら若干引いて、ライサ。
「これは……まずいんじゃない?」
 汗をかきながら、朱雀。
「限りなく黒に近いグレーじゃなくて、もう黒にしたいグレーですね」
 こめかみを押さえる、椿。
「うん、まあ、表に出せないよね。というか出したら消されるよね多分」
 凍てついた目で、リリィ。
『絶対に表に出すな』
「勿論です、ハイ」
 凛は冷や汗と共に写真を回収した。


「――しかし、遅いな」
「ん、マスター他にも誰か呼んでんの?」
 主の発言に、リリィがほろ酔い加減で問いかける。
 なお、彼女の後ろには数本の空になった一升瓶が転がっていた。
「あぁ、何人か。護衛とは関係になしにだが――ん、来たか 」
 呟きと共に、彼が近くの茂みに視線を投げた。同時に、そちらがガサガサと大きく揺れる。
 三姉妹は全く別の方向を向いていたのに寸分違わず音源へ目を向け、数名はすぐに動けるように重心をずらし、残りは首をかしげる。
 やがて揺れた茂みの向こうから姿を見せたのは――
『……熊鹿?』
 幾人かの声が、重なった。
 呆れ以上に困惑に溢れた。
 なにせ、2m越えのトナカイっぽい着ぐるみと黒色のアークマ着ぐるみ。無表情なのに雄弁な目で、笑顔なのに恐ろしい口元そのままで、片手を上げてみせるがまともに反応できたのはラピピくらいだ。
 というか、困惑するなという方が無茶だろう。
「――なんだその格好は」
「温泉と来たら熊だろう、ヴァントさん」
「 私はアークマスーツが着れなかった物で……残念です」
 それぞれ着ぐるみを脱ぎ捨てながら、イリスとリンは心から、楽しげに、悔しげに呟いていた。




 ――あとがき。
 チームの温泉浸かってたら何か出来てた。
 ※監修:相方
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ジャンル : オンラインゲーム

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何処までも仮面を取らない某氏である

Re: タイトルなし

<カズさん
 リアルオラクルにおいても殆ど取らないと思われる某氏である(・・ )
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ヴァント

Author:ヴァント
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