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サポートとサポートの場合・リリィと椿

 本文は続きから、どうぞ。



「こんばんはー。お、やほーつばっきー」
 アークスシップ・ショップエリア。その奥地、入り組んだ先にある一つのバー。いわゆる、隠れ家的な店。
 カウンターが幾つかと、テーブル席二つの小さな店は比較的人の入りがまばらで、静かに飲める事から、リリィは時々遊びに来る。
 そのカウンターの一つに座っていた、顔見知りのサポートパートナーの青年――椿へと声をかける。
 彼は、リリィの姿を認めると笑みを浮かべ、紫煙を燻らせていた煙草を灰皿に押しつけた。
「こんばんはリリィさん」
「煙草なんて吸ってたんだ」
 彼の隣に腰掛けながら、煙を吐かなくなった其れを見る。彼はええ、と穏やかな口調で返してきた。
 黒髪赤目の青年である。背丈はリリィと近いが高く、どことなく大人びたイメージはある。
 煙草を潰した指はリユイから見れば長いが、煙草に焦点を当てると子どもの手のように小さく見える。
 サポートパートナーに旧式と新式があるというのを先日偶然知ったのだが、彼は旧式――アークスを補佐する為にのみ存在し、背丈はどれだけ高くてもアークスの最低身長にほど近い――に属している。
 リリィ自身も旧式で、知り合いで新式――アークスを補佐する中でも若干の自由意志が存在し、平均身長はアークスより僅かに低い程度で、ほぼアークスと見分けがつかないサポートも多々存在する――はリユイだけだ。
「別に吸ってくれても構わないよー。あたしは別に吸わないだけだし」
「時々、吸いたくなるだけなんで。他人がいるのに吸いたい程ではないから大丈夫ですよ」
 手元でカタカタと報告書――クエストの成否等、本来仕事を終えたアークスやサポートが提出しなければならない物――を作成しながらの返答。彼のロックグラスからは氷が消えていて、酒と水の層に分類されていた。
「ふーん。あ、マスターいつもの!」
「ええ」
 バーテンダーが分かっていたように微笑んで、綺麗に3対7に泡と液体が分かれた黒麦酒を、コースターに乗せて差し出してきた。
 まずはこれを飲んでから、というのが普段の流儀。
「ありがとー!」
 礼を言ってから、グラスを傾ける。重たい液体を流し込んで、一息ついた。
 ――んー、やっぱ上手いなー。
 普段から自室でも、ヴァントと一緒のナベリウスの森ででも、麦酒は良く飲むけれど。このマスターが入れてくれる程に綺麗な泡立ちは中々出来ない。
 美味しい黒麦酒を堪能しながら、ちらりと椿を見やる。報告書の作成は、大体完了しつつ有るようだ。
「相変わらずつばっきー早いよねー、報告書系統、ちゅーか事務仕事全般」
「まぁ、それだけが取り柄ですからねー」
 そう言って笑う青年の顔に、絆創膏。よく見れば今日も生傷が目立つ。
「またか」
「転んだだけです」
「受け身ぐらい取れよ」
「聞き飽きました」
 思わずきつい口調になるが、椿の笑みが崩れることはない。というか視線が最初以降ずっと書類に向けられたままだ。
 ――なんか自棄っぱちみたいだなー。

 この青年、アークスにも発生する事務作業やら端末操作については、他に類を見ない程の能力者である。手元の端末を使ってアークス本部から必要な情報を引きずり出す事などお手の物であり、情報戦に於いては全アークスの中でも最高峰である。
 反面、戦闘能力はお世辞にも高いとは言えない。どころか、運動神経すら鈍い。何もない所であっさり転ぶし、共闘中は気をつけていないと凄くあっさり倒れている。
 相当にアンバランスなサポートパートナー、である。
 ――まぁ、あたしが言うのもあれだけどさ。
 偶発的な遭遇戦であって、そして相手がゼッシュレイダだった際にも、単独で叩き潰した事がある程度に戦闘には自信がある。
 反面、報告書の期限を無視することなど日常で、自分のマスターが代わりに報告書を仕上げてくれる事すら多々ある程に事務仕事が苦手なリリィ。
 足して二で割れば、冗談抜きでちょうど良い案配になるかもしれない。
 ――それぞれ特化してるからこそ、ちょうど良いのかも知れないけどね。
「マスター、強めのカクテル作ってー。後こないだのチーズとトマトの奴」
「分かりました、少しお待ち下さい」
 磨いていたグラスから手を離し、バーテンダーがカクテルを作り出す。ぶらぶらと足を揺らしながら椿をまたちらりと見やる――報告書も済んだのか、薄くなった蒸留酒を飲みつつ、今度は何かの情報を見ているらしい。
「何見てんのー?」
 ひょい、とのぞき込んでようやく椿の驚いた双眸がリリィを見た。リリィの身長はサポートの中では平均的だが、椿よりは低い。長い黒髪から覗く予想外に大きな赤い目がはっきり見えた。
 が、今はそんなことより電子パネルに出ている情報だ。
「リリーパ採掘基地の防衛? 何か新しい情のあったの?」
「……幾つか――それよりリリィさん」
 不意に言葉を切って、彼が静かにこちらを見やる。黄色と紫の目、殊更美しいとも言えないオッドアイを真っ直ぐに見つめられる。
 薄暗い場所で、普段目線を合わせない男が自分を見ている。
 ここで色々とときめきを覚えられたら良いが、あいにく目の前の青年は異性というよりは友人に近くて。
 何、と首を傾げて尋ねようとして――
「――また、報告書溜まってませんか?」
 その格好のままで停止した。
 また、と言われる事には、もう慣れたけど。
 ――ここ一週間やってない。
「ま、まだ大丈夫……」
 必死に言葉を絞り出すも、僅かに椅子をずらしてリリィから離れた彼は全てを見通した様に笑みを深くするだけだった。
「なら、先日のような山が出来ていても手伝わなくて良いんですね?」
「……ここの支払い、あたしが持つわ。後で手伝って」
 半分土下座する心地で、リリィは彼へと頭を下げた。
「別に構いませんよ」
「ありがとー、いやもうホントに……」
 自慢ではないが、書類仕事は嫌いだ。
 初めて五分もしない内にサボり癖が出て、ついつい放り投げてしまう。それを拾うのは、ヴァントの役だったり、椿の役だったりする。
 ――あー、いかんいかん。話題変えよう。
 この話題を引っ張ると足をすくわれそうな気がして、リリィはバーテンダーから出されたカクテルを受け取りながら、ふい、と壁の柱時計に目をやった。
「にしてもおっそいなー」
「待ち合わせですか?」
「そそ。ま、飲み仲間だけどね」
 椿からの問いに、あっさりと返答する。
 直後。
 カラン、と豪勢に扉が開いて。
「マスター、いつも――っておぉ! リリィ、もう来てたのか! それに椿、君もいるのか!」
 賑やかと言うよりも喧しい声と共に入ってきた、長身の男性。
 外を歩けば誰もが知ってる――というかアークスであれば確実に誰もが知っている男。
 そんな有名人へと向けて、リリィは即座に半眼を飛ばした。
「おっそい! 約束時刻から三十分は経ってるよー、ヒューイ!」
「いやー、悪い悪い! すまんな、ちと困っているフォトンが多くてな!」
 六芒均衡の若きエース、六のヒューイ。
 彼は暑苦しい笑顔を見せながら、豪快に笑って見せた。



 椿は静かに飲むが、他人が騒ぐ中で飲むのが嫌いな訳ではない。
 訳ではないが、
「――なーんで俺はモテないんだろうなー! あーもう嫌になるな全く!」
「あんたは未来の嫁さん候補いるからいーじゃんか! あたしなんか生まれてからずーっと喪女だっつうの!」
 ――ヒューイさんに憧れているアークスがこの光景を見たらどう思うんでしょうね。
 言葉に出すことなく、内心で呟く。六芒の一人が、サポートパートナーの少女と酒を飲み交わして管を巻いているなどという光景は、決して想像しようと思っても出来ない物だろうとは思う。
 いつもの愚痴り合い会場と化しているカウンター席。リリィもヒューイも独身であり、かつ互いに賑やかな場所が好きということで、こうして共に飲み交わす機会は相当に多いらしい。
 ジョッキを派手に揺らして、グイグイと麦酒が消えていく様を声を出さずに見守りながら、椿は自分のグラスを傾けた。
 部屋で飲むと同居者である幼女の興味を引き、更に諷雫に見つかるとかなりまずい。普段は控えめなのにお酒を飲むとテンションが上がって抱きつき癖を発生させるので椿と諷雫以外の人――俗に言う生贄――がいないと一緒に飲めない。
「ちっ、フーちゃんいないか。しゃーないマンルーン呼ぶか」
「おー呼んじまえ呼んじまえ」
「マンルーンさん朝型なんでもう寝てますよ」
 日付が変わるまではいかないが、結構な深夜だ。何より、
「知るかそんなもん!!」
「ちょっ!?」
〈――はい?〉
 明らかに眠そうな声は、聞き慣れたデューマン少女のそれだった。
「やほーマンルーン! 飲みにつき合えやこらー!」
「つき合うが良い、少女よ!」
〈んー?〉
 おそらく就寝直前か就寝中だったのだろう、明らかに普段の凛々しさがない。恐らくヒューイの声もヒューイと気づいていない。
 ――というかこの二人行動速過ぎる。
 一瞬の内に通信を繋げたリリィはテーブルの端に逃げ、椿の肩はヒューイにがっちり掴まれていた。これでは止めようが無い。
〈ごめんなさい〉
 祈るようにグラスを握りしめていた手の力が、安堵のあまり抜けた。勢いにやられやすい少女だが、眠気でよくわかっていないのが幸いした。
〈椿にお酒、禁止されてるから〉
 ――それを言う必要ないでしょう!
〈おやすみなさい〉
 無情に切れた通信。本来なら気落ちする筈の二人が、生暖かい笑いを向けているのが嫌でも分かる。
「へー」
「何です?」
「椿に、なー」
「マスターからもですよ」
 どう答えたって絡まれるのは分かっていたが、椿にだって譲れない点がある。
「なんだ、やっぱりつき合ってたんじゃないか」
 ヒューイからの楽しそうな言葉に、椿は残っていた酒を煽るように飲み干して普段通りに笑ってやった。
「まさか、同僚を心配してですよ」
「そーは見えないけどねぇ」
 実に人の悪い表情を浮かべて、リリィが楽しそうに楽しそうに笑う。
「あたしだって同僚な訳だしねー、あたしには何もないのー?」
 覗き込むようにリリィが身を寄せてくる。
 からかっている、という意図が透けて見える笑顔で。
 普段なら適当に誤魔化したが。
 ――さっきの仕返しも兼ねて、良いかな。
 心の中で、自身のマスター・諷雫が駄目ですよ、と叱っている映像が流れたけれど――この程度のいたずらならばれないだろう。そう信じたい。
 普段の笑みを敢えて消し、真顔になる。笑みを消すと途端に素っ気なく鋭い印象を覚えると言ったのはマスターだったと思い出しながら。
「なら、試しに付き合いますか?」
「えっ」
 リリィの表情から笑みが消えた。
 喜びでも疑惑でもない、予想外の答えに呆けた顔。
「だから、リリィさんとお付き合いは嫌じゃないですよ。マスター優先は変わりませんが」
「おー。なんだ、よかったじゃないかリリィ! 喪女脱出できるぞ!」
「いやいやいやいや」
 酒の酔いも消し飛んだか、混乱困惑怪訝疑問不安冷や汗、訳の分からない表情で彼女が後ろに下がっていく。
「いいじゃないか、別に椿が嫌いな訳じゃーないだろ! 中々似合ってると思うぞ!」
「いや別につばっきー嫌いじゃないし、全然好きな方でもあるけどさ、いやでもさー!?」
 ヒューイからの援護射撃――無論楽しむ方向への――に、リリィがパニックになって叫び出す。
 ――あ、ちょっとだけ楽しい。
 実際、からかいの意図で発したけれど、全て椿の本心である。恋愛を理解できるとは思えないが、リリィの願いなら応えるのも悪くはないから。
 そのくらいには、椿は彼女のことを気に入っている。
 そんな椿の内心など露知らず、顔を真っ赤にしたり真っ青にしたり、一人混乱の渦に叩き込まれた彼女は――
 ふっきれたように、顔を上げて。
「マスター、お酒ー! 強いのじゃんじゃん持ってきてー!」
 目の前の選択から逃げ出した。
「っておいおいリリィ!?」
「つばっきー、あんたも飲め! 忘れろ今の!」
「はいはい」
 ――まぁ、予想通りですね。
 想定した通りの返事を返してくれた彼女に軽く笑いかけながら、椿もまたマスターにおかわりの注文を入れた。
 少なくとも暫くは、穏やかな複数との飲み会を続けられそうだ。




 ――あとがき。
 別にヒューイは嫌いじゃないですよ?
 ただもうクラリスクレイスが成人するまで下手に何も出来ないだろうということで、こんな役割に落ち着いて貰いました。
 ヴァント達が存在する次元だと、かなりヴァントに近い位置――というか直々にクエスト依頼を発注するレベルに仲は良いです。
 リリィとの飲み友達としての中はその倍以上近いです。

 椿について相方から。
「前々からそうだと思ってましたが、椿はリリィ、諷雫、マンルーン、リユイから求められたら応える気があります。この中でなら、自分を求めてくれた最初のヒトに応えます。
 不誠実にも見えますが、こいつは付き合うとなったら、あくまでマスター優先ですが、今以上に相手を女性として大切にする気です(必要ならもっと口を出す、行動する)。
 くーちゃんからなら? 椿は欠片も応えません。外見年齢とかの問題でなく、応えたくありません」
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