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Possible world~ある物語~

 随分と時間がかかった気がします。
 ある物語、その続きへと――









 彼が全てを知ったのは、全てが終わった後だった。
 アークスシップ・ソーンへのダーカー襲撃。
 彼がその全容を知り得たのは、惑星ナベリウスから帰還した時――残党処理も片づいたタイミング。
 そして、奇しくも、森林エリアの最奥までたどり着いた瞬間に、襲撃は開始されていた。
 テレパイプすらも使用不可能な、アークスすら全貌を把握しきれない地域への単独行動――普段から行っている放浪。其れが、完全に最悪の状況へと繋がった。
 全アークスへの通達、並びに公表された被害状況。
 そして、椿を通じて得た裏側の情報全て。
 それら全てを確認しながら。彼――ヴァントは、
「――やられたな」
 ただ、泰然と呟くしかできなかった。
 アークスシップ・ソーンのストリートエリア。夕刻に差し迫ったタイミングでの、膨大な数のダーカーの襲来。並びに『ストリートエリア内全域での通信障害』の発生。
 緊急警報が鳴り響くよりも先に居住区エリアを浸食され、瞬く間にFエリア周辺が瓦礫と死骸の山と化した。そのまま、通信障害のために、元々在留するアークスの殆どが武器を使えずに、一般人の避難誘導を行うのが関の山だったと聞いている。
 ――全ての被害が、これか。
 最終的に発表された被害は、人的被害として、アークス数十名の死亡、数百名の重傷。一般人に至っては千単位で死者が出ている。町の復興にも尋常ではない時間がかかると思われる――根こそぎ破壊されたエリアが余りにも多すぎる。
 其れに。公式に発表されていない、されど何よりも重要な情報――
 ――ユキナミの消失。
 椿からの情報に目を通す。発信源が彼でなければ、デマとして一笑に伏しただろう情報を。
 ――エリアG1ーG3間のほぼ全てが崩落している情報もなければ、到底信じられなかったが。
 ユキナミの体躯が光に消えた事。その際、生きていることがおかしいほどに全身が焼かれ、裂け、凍っていた事。リユイが昏睡状態で、病院で眠っていること。
 そうして――その戦場が隔壁で隔離されていた事。誰一人、救いに動くことを許されなかった戦場。
 明らかな異常を以て発生したかの襲撃――
 ヴァントはそこで、足を止めた。
 アークス達が行き交っている筈の、ショップエリア中央広場――
 その中心に、世界から切り離されたように待機する、一人の女性。
<――待っていた>
「――あぁ。其れは、こちらもだ」
 白衣の研究服を着た、青く輝いた手足を持つ女性――シオンに対して、ヴァントは淡々と答えを返した。


<破壊は再生の為に必要な物である。人々は古来より、破壊によって新たな物を生み出してきた。再誕の為の破壊を否定する事は、未来を否定するという事。今、一つの未来が閉ざされようとしている>
「――狙われたのは、ユキナミか」
<定められた潮流を曲げる為には、より大きな力が必要となる。私は、私達は、その力を一つも失う事無く繋げなければならなかった>
 彼女は、緩やかに頭を振る。
<まだ、事象は収束していない。今なら偶を掴むことで、失われた力を取り戻せる>
「――連れ戻せるんだな」
<――そうだな。破壊の力を、それを持つ者を連れ戻す、其れが正しいのかもしれない。其の為のマターボードを、あなたに託そう>
 彼女の掌が淡く輝き、其の光が此方へと投げられた。
 ヴァントは、其れを無言で受け取った――掌の中で光り輝く運命を。
<――急いでほしい。全てが手遅れになる前に>
 女性の姿が歪み、途切れ――そして、彼女は世界から姿を消した。




「――ユッキー、見ないねぇ」
 カラン、と。琥珀色へと溶けていく氷を眺めながら、リゼットは一つ言葉をこぼした。
 どこか退屈そうな女性の呟きに、対面の男も自分の其れを飲みながら頷いた。
「あいつがくたばるとは思えねぇけどな。生存反応は、消えたらしい」
「あんたみたいに不死身ならともかく、ユッキーだしね。つーかスウ、あんた全身切られまくってなんでピンピンしてんのよ」
「鍛え方が違うわ、舐めんな」
 スウが静かに嘆息し、残ったウイスキーを一息に飲み干す。常人ならベットから立ち上がれないどころか、三途の川に沈められている程の怪我だった筈だが。
「あたしの周りのアークス共も、あんたほどに硬ければ良かったんだけどねー……」
「なんかあったのか? エリアBだったよな、お前が居た場所。其れに後発組だろ、武器は楽だったんじゃねぇのか」
 スウが疑問視を投げてくる。
 実際、彼の発言も一理あった。今回の戦場で被害が酷かったのはエリアDからG――C、B辺りは、D以降に比べれば被害は少ない。
 また、武器制限が解除されなかったのは『襲撃時点』でストリートエリアに居たアークスのみであり、事件発生後に本部から乗り込んだアークス達については一切の武器制限が解除されていたから。
 されど、リゼットは力なくかぶりを振った。
「周りが新人組が多かったのもあるんだけどねー、エリアBに入った瞬間に急に本部と連絡切れてさ。大慌てになった新人達に追い討ちかけるようにさ、デコルマリューダが突っ込んで来たんだよ」
「デコル? あの独楽野郎か。あんな奴がいたんかよ……そりゃしゃーねぇか」
「何人か生死不明にされたしねー。急に通信切れた事といい、一体何が起きたのか――」
「リゼット、スウ」
 不意に。
 自らの名を呼ばれ、顔を上げる。
 古く汚れた、灰色の旅人服――蒼色の髪に羽根飾りをつけた青年が、此方を見下ろすように立っていた。
「おー、ヴァントー。珍しいね、久々に会ったじゃん。飲む?」
「おー、お目付け役。ひっさしぶりだなー」
 スウとも顔見知りだったのだろう、対面のスウが楽しげにウイスキーグラスを持ち上げた。
 いつもなら苦笑混じりに席に着く彼は、しかし、珍しく頭を横に振った。
「すまん、酒は今度付き合うが――今の話、詳しく聞かせてもらっても構わないか」




「――そうなんだ。リンリンとこも、何人か……」
 ショップエリアの一角――花壇にベンチが備え付けられた場所にて、リリィは顔をうつむかせて呟いた。
「えぇ……死者が一人も出なかった事は、幸いでしたが」
「それでも、重傷者は多いからね。早く完治してくれる事を祈るよ」
「ぴぴぃ」
 其れに、話し相手であるリンとイリスが言葉を被せる。ラピピは、そっと二人にリンゴを差し出した。

 あの襲撃から、一夜開けての翌朝。情報が錯綜し、死者の数が時間が経過するごとに増えていく。
 そうした混乱冷めやらぬ状況の中、リリィとラピピは、一つでも正しい情報を集めて来いとのヴァントからの指示に従って、知り合い達に声を駆け回っていた。
 ――思った以上に被害が酷い。
 率直な感想は、その一言に尽きた。 
 公的に発表されている数字よりも、実際の被害の程が大きい。何より、生存反応が消えたアークスの数が多すぎる。
 瓦礫の下に埋まっているだとか、メディカルセンターに大量に運び入れられた患者の確認が済んでいないというのを含めても――
 ――アークスの上から下まで蜂の巣つついた大騒ぎになってる理由が良く分かるわ。
 相当なアークスが動けなくなっている。この状況が続けば、近くメディカルセンターは機能不全を引き起こすだろう。
 それに、侵入された場所が余りにも酷かった。
 アークスシップ・ソーン。三を名付けられたアークスシップに、今までダーカーが侵入したことは無かった――其れほどまでに、ダーカーに対する警戒が強められている。
 今まで警戒を怠った事など無い――相当に強固な警戒が為されていた筈。にもかかわらず、あの途方も無い数の襲撃が発生した。言い換えれば、今後安全なアークスシップなど存在しない、という事でもある。
 きっと、ダーカーへの警戒は今まで以上に強くなるだろう。されど、今回のような事がもう起きない、という事など有り得ない。
 ――うちのマスターが名を馳せた原因になった、あの【巨躯】戦の事も考えればね。
「――それにしても、今回の襲撃。一体、何を狙った物なのだろうね」
「ってゆーと?」
 思考の渦に入り込んでいた意識を浮上させて、軽く相槌を打つ。其れに、発言者のイリスは、何、と前置きを打ってから、
「『ブリューリンガーダ』による『通信妨害』が行われたというのは、情報として入手しているだろう?」
「うん。一体何をどうやって、とは思うんだけどね」
 ――実際、あれの原理が良く分かってないんだけど。
 ブリューリンガーダによる、通信妨害工作――実の所、原理は良くわかっていない。
 最も早くブリューリンガーダ達と交戦したアークスの証言によれば、出現していたブリューリンガーダを守るように、大量のダーカーが立ち塞がっていたと聞いた。其の中心でほぼ微動だにせず、ブリューリンガーダは待機していたという――周囲に、自らの巨大な輪を展開して、クルクルと回転させたまま。
 そして、周囲のダーカーの減少に合わせて、ブリューリンガーダが動き出し、同時に通信関係が少しずつ改善され始めた。
 故に、ブリューリンガーダがあの現象の発生源だとする説が殆どだが――
「そう、それだよ。一体、何をどうすればアークスの強大な通信を妨害できるのだろうね」
「私も其れは気になっていました」
「音波による強制干渉――だっけ? なんかそんな話をしてたような気もするけど」
 マスターから聞いた情報を呟いて、リリィは静かに首を傾げる。
 彼の発言だと、電波帯に膨大な妨害音波――同質の波を叩き付ける事で、空中を漂う電波を妨害するという事らしい。
 実際に、ダーカーの巣窟に彼が連れ去られた時、全く通信を行うことが出来なかった。ダーカーによって妨害が行われる、または非常に濃いダーカー因子に満ちた空間であれば通信障害が発生することは確認された。
 ただ。
 ――それだけの妨害を、幾ら巨大ダーカーといえど、一体で出来る物なの?
 静かに思考し――頭を振る。考えても仕方が無い。
 今の目的は、情報を仕入れる事。普段全く指示もなく、自由に動く事を許されているマスターからの指示だ。こういう時位は応えないと、サポートして流石に立つ瀬が無い。
「――っし。二人ともありがと、そろそろ行くよー。リユっちがまだ倒れててさ、お見舞いいっとかないと」
 とはいえ、まずはお見舞いからで。
「そうでしたね。お気をつけて、リリィさん」
「ラピピ君もね、またねー」
「ぴっ!」




「――椿」
≪ヴァントさん、どうかしましたか?≫
「聞くが、例の防壁――Gエリアを隔離した防壁について、情報は入っているか?」
 己の部屋――サポートすらも今はいない、空白の世界の中で。
 乱雑に広げたデータの海を眺めながら、ヴァントは己が知る中で最も優秀な情報員に問いかけていた。
≪……ええ。虚空機関が防壁を強化して、ダーカー反応があったら即座に封鎖するように設定していたと≫
「――ふむ」
 個別通信の向こうから聞こえてきた肯定の言葉に、ヴァントは静かに呟いた。
 リリィからの情報。公式からの情報。椿から一度送られてきた情報。其の全てを考慮しながら、
≪確かにダーカーに浸食されて操作されたり、操作が遅れてダーカーが街に広がるよりはずっと良いですからね。言い分は分かります≫
「……なるほどな。だが、椿」
≪虚空機関絡みなので、これは表に――はい?≫
 通信相手――椿の声が止まる。ヴァントは淡々と疑問を紡いだ。
「おかしくないか?」
 向こうで、僅かに言葉に詰まるのを感じた。
「俺が知る限り、アレはダーカーの『侵入』を防ぐ為の物だ。決して『封鎖』を狙ってはいなかった。だが、今回の発生位置は――『エリアG1-3』を外部から隔離する物で、『封鎖』だ。さらに言えば、最も戦闘が激しかったFエリアでは『隔壁は発生』しなかった。其れで、お前は納得しているのか」
≪…………≫
 通信先から、深いため息。
≪おかしいに決まってますよ≫
 そうして、僅かに苛立ちを覗かせる声で、椿は続けた。
≪タイミングがおかしすぎる。何故急にそんな設定にしたのか。確かに市街地襲撃は増えてますが深刻な被害がここ最近あったかと言えばノーです≫
「やはりか」
≪そもそも勝手にそんなことしても虚空機関に利益が出るとも思えません。アークスからの設定変更依頼なんて当然ない。裏の説明すら『何故防壁の設定を急に変えることにしたのか』を明らかにしていないんです≫
「――分かった。感謝する、一つ、答えがまとまった」
 呟き、通信を切る。
 ――情報は、ほぼ出揃った。
 マターボード――『時空間への干渉』を行いうる武器を手に、思考の渦へ潜り込む。
 ダーカーの急襲。
 大多数の死傷者。
 エリアG地区の大規模な崩壊。
 ストリートエリアの過半数を超えるエリアへの通信障害。
 ユキナミの生存証明の消失。

 集められたほぼ大多数の情報を元に、絶望に満ちた其の時間軸を切り崩す為に。
 ヴァントは一人、暗闇の内側を泳ぎ続けた。




「ライサ氏。ユキナミ氏を、あの後見かけた事あるかい?」
 ショップエリアの一角。
 普段より閑散とした自販機コーナーにて、鮮烈な紅髪の少女は、隣にいた死神に問いかけた。
「いえ。朱雀さんの方も、其の様子では?」
 少女――朱雀は、静かに肩を落とした。
「ないよ。リユイ氏も意識が戻らずベットにいるらしい」
「そうですか。其れは、なんとも――」
 死神――ライサが言葉に詰まる。
 続くだろう言葉を想像しながら、自販機のボタンを押した。

「「――信じられない」」
 ゴトン、と落ちてきたオレンジジュースの缶を取り出しながら、ため息を吐く。
「だよね、やっぱり」
「勿論ですね」
 手にしたコーヒーを飲みながら、死神――ライサがつぶやく。どうやって飲んでいるのかつくづく気になる所だけれど。
「あの程度の襲撃で、ユキナミ氏が死んだなんて考えられない――いや、勿論とんでもない規模の襲撃ではあったけれども」
「実際、一般アークスの生存率は、今までよりはダントツに低いといえど、三分の一を割ってはいません。彼がその三分の一に入るかと言われれば、私は首を振ります」
「同感だよ、僕にとってもね」
 タブを引きながら、淡々と呟く。
 ――昔はここで他愛もない事を話したりもしたっけな。
 彼と出会った頃は、彼はまだ新人に近くて。色々と教えていたらいつの間にか、肩を並べられる程にまで成長していたけれど。
 そんな彼が、誰にも言葉を残せずに、死亡すら確認される事なく消えるなど、信じられない。
 ――ここでウダウダ言っててもしょうがないか。
 信じられないならば、どうするか? 決まっている――調べれば良いだけだ。
 どうせ、割り振られた仕事も今はない。なら、動けるときに動くまで。
 タブを開けた缶の中身を一息に飲み込んで、ゴミ箱へと放り投げる。
 放物線を描いて穴へと消えた其れを見送ってから、朱雀はライサを振り返った。
「――雑談のついでに、現場でも見に行こうかと思うけど、ライサ氏はどうする?」
「いいですね、お供しますよ」
 背を預けていた自販機から体を離して、ライサが笑うように言った。
「このままじゃ、収まりが悪いですからね」
「同感だよ、ライサ氏。それじゃ、ぱぱっと調べてみようか」
 崩壊跡を見て、何が分かるかも分からないけれど。
 出来ることを、目の前の問題を、一つずつ片づけるしかないのだから。
 朱雀はライサと二人、復興作業が開始されたストリートエリアへ向けて歩きだし――


「朱雀さん、ライサさん!」
 その寸前に響いてきた、よく知る女性の呼び声に、歩き出す足を止めた。
 そちらの方へ意識を向ける。駆け寄ってくる、ワンピースを着たやや小柄な女性ニューマンーー諷雫(ふうな)。
「諷雫氏、どしたの?」
「や、諷雫さん。どうかしました?」
 二人して同時に呼びかける。
 ユキナミ達と共に行動している事が多い女性である。唯一無二の『ウタ』を紡ぎ、想定し得ない大火力を弾き出す優秀なアークスでもあった。
 彼女は朱雀達の前で立ち止まると、肩で息を整えながら、真剣な眼差しで、
「――朱雀さん、ライサさん。幾つか、お聞きしても構いませんか?」
 目を反らすことなく、そう告げた。




 ほんの一日前までは、にぎやかな声で栄えていただろうその広場は、崩壊した瓦礫の山に埋もれていて。
 人々が穏やかに時を過ごしていただろう世界は、無味乾燥と乾いた風が流れるばかり。
 紅く彩られた舞台に佇んでいた少女は、ただ寂しげに顔を伏せていて――
「――クーナ?」
 ヴァントが声をかけるまで、決して動こうとはしなかった。
 少女が気づき、こちらへ振り返る。蒼紅の髪を風になびかせて。
 いつものアイドル服でも、戦闘時の服でもない、黒を基調としたワンピース。それは喪服のようでもあった。
 ヴァントと同じ、蒼の羽飾りに手を振れながら、
「ヴァント。どうしたの?」
「人を待っていて、な。お前こそ、どうした?」
「――昨日さ。ここで、歌う予定だったんだよ」
 ヴァントの前だけで見せる、年相応の悲しげな表情。
 仰ぐように空を見上げて、彼女は涙を流すように言葉を紡いだ。
「急な突発ライブを命じられてさ、お偉いさんに。機材の準備とかで手間取って、夕方の予定が夜にずれ込んで――それでも、皆が笑って楽しんでくれれば、って思ってたんだ」
「夕方? 急に?」
 クーナの言葉に引っかかりを覚え、問い返す。彼女はただただ頷いた。
「うん、昨日のお昼に急にだよ。トラブルのせいでずれ込まなかったら、きっと襲撃に巻き込まれてたーーでも、それでも良かったよ。逃げて、って叫べただろうから。マイを持って、戦えただろうから――」
「一人でも、死ぬ人を減らせただろうから?」
「――うん」
 彼女は力なく笑った。手遅れだと、もう戻らないと理解しながら。
 あり得ない未来を望んで、泣いていた。
「――ここで、きっと誰かが死んだ」
「そうだな」
 少女が、そっと紅に手を付いた。乾いた紅に手を振れて、
「そんな人達がいなくなっても、献花すら贈られてない」
「町外れの広場だ。憩いの場として使われていた場所を、最優先で復興する訳にも行かない、か」
 彼女は、静かに頷いた。
 理屈は理解して、されど感情は納得しない。
 だから、きっと。
「――だから、私はここに来たの」
 彼女自身の想いを、感情を形にするために。
「果たせなかった歌を、歌うために」
 クーナは、静かに息を吸い込んで――

 鎮魂の唄が、流れ出した。
 静かなうちに、確かな希望を紡ぐ唄――『永遠のencore』が。

 少女の声は、残酷に晴れたストリートエリアの空へ、高く遠く響いていく。
 さよなら、を受け入れて。ありがとう、と世界に告げて。大好き、と世界から消えた皆へと告げて。
 涙を流して、少女は一人、懸命に唄う。決して唄いたくなかっただろう、唄わなければならなくなっただろう唄を。
 彼女が世界に、消えた人々に伝えたい叫びを。
 ――こんな唄……聞きたくは、なかったな。

 残された者の魂を震わせる、酷く悲しい鎮魂歌。
 逝ってしまった人達を過去として受け入れる、絶望を越えて進むが為の唄。
 故に――ヴァントは、静かに目を伏せた。

 ――二度と、泣きながら唄わなくても済むように。
   クーナの涙を、二度と見なくとも済むように。

 ヴァントは一人、世界を見上げた。
 急なライブ命令――これも、恐らくは全てが計算の上。
 敵の標的は、間違いなく――ヴァント自身と、それに繋がる者達。
 その為に、これほど多くの命を巻き込んだ。そして、ヴァント自身に連なる命を破壊したーー
 ――落とし前はつけさせる。
 手の内で輝く運命を握りしめて、ヴァントは世界へと言葉を落とした。
「――待っていろ」




 ――あとがき。
 今回も物語にお付き合いいただきまして、ありがとうございました。
 うんまぁ正直に言おう。この展開を書きたいが為に彼には地獄の責め苦を与えた( ・・)b
 こんな感じで、直接的にでなくとも間接的に妨害をしてくる可能性は全然あると思うんですよね、EP2。
 故に「あり得たかもしれない物語」を書き上げてみました。

 続きはいつになるかわかりませんが、どうぞ気長にお待ちくださいませ。
 なお、今回の物語について、相方が同じく物語を書き上げてくれていますが、自分の其れより明らかに書き込まれています。其れでいて書き上げる時間が自分の十分の一ってどういうことなの(;; )

 目を開けて見るべき話 前編
 目を開けて見るべき話 後編
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テーマ : PHANTASY STAR ONLINE2
ジャンル : オンラインゲーム

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非公開コメント

うおぉー!

シオンが出てきたよw
ユキナミじゃなくてヴァントが軸だったのか!
つーかこれ、何部作なんだ?w
EP3始まるぞw

Re: うおぉー!

<り~ぜさん
 多分この部で完了するはず(・・
 EP3前までには、まぁ、無理(・・
プロフィール

ヴァント

Author:ヴァント
 PSO2世界を旅する、気楽な放浪者の綴り草です。
ツイッターやってます。

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