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Possible world~ある襲撃~

 物語は続きから、ご覧下さい。



 ショップエリアで買い込んだ、冷えに冷えた缶ビール。
 タブを開けばカシュ、といい音が鳴る。少し溢れ出す麦酒の泡は、実に良い香りで。
 そのまま、簡単にジョッキに注ぎ込む。悲しいかな、もう一度注ぎにも慣れてしまった。
 テーブルに並べた柿の種やらスルメやら、おつまみの準備も万全だ。ラピピ用の果物の類も。
「――うーっし、ラピピー。準備できたね?」
 リリィは傍らの鳥に、ジョッキを手に声を掛けた。
「ぴぴぃっ!」
 彼の返事は、自家製リンゴジュース入りコップを持った片羽を持ち上げることだった。
「そんじゃ、二人が上手くいく事願って乾杯ー!」
「ぴ、ぴっ!」
 グラス同士を打ち合わせ、小気味良い音をかき鳴らす。そのままジョッキを、一気に口に。
 グビ、グビ、グビ、と飲み込んで。プハァッ、と一息ついて。
 リリィはにんまりと口角を上げた。
「ま、映画館入っていったの見届けたし、あの様子ならどうにでもなるでしょ」
「ぴぴー♪」
 特製グラスによるリンゴジュースを楽しみながら、ラピピがニコニコと同意する。
 リリィも同じく笑いながら、ジョッキを飲み干して――
「後はあたしの相手……喪女は嫌ー」
 想像してしまって、思わず顔を俯ける。
「あーあー……いや、別にさー、あたしもまだ若いけどさー。周りがカップルで埋まっていくとさー……」
「ぴぴぃ……」
 そっと頭を撫でられた。此れだけの事でも、少し嬉しく感じる――獣好きな訳ではないけれど。
「さってどーしよ、このまま飲み続けても良いんだけど、折角マスターの部屋使える訳だし。つばっきーとマンルーンでも呼ぶ?」
 マンルーン、椿。
 ヴァントの知り合いかつユキナミ、リリィ、リユイ、ラピピ全員の知り合いである、背丈の小さい不思議少女なヒューマン女性、クーガ――クーちゃんと呼んではいるけれど――と、特徴的な詩を謳うことにより、明らかに規格外な効力を発揮するテクニックを扱うニューマン女性、諷雫(ふうな)。そんな、彼女達のサポートパートナー達。
「椿らも今日は特に予定無かった筈だしね、誘ってみよっかー」
「ぴぴぃ♪」
 ラピピの方も乗り気だ。いそいそと、腰にあるアイテムパック――ヴァントが彼の為に何処からか調達してきたもの――の中から追加の果物を出してきた。
 実際、酒盛りも二人だけでやるには少々寂しい気もする。そうと決まれば、六芒の六にも連絡してやろうか――

 刹那。
 部屋が――世界が、揺れた。
 ――?!
 どこか遠くから響いた重たい揺れに、テーブルのつまみが乱舞する。慌てて皿ごと引っつかんで、事なきは得るものの、ジョッキの方は派手に中身が飛び出していた。
 正面で、ラピピもくるくる目を回している。だが、そんなことはどうでもいい。
 ――待て。揺れるってなんだ。船だぞ、ここ。
 以前、単独でナベリウスをうろついていた時に大地が揺れた事はあった。それを地震というのは調べて知ったが――
『船が揺れる』ことなどありえない。ましてや、アークスシップ・ソーン――各アークスシップの中でも、最大クラスに重要な拠点とされている場所。運行に支障など出る筈が無い。
 つまりは――

<緊急! 緊急警報発令!>
 ――やっぱか!!
 予想通りに響き渡った、全情報よりも最優先に伝えられる、緊急警報のアナウンス。
 酷く上ずったブリギッタの叫び声に、最悪の事態だという事を嫌が応にも認識させられる。
 先ほどの衝撃と、突然の緊急警報――導き出される答えは、たった一つ。
「ラピピ!」
「ぴぃ!」
 彼も認識は出来ていたのだろう、両羽にはいつものヤスミニコフが構えられていた。
 リリィも愛用の弓――ナスヨテリを引っ掴んで、即座に部屋を飛び出した。

<アークスシップ・ソーンがダーカーの襲撃を受けています! 繰り返します! アークスシップ・ソーンがダーカーの襲撃を受けています! 至急、アークス各員は――!!>

 誰一人いない部屋の中に、緊急事態を叫ぶ声だけが、延々と響き渡った。




 吹き荒れる紅黒の暴風。遠方に溢れ出す、絶対敵対存在――ダーカーの存在。
 其れを上回る轟音と、空から注ぐ瓦礫の雨霰。
 ――……ッ……!
 呆けたのは一瞬。刹那にリユイを抱き締めて、後方へ飛び退く。
 が、間に合わない。落ちてくる瓦礫の範囲が広すぎる――
 ――秋断、違う駄目だ! 此処じゃ――!
 アークスシップ内では、基本的に武器の使用が制限される。正確には、武器にフォトンを纏わせる――通常使用できる状況へと持っていくことが許されない。この状況では、秋断と言えどただの槍に過ぎない。
 破るための解除用パスワード――非常用にアークス本部から伝達される物――もまだ届いていない。このままじゃ――

「――ッ、ァァッ!!」
 腕の内から、悲鳴にも似た絶叫。
 抱き締めていたリユイの腕が、空へ向かって伸ばされて――轟、と。
 緑の暴風が、結界のように頭上へと張り巡らされた。
 まるで雨から守る傘のように――降り注ぐ瓦礫を全て弾き飛ばす、風の防壁。
 ――テクニック!
 降り注いできた瓦礫の雨が綺麗に片付くのを見つめながら、ユキナミは内心で思考を巡らせた。
 ギ・ザン。奏者の中心から、周辺に風の結界を張り巡らせる其れ。
 本来、アークスシップ内ではテクニックの使用は禁止されている――フォトンを体内に放出する、という行為への禁止命令。
 されど、其の命令に穴が無い訳ではないとは以前誰かが話していた――通常想定される量を遥かに超えるフォトンを生み出し、結果として体外へ溢れ出した極一部のフォトンを弄って発動させる事は可能だ、と。
 だが、本来の威力が一だとすれば、使用する為に作り上げるフォトンは十を超える、と。
 そのテクニックを、リユイは武器による補助も無く解き放った。其れも、通常に、武器を介して放つ其れと同規模の物を――
 雨霰が止むと同時に、風の結界が消失する。同時に、突き上げるように伸ばされた腕が、力なく崩れ落ちた。
「リユイ!」
 ユキナミの叫びに、彼女は腕の中で、緩やかに笑いながら、
「ユキナミ、さん。怪我、してない……よか、った――」
 カクン、と。少女の体から、力が抜ける。
 命を失ってはいないが、気絶したようだ――テクニックの使用を封じる障壁を無理やり壊したのだから、それだけの反動が有っても当然かもしれない。
 ――ありがと、リユイ。
 瞼を閉じた少女の体を、近くのベンチに――見つかりにくい箇所に、緩やかに横たえる。穏やかに寝息を立てる少女を少しだけ見つめて――
「守ってくれて、ありがとね」

 ――だから、今度は僕の番。
 リユイから僅かに離れ、手持ちのアイテムから秋断を取り出す。
 普段であれば、気負うことも無くフォトンを展開出来るのに、解除パスが届いていないこの場では、何の価値もない、刃付きの棒切れ――
 其れも、一つだけ破る方法はある。リユイが行った其れと、全く同じ――
 ――ッ、ガァァッ!
 想定外のフォトン量を流し込み、無理やりに制限を解除する。
 流し込む右腕が痛い。腕や掌に、反動の裂傷が走る。構わずに、ただフォトンを流し込む――
 パキン、と音を立て。秋断の全てへと、フォトンが巡るのが感覚で理解できた。制限の強制解除――正確に言えば、制限破壊。
 ――これで、準備完了。
 無茶なフォトンの使い方に、全身が軋むのが分かる。右腕の数箇所が裂け、血が流れ出すのを感覚で理解する。
 其れでも、今は行くしかない。せめて、リユイを安全な場所へ送り届けるまで。
 横たえた彼女の体を、再度、背負いなおす。少女の体を左手で、秋断を右手で構え。
 ユキナミは、薄暗く蠢く光の方へと駆け出した。





『こちらA2! 解除パスはどうした、こねぇぞ!』
『B4! ダガンの群れが一般人に襲い掛かってる、至急援護して!』
『フォトンキャノンしか武器がねぇ! 早く解除パス、誰か知らないのか!』
『どうやら、本部から情報が来ないようです……! 此方から問いかけても、ノイズしか聞こえてきません……!』
「――さて、どうしようかな」
 喧騒の渦中にあるストリート・エリアの外れ。
 ショッピングモールの外に陣取った少女――朱雀は一人、転送されてきたフォトンキャノンに乗ったまま、誰にも聞こえない声で呟いた。
 遠くに見える紅黒の輝きは、明らかな不吉を運んでくる物で――非常事態宣言は、初めの緊急事態を示すアナウンスで放たれたが、最悪な事に其れ以上の連絡が来ない。この区画における、武装の解除パスワードは愚か、一切のアナウンスが停止してしまっている。
「通信障害が、こんな時に? 最悪すぎるね」
 チャージし続けながら、ただただ呟く。
 襲撃時に、緊急のアナウンスを一度出して、即座に通信切れ――故障という形では有り得ないだろう。何かによる妨害。恐らくは、ダーカー――そんな事がありえるのかは、分からないけれども。
 他シップからの救援も時間がかかる。最高なのは、他シップ介入前に戦闘が終了する事――其れだけ被害を最小限に抑えられるという事だから。
 其れが有り得ないという事も、分かっているが。
 今の所武器はガドリングとフォトンキャノンだけだ。
「せめて武器を置いてこなければ、制限破壊が出来たのだけどな」
 其の後が余りにも絶望的になるとはいえ、現状よりはまだマシだ。ただ、今手元にある武器はモニカによって半端に弄られた武器しかない。解除した所で、其処まで役に立つ未来が見えない。
「――えぇい仕方ない、頑張りますか!」
 朱雀は己を鼓舞するように叫んでから、フォトンキャノンの射線合わせに入った。




「だぁぁぁっ!!」
 有象無象。
 視界に広がる数体ずつの、鶏のような丸い円を持ったダーカーの群れを横薙ぎ一閃で切り飛ばしながら、ユキナミは静かに呼吸を整えた。
 キリが無い。ダーカーの躯で築き上げた屍山血河を後ろに、内心でただ呟く。
 十分以上はリユイを抱えて走り回ったけれど、行く先々がダーカーの群れで溢れ返っていて、転送装置を探すどころか他の人影と出会うことすら出来ない。
 挙句、溢れ返ったダーカーに追われて、始まりの公園に舞い戻ってきてしまった。
 ――ここが、一番安全だけれど。
 目についた次の群れへと秋断を振り回しながら、背後に一瞬視線を投げる。
 公園のベンチで眠る、未だ目を覚まさない少女――リユイ。初めのテクニックの反動が大きすぎたのか、起きる気配は微塵もない。
 この公園は、出入り口が一箇所で、かつ周囲の視野が広くまで広がっている。故に、敵の襲撃についてはほぼ問題なく、リユイを休ませていられる。
 無論、其の分――
 ――僕の負担は、大きくなるけど。
 前方で空間が歪み、のそりと鯨のような鳥が顔を出し――間髪入れずに斬撃を叩き込む。
 瞬時に塵に変わった其れを無視して、前方に突撃。槍を持った鳥人間を二匹まとめて串刺しに。そのまま横薙ぎを振るって、隣で棒立ちしていた一匹の首を飛ばした。
 されど、紅黒の光は、未だに薄まる気配を見せず。
 ――リユイを、守れるのなら。
 終わりの見えない戦場の中で。
 ユキナミは次なる獲物目掛け、跳躍した。




「――いい加減に消えろーっ!!」
 轟、と。燃え盛る焔の隕石が、狙い済ました位置へと着弾。
 蠢いていた鶏どもを焼き殺し、瞬時に塵へと変えながら、次なる獲物へと目を凝らす。
 飛来する武器を持った鳥のダーカーへと狙いを変えながら、リゼットは苛々と声を上げた。
「あーもう、寝てればよかったー!」
 隠すことの無い本音である。余すこと無い感情の咆哮。
 酒を飲んでいい気分で眠って。
 目が覚めて、いつもより早く起きちゃったなーとか思ったら、けたたましい緊急警報が鳴り出して。
 慌てて武器持って飛び出してみたら、この様だ。
 ストリートエリアまでの道は中々繋がらず、補給は断たれ、挙句に同時に降りてきたアークスの大半は既に倒れていた。
「――本部とも連絡付かないしー」
 まともな返事を吐き出さない通信機を忌々しく思いながら、ラ・フォイエを解き放つ。
 消えゆく焼き鳥を見送って、苛々と舌打ちする。まだまだ、敵の姿が消える気配が無い。
「――何より、元から居たアークスに解除パスが届いてないってどーいう事よ!」
 フォトンを溢れるままに術へと変えて、辺り一面を焼き尽くしながらただ叫ぶ。
 本来、市街地――否、アークスシップにダーカーの襲撃が発生した際は、其のエリアに存在するアークス達に、武器の解除コードが配布される。其れを自分の操作機器に入力する事で武器が使用できるようになる。
 普段であれば侵入が認められた十数秒後には伝えられる筈が、今回は何故か通信障害が発生しており、殆どのアークスが武器を使用できないまま戦闘に入り、死者すら発生する事態になっている。
 無論、一般人の被害は其れより酷い。このタイミングで、何故通信障害が発生したのか。
 考えても分からないとはいえ、気になるのは致し方ない。
「――仕事しろよー、本部ー!!」
 高めたフォトンを解き放つ。辺り一面に炎の花を咲かせながら、リゼットは苛々と咆哮した。




 ――これで、一旦、終わった?
 全力で公園を走り回って。
 来る敵全てを塵へと変えて。
 全身を返り血で濡れたまま。
 ユキナミは一人、少女の傍で、肩で息をして座り込んだ。
 どれほどの敵を倒し続けたか、もう覚えていない。どれだけ戦い続けたかは、全身の疲労が全てを語っている。
 既に、公園から敵影は消えた。其の周囲からも、特にその存在は感知しえない。周辺のダーカーは死滅した、として良さそうだ。
 ――でも、まだ。
 疲労の残る体に鞭打って、緩やかに立ち上がる。少し休めた。それで十分。
 出入り口の先へと視線を投げる。辺りに溢れ返っていた雑魚とは違う、強大な気配――少なくとも、今まで感じた事のない気配。
 はっきりと分かる敵が、此方へ向けて近づいてくる。其の情報だけで、立ち上がるには十分すぎた。
 ――周囲に居るのは、アイツラだけ。
 敵性存在との戦闘――それも、明らかに激化すると捉えて構わない戦闘。
 リユイの眠るこの場所から離れるには、十分すぎる理由であって。
 ユキナミは、戦場へ向けて駆け出した。

 ――待ってて、リユイ。
   必ず、戻ってくるから。




 轟、と空から降りてくる槍。
 背後から迫り来る一羽のソルダ・カピタ。其れに狙われた、フォースの行動は――
「――甘いっ!」
 瞬時にロッドを叩き込み、槍の穂先をずらすと同時に、全力で蹴り飛ばした。
 スカートが大きく翻って、鳥人の体が地上へと叩き付けられ――其の頭に雷撃が着弾した。
 蹴り飛ばしから、術の発動まで。流れるように放った女性アークスは、静かに息を吐いた。
「――その程度で私に戦を挑むとはなめられたものだな」
「リーン、終わったなら逃げる奴打ち落とすの手伝ってくれるかなー」
 ガガガガガガ、と小気味良くフォトンの弾幕を張っている少女が、草臥れた声で相方の名前を呼んだ。
 其れに振り返ったフォースの女性――リンは、即座に法撃の詠唱を開始した。
「イリス、大丈夫ですか?」
「怪我は大丈夫さ、少し疲れてるけどね。全く、ナベリウスから帰って来たら随分な事になってたものだ」
 イリスと呼ばれた少女は、呆れたように肩を竦めた。弾丸の雨は止まないまま、周囲を双機銃の銃撃が飛び回る。
 近づこうとしたダーカー達が蜂の巣になって、遠く離れたダーカーは攻めあぐねたように離れていく――其処に、リンは雷撃を降らせた。
 時々合間を縫って肉薄したダーカーはロッドでいなし、銃弾のカーテンに蹴り戻す。
「このエリアももう少しで制圧完了ですね」
「被害は、結構大きいけどね」
 一通り撃ち殺したか、イリスが双機銃から長銃へと持ち替える――弱点属性を付加する弾丸を装填しながら。
「……そうですね」
 リンは静かに呟いて、そっと周囲を――『間に合わなかった』被害の全容を見回した。
 ストリートエリアでも、比較的被害は少ない場所だったと聞いている。其れでも、崩れた瓦礫や、潰れた建物――ピンク色の肉片や、赤い液体が流れ出している情景は、どう見ても悲惨、其れでしかなくて。
「……急ぎましょうか、次に」
「そうだね、行こうか――」
≪エリアE1、ベイゼ出現!!≫
 ピリッ、と。全身が総毛だった。
 ベイゼ――ダーカーが使う空間侵食兵器。
 周囲からダーカー因子を取り込んで巨大化し、最後には爆発して周囲一面にダーカー因子の雨霰を撒き散らす兵器。
 爆発されたら、一体どれほどの被害が出るものか――
「エリアE1は、此処から遠いですね」
「そうだね。普通なら、向かうべき距離じゃないけれど――」
 そこで、イリスはにやりと笑った。返事を理解したように、楽しげに。
「行くんでしょ?」
「無論」
 リンもまた、迷い無く返した。
 普段であれば、誰か他のアークスに任せるのがベストだろう。三区画ほども離れた場所だ、到達する前に破壊されているのが常である。
 されど――
 もし、誰もが間に合わなかったら?
 行かなかったことで、火力が不足してしまったら?
 壊れた繭から巨大ダーカーが出現したら?
 何よりも。
 誰かが助けを求めた声を、遠いからと切り捨てる理論があってある物か。

「――急ぎましょう」
「勿論」
 そうして、アークス達は走り出した。
 未だ混沌溢れる、戦場の中へ。




 ――いた。
 公園から走り始めて、数分と経過してはいないだろう。
 されど、ユキナミの感覚は先に存在する敵を、確実に捉えていた。
 ゆらりと近づく気配を前に、走るを止めて秋断を構える。
 やがて、見えてくる影を前にして。
 ――なんだ、あれ。
 ユキナミは、驚愕と共にそれらを見上げた。
 ぐるりと、巨大な円を書いたような胴体に、申し訳程度に生えた二本の腕と六枚の羽。そして、騎士の兜にも見える顔面と、胴体の中央に見える顔の紋様。後ろに延びる、いくつもの縁がついた巨大な尻尾。
 そして、似たような鳥が、他に二体――。
 巨体にもかかわらず、低空を飛びながら、此方へと視線を向けていた。
 ――ラグネと同クラスが三体、か。
 近づいて見えてきたそれらは、少なくとも、ユキナミにとっては初見の相手であった。
 本部からの情報がなぜか届かないので確信はできないが、こんなダーカーの出現報告は、今まで一度たりとも上がっていない。
 調子が最悪の時に、初見の相手とは、ついてない。が、文句ばかりを言っている暇もないし、相手も其れを許してはくれないだろう。
 周囲に雑魚の姿は見えない――既に町中へ流れ込んでいると判断する方がよさそうだ。
 ――なら、何でこいつら行ってないんだろ。自分を待ってたわけでもないだろうけど。
 だが、接近するこちらに気づいたか、正面に居た一匹目の鳥が、待ちわびたように声を上げた――それに、残り二匹も同様に。
 其れは、紛れもなく戦闘開始を叫ぶ声。ユキナミは、秋断を握る手を強くした。

 仕掛けてきたのは、向こうが先だった。
 先頭の鳥がふわりと空に浮いて――まき散らしたのは、炎の雨。くるくると回りながら放射線状に放たれた其れに、即座に走る方向を曲げた。
 そこに、視界の端で何かが光って――即後ろへ。慣性の法則で、僅かにしか戻れなかったが、其れで十分だった。眼前を、分厚い光が通り抜けていく――冷気を伴った其れが。
 息つく間もない。バリバリ、と空気が爆ぜる音――光が消えた、前へとダッシュ。後ろで稲光が走ったのが、肌の感覚で分かった。
 ――炎に、氷に、雷。死ぬほど面倒だ、こいつら。
 内心で吐き捨てながら、炎が尻尾を振りかぶるのを見やる。
 前へ、接近。振り下ろされる尾を受け流し、秋断を振りかざし――足を止めて、真横へ飛ぶ。また、氷の光線が飛んできた。
 近づけない。攻撃の合間をかい潜って突撃しようにも、一匹を狙えば残り二匹が邪魔をする。普段の移動速度じゃ無理――いつもの状態。フューリーを発動させる必要がある。
 ただし、一撃貰ったら貰った部位は崩壊するし、何より残フォトン量が限界。使えば最後、どれだけの反動が待っているか。想像したくもない。
 背後から影。タン、と後ろへ。今し方居た場所を、雷を纏った鳥が突撃し、貫いていく。
 ――何より、隙がない。
 発動に、数瞬の時間が必要。其の間微動だにできないから、死ぬ危険性が高すぎる。
 どうにかして、奴らの動きを潰さないと――
 ――無理やりにでも、押し通る!
 蓄積した疲労に、体が重くなる。其れを気力で飲み込んで、飛来する三鳥を睨みつけた。



「――あんだらぁぁぁ!!」
『キシャァァァァ!!』
 ガガガガッ、と激しい戦闘音が、ストリートエリアに響き渡る。
 ブリューリンガーダが周囲を刻むように放つ斬撃の嵐に対し、真正面から短杖で殴り合っているヒューマンの男――不死なる男、スウ。
 傍目から見れば無茶であり無謀でありながら、斬撃の中心で弾くでもなく受け止め、殴り続ける其の姿は異様であり――頼もしく。
 真正面から引き付けてくれている間に、サポートパートナーの少女は冷徹に弓を引き絞った。
「はっ!」
 放たれた三本の矢が、僅かな曲線を描いてダーカーの腹部に突き刺さる。されど、意に介した様子も無く、ダーカーが少女へと意識を向けて――
「そのまま撃ち続けろぉ!」
 其の横っ面に、短杖がめり込んだ。体制を崩したダーカーに対して、ここぞとばかりに男性が武器を持ち帰る――無骨な刃を持った、ソードへと。
「次こそ貫きます!」
「よく言ったぁ!」
 体勢を崩した相手に、大降りな残撃を連続して叩き込みながらスウが吼えるのに、サポートパートナーの少女、マンルーンは弓矢の連撃で応える。
『ギィェェァァ!!』
 突如として弾かれたように飛び上がったブリューリンガーダが、轟、とスウへと突撃。巨体に似つかわしくない速度の其れを回避し、スウがまた接近戦へと持ち込んでいく。
 既に彼の全身は未曾有の打撃、斬撃を受け入れ、本来であれば死亡状態となっていてもおかしくは無い筈。
 生来が堅固な肉体なのか、まだまだ倒れる様子は見えないが、其れでも危険域にあることは間違いない。
 周囲のアークスもテクニックやライフルで援護を繰り返してはいるが、まだまだブリューリンガーダの動きに衰えはなかった。
 スウが倒れる前に、仕留めなければ。
 マンルーンは新たな矢を番え、狙いを定めた。




 グン、と途方も無い勢いで雷が近づく――その軌道を見切って回避、過ぎ去り際に一撃。浅く切れた羽が舞って、僅かでもダメージを与えた事を理解する。
 ――よし。
 三匹の巨大な鳥との戦いを開始して、どれほどの時間が経過したのか覚えていない。
 疲労は酷く、至る所に裂傷を負った。動き続けられるのが不思議な程に。
 それでも、まだ生きている。刃を振れる。
 向こうも、無傷ではない。
 炎鳥の羽を一枚飛ばして、氷鳥は腹部にヒビを走らせた。雷鳥については、首に裂傷を与えた。もう少し深ければ、切り飛ばせた程には。
 一匹落とせば、残りは楽になる。このまま行けば――
 勝利が頭によぎった、その瞬間だった。

『ギイィェァァァ!!』
 耳障りな叫びを、三匹が同時に放った。
 一瞬呆気に取られた。其の隙に、向こうが襲いかかるでもなく、ユキナミから離れていく。
 意味の分からない行動に、思考が停滞する。
 故に、気づくのが遅れた。
 奴らを中心とした四方、広範囲――見覚えもない、紅黒の光を放つ柱。
 其れが、地上からそびえ立っていたことに。
 ――なんだこれ。
 上部で輝く禍々しい光。其れ全てが、中心で動かない鳥達へと集っている。
 ――ヤバイ。
 感じたままに、最も近くにあった柱に横薙ぎを叩き込む。壊れない。
 二度、三度――バキィ、と音を立て、柱が砕け、崩れ落ちた。其れを確認して、次へと意識を投げる。
 が、そこまでだった。
 役目を果たしたとばかりに、振り向いた先で残った柱が崩れ落ちていく。中心にいた鳥達の周囲に、膨大な光が渦巻いて――

 地上が、揺れた。
 反射で、後ろへ飛ぶ――直後に、衝撃。真横へ、吹き飛ばされる。
 まともに呑まれた――受け身も取れず、どこかへと叩きつけられた。
「ガッ……!」
 意識が飛ぶ――血が溢れ出す。
 まだ、生きている。
 逆流してきた血を吐き出して、深呼吸。
 状況確認。
 吹き飛ばされて、どこかの建物の壁の中。
 ――……あー、くそっ。
 左腕――肩から先の感覚がない。皮一枚繋がることも無く、千切れ飛んだ。
 他は無事だが、衝撃が大きすぎる。フォトンによる治癒が追いつかない。
 遠からず、殺される。
 ――反則だろ、あんなの……。
 あの瞬間。
 四つの柱から集約されたエネルギーが、空間全てに放出された。
 膨大な衝撃波に周囲は殆ど崩壊し、奴ら以外に動く気配は見えない。
 ユキナミ自身も、相当遠くまで吹き飛ばされた。
 一本を叩き壊せて、なおかつ後ろへ飛んだからこのダメージで済んだけれど、まともに喰らったら骨も残らず消えていた。
 幸い、リユイを寝かせた公園は遠く、巻き込まれてはいないようだけれど。
 ここで倒れたら、間違いなく、彼女も、死ぬ。
 ――……ッ。
 ぼやけた視界の中で、ダーカー達が、こちらへと近づいてくるのがわかる。
 自分達の優位を自覚してか――慎重に、ゆっくりと。

 ――……あの速度、なら。
 既に自身は満身創痍。リユイを抱えて撤退する事も、今となっては恐らく不可能。
 生き残る為に――守りきるために。
 残された手段は、たった一つだけ。

 ――リユイ。

 ユキナミは静かに目を瞑って、全ての感覚を断ち切って――意識を一つに、集中させた。





 戦況は、全ての戦場で刻一刻と、終わりへ向けて加速していた。
 望むと、望まぬとに、かかわらずに。



 ――あとがき。
 今回はあえて、何も書かずに。
 次なる物語にて、お会いしましょう。
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