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聖なる日の一風景。

 其れの出現は、カップル間に胸焼けしそうな空気が漂っている聖なる日の、ショップエリアの一角であった。
 普段なら程よい緊張感が溢れているアークスシップではあるが、この日に限っては緊張感は愚か、戦場の気配等欠片もない。
 ショップエリアの広場には愛を確認しあうカップル達と、己の施したエリアの装飾に満足そうに笑うシーの姿が。そして、隅の方で世界を呪っている独り身達が居る程度だ。
「――はい、これ」
 そんな中、恋人達の群れの中で待っていたヴァントは、にこやかな、照れくさそうな表情で、少女――クーナが取り出した其れを受け取った。
 少女は普段は見ないワンピース姿で、やわらかく笑う姿は、どこにでも居るような年頃の少女にしか見えない。
 可愛らしくラッピングされた、ハート型の小さな箱。桃色のリボンで巻かれた其れを受け取って、ヴァントは静かに首をかしげた。
「此れを渡すために、わざわざ此処に呼び出したのか?」
「うん。駄目、だった?」
 上目遣いに見つめてくる少女に、彼はただただ困惑気味に頭を振った。
「いや、別にそういった訳じゃないが……別に俺の部屋でも良かっただろう」
「だって、折角だし……恋、人的な、その……」
「? すまん、聞こえにくいのだが――」
「――あーもう! ほら、良いから空けてみて! 折角のプレゼントなんだから!」
 林檎のように真っ赤になって、少女がぐいと押し付けてくる。ヴァントは静かに、ためらいも無く、其れを空けた。


 瞬間――周囲で人目も憚らずに睦言を交わしていた恋人達が。エリアの隅で世界を呪っていた独り身達が。
 誰一人訳隔てなく、その場に居た全ての者が。
 ――泥のように重たく冷たい、強大な圧力を感じ取った。
 近くに居た者達が慌てて離れて、遠くの者達が一斉に視線を向けた。
 最も、其れの最も近くに居るヴァントとクーナは、周囲の様子など何一つ見ていなかったが。

「ふむ。チョコレート、か?」
 少年が、右手に持った其れを手に淡々と呟く。其れが聞こえたのだろう近くに居た誰かが、恐慌状態になったかのように違う違う、と小声で呟いた。
 ヴァントの手にある何かは、色こそチョコレート色ではあったが――泥状に固まって凸凹した表面と、廃棄物を煮詰めたかのような、嗅覚を崩壊させる匂いは、世間一般で食される物とは明らかに違う。
 ただの食物から作り出された筈であった物体は、ダーカー侵食を受けた巨大生物よりも凄まじいプレッシャーを放っており、甘ったるかった空気を刹那に死が満ちる戦場の其れに塗り替えてしまっていた。
 アレを食うか裸で地獄竜の前に立つかを選ばされたら、百人中百人が後者を選ぶだろう、そんな途方も無いプレッシャーだ。
「うん。そのさ、あたし、料理は壊滅的に駄目だけど、頑張ってみた。良かったら、食べて欲しい」
 創世器を使い続けてきた事と、彼女自身の能力も合って、普段はクーナの気配はこのショップエリアにおいて感知される事は少ない。
 されど、今は彼女の存在ははっきりと認知されるレベルであった――途方も無いプレッシャーを生み出した発生源として、ではあるけれど。
「分かった、ありがとう。頂こう」
<え、食べるの? あの人、本気で食べるの?>
<死ぬぞ? 死んじまうぞアイツ……?!>
<リア充爆発とか言わねぇ、もう言わないから其れはやめとけって!>
 周囲で囁かれる言葉達も、ヴァントの耳には届かない。そうして、
 ――ガリッ。
 最早食物が鳴らす音ではない異音と共に、少年は手にした何かへと噛り付いた。
 ガリゴリと、木切れでも喰らうような音と共に其れを飲み込んで――停止する。
<やばい、ほんとに食べた! 誰か医者、医者!>
<アンティ使える人、すぐに準備――>
<ふむ、危険なんじゃないかな>
「――ど、どう? 美味、しい?」
 そんな訳あるか、と周囲全てが叫びだしそうな言葉を呟いて、クーナがじっとヴァントを見やる。
 食べ終えたまま停止していたヴァントは、そうして――

「少し硬かったが、美味かったぞ」


 広場にいた、当該二人を除いた全員が安堵し崩れ落ちた光景は、バレンタインの珍事として、アークスシップを一日足らずで掛け巡ったのだそうな。






 ひさしぶりの更新がこんなんで良いのでしょうか、えぇもう本当に。
 此方はナスヨテリ拾って弓練習始めたりとかしか書くことがなかったので、一切更新してませんでしたが、一応生存しております。
 なお、クーナが作ったアレを常人が食べたら間違いなく最大HPが一桁まで急落すると思います。ヴァントが平気だったのは、愛の力とかそんなんじゃなく、長年の放浪能力から「ダーカーの肉片ですら」「生のまま」喰らって飲み込める程度に発達してしまった胃袋のお陰です。えぇまず間違いなく。
 それでは、本日はありがとうございました。
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テーマ : PHANTASY STAR ONLINE2
ジャンル : オンラインゲーム

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Author:ヴァント
 PSO2世界を旅する、気楽な放浪者の綴り草です。
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